龍谷 2009 No.67

Hot Angle│JICA研修プロジェクト「貧困削減のための地域開発」
 

 JICA(独立行政法人)が1997年からおこなった『開発途上国の貧困問題に対する支援計画』(※1)に、5年間にわたって龍谷大学が参加した。それをきっかけとして2003年に立ち上がったのが『JICAと龍谷大学の共同研修プログラム』(※2)だ。
 これは、龍谷大学が受け入れ先となって、貧困問題を抱える開発途上国からの研修生の長期研修をおこなうもの。プロジェクト発足当初から精力的に活動をおこなってきた河村能夫経済学部教授とJICA大阪の木梨陽子さん、そして現在、龍谷大学に留学中のベリーズ、エチオピアからの研修生ふたりに話を聞いた。


※1 : JICA国際技術協力プロジェクト「インドネシア・スラウェシ貧困対策支援村落開発計画」
※2 : JICA長期研修プログラム「貧困削減のための地域開発」


互いの問題意識から学ぶ

互いの問題意識から学ぶ

 メキシコ南東部、ユカタン半島の付け根に位置する国ベリーズ。人口約30万人この小さな国が抱えている貧困問題は地域格差。人口の約3分の1が貧困問題に苦しんでいるとされ、都市部と漁村・農村部の貧富の差が大きい。ベリーズからの研修生、アービナ・レディ・グリーセルさんは「このプログラムでは、貧困問題を抱える開発途上国からの研修生同士での交流や意見交換がとても参考になるんです」と話す。
 現在はベリーズ、エチオピア、スリランカ、中国、ネパール、ラオス、カンボジアの7カ国から8名の研修生が龍谷大学に留学し、講義やフィールドワークを通じて自国の貧困削減のための方法論を学ぶとともに、互いの国が抱えている状況や問題についての議論をおこなっている。
 エチオピアからの研修生、テショメ・テメスゲン・ティラハンさんは、人口の38%とも言われる自国の農村地域における貧困削減について学んでいる。
 「エチオピアでは、特に対策に緊急を要するレベルの貧困層は約400万人にも上ります。農村地域の貧困問題には、農地改革などいくつもの要素が絡み合っているので、簡単に答えを出すことはできません。現在、一緒に学んでいる研修生の人達が持っている知識や、その国の文化なども吸収して自国が抱える貧困問題の解決策を考えていきたいと思っています」。
 河村教授は、このプログラムのもっとも大きな特徴に教員や研修生同士が互いの問題意識や文化背景を共有しあうことを挙げる。
 「自国が貧困問題を抱えているという点は研修生全員に共通していますが、それぞれの国での要因やアプローチの方法は様々です。ほかの国との違いを知るからこそ、自国が抱える問題や解決策が見えてくる。重要なのは『違いを共有する』ことなんです」。
 プログラムでは研修生が個別に学ぶテーマに沿った講義やゼミのほか、ディスカッションを中心とした研修全員でのゼミもある。それぞれが自国での事例を紹介し、それに対して活発に意見や質問が飛び交うこのゼミは、人材育成を軸として貧困問題に取り組むプログラムの思想を具現化したものだ。
 JICA大阪の木梨陽子さんは、龍谷大学が持つ開発途上国での現地経験がこのプログラムに活かされていると話す。
 「97年からおこなわれたプロジェクトでは河村先生をはじめ、多くの先生方がインドネシアに滞在して貧困問題削減のための事業に取り組んでいただきました。龍谷大学での取り組みの特色は、その時に現地で蓄積されたノウハウが現在、日本での研修にうまく繋がっていること。この運営はJICA大阪にとっても理想的なかたちです」。
 現在、JICA大阪と龍谷大学が取り組むJICA集団研修に参加する研修員は17人。これまでの各プロジェクトが横断的に連携するその運営体制は龍谷大学独自のものだ。
 「プロジェクト発足以来、龍谷大学ではずっと河村先生が中心となって関わっていただいています。これまでの取り組み全てが地方行政という一貫したテーマで動いていますので、積み重ねてきた成果も大きい。現在、JICA大阪で取り組んでいる参加型の地域開発分野では、龍谷大学なくしてはその活動を語れないほど重要な位置を占めています」(木梨さん)。

龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

●龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

※人材育成(短期・長期別プログラム名)
1.短期プログラム
@地方自治体行政強化(参加型地域開発)
A南西アジア地域地方自治体行政(参加型地域開発)
2.長期プログラム
@長期派遣(プロジェクト派遣)
A長期研修「貧困削減のための地域開発」(プログラム派遣)


大切なのは一緒に考える事

 日本で経験する文化や生活習慣の違いも研修生達にとって大きな刺激となっている。
 「日本人の、あまり他人に干渉しないところはエチオピア人と似ていると感じました。来日して一番驚いたのは『割り勘』。エチオピアでは招待した人がお金を払いますので、みんなで均等に払う文化はありませんから」(テショメさん)。
 「まず戸惑ったのは、人との接し方。挨拶代わりにハグをするような陽気な気質のベリーズとは違い、日本では初めて会う人や、目上の人への礼儀がとても大切。こういった文化の違いは日本に来なければ知ることはありませんでしたね」(レディさん)。
 研修生は帰国後、研修以前の立場や職業に復帰する。レディさんは短期大学教員として、テショメさんは大学教員として自分の国が抱える貧困問題に取り組んでいく予定だ。
 「母国の若手として来日した研修生達も帰国時には国政や地方行政に関わる立場となります。そんな彼らにとって日本でのあらゆる経験がとても大切な学びの機会なんです」(木梨さん)。
 それぞれの研修生が研修期間中に学ぶ方法は様々。だからこそ、大学は手を添えるだけだと河村教授は話す。
 「我々が教えるのではなく、解決策を導き出すのはあくまで研修生自身。一般的に理論は限定された前提条件の下での『結論』ですから、どの国でも通用するとは限りません。自国の現状把握や分析を繰り返して、貧困問題に対してどのように取り組んでいくかを方法論で考えなければなりません。自分の国に対する問題意識は研修生達自身が誰よりも強い。私達の役割は問題を共有して一緒に考えることです」。

龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

かわむら よしお
河村 能夫教授
経済学部教授

ほかの国との違いを知るからこそ、
自国が抱える問題の解決策が見えてくる。

  龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

アービナ・レディ・グリーセル
Urbina Leidi Gricelさん
ベリーズ

研修生同士での交流や意見交換が
とても参考になるんです。

龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

きなし ようこ
木梨 陽子さん
JICA大阪 研修業務第一課

現地で蓄積されたノウハウが、
日本での研修に繋がっている。

  龍谷大学とJICA研修プロジェクト・研修のフロー図

テショメ・テメスゲン・ティラハン
Teshome Temesgen Tilahunさん
エチオピア

貧困問題には簡単に
答えを出すことはできません。




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