小川 本日tはご多用のなかご出席を賜り、誠にありがとうございます。また、市長には、昨年の本学創立370周年記念祝賀会にお越しいただき、ご祝辞をいただきました。重ねて厚くお礼申しあげます。
さて本日は、本学発祥の地である大宮学舎でお話を伺うことになりました。大宮学舎をご覧になっての感想はいかがでしょうか。
門川 京都のなかでも、私が特に誇りにしている大好きな場所です。ここには京都らしい伝統とアカデミックな雰囲気が息づいています。深い祈りと高い志が感じられ、心が洗われるような気持ちがします。
若原 私は重要文化財であるこの本館の2階の講堂に入るだけで、身が引き締まるような厳かな気持ちになります。
小川 このたびの記念事業では、370年という長い年月を歩んできた龍谷大学が、21世紀に果たすべき役割を広く社会に表明するために、記念式典をはじめ、国際学術シンポジウムや全国8都市リレーイベント等々、様々な催しを展開してきました。
その意義や成果について、学長いかがですか。
若原 日本の大学で300年を超える創立記念を祝う大学は、龍谷大学のほかに例がないと思います。その歴史は単に古いというだけではなく、時代時代にその都度新しいものを付け加えながら今日に至っています。そんな長年の足跡を振り返りながら、本年4月からの第5次長期計画の策定と実施による、これからの龍谷大学づくりへのきっかけにしたいと考えました。また、龍谷大学は他大学と比べて、どちらかというと外から動きが見えにくい大学と言われてきました。そこで370周年記念事業を通して広く社会に発信し、そのプレゼンスと、ブランド力を高めていきたいという想いもありました。
お陰様で、各地のイベント会場では、参加者の皆さまが370年の歴史を持つ大学ということで驚きとともに、好意を持って受け止めてくださり、私なりに手応えを感じています。
小川 何よりも、370年間にわたって一度も講義が途絶えた年がないというのは稀有なこと。私はこの記念事業事務室の室長を務めさせてもらっていますが、このような節目の年に大役をいただいたことに責任を感じるとともに、深い感慨をおぼえます。
門川 京都にはかつて老舗商法というのがあって、「ほんまものの商売をしていたら、黙っていてもわかる人はわかってくれる」などと言っていました。しかし今は、ほんまものの情報をきちんと伝達する時代です。龍谷大学も控え目を脱却して、良い情報はどんどん発信していただきたい。それは、龍谷大学はもとより、日本の発展のためにも大事なことなのです。
小川 歴史のまち京都と龍谷大学は、ともに伝統を守ると同時に進取の気風により、常に新しさを重ねてきました。さらには、宗教都市京都と本願寺・親鸞聖人の思想に基づいた建学の精神を貫く龍谷大学ということで、両者には共通するものがあるようです。
門川 明治維新を迎え、京都は都の地位を失い、主だった役人や商人達も東京に移り、人口が激減しました。そんな危機的な状況の時に、京都の先人たちは「まちづくりは人づくり」と、小学校をつくりました。また、産業・文化の振興を期して博覧会を西本願寺で開催。京都博覧会の出発点となりました。京都が復興するために、市民も西本願寺も、すごいことをした。まさに、進取の気風そのものです。
小川 都は東京に移っても、寺院は京都に残ったということが、今日の京都のバックボーンになっているように思います。学生のまち京都といわれる根底にも、宗教が関わっているのではないでしょうか。
門川 学問、芸術、文化、観光、伝統産業から先端産業まで、京都というまちのバックボーンには宗教があります。日本には寛容の精神というものが受け継がれていますが、そのような宗教的要素を持つ精神文化は、連綿と続く人間の生き方の哲学の土台になっています。
もちろん、「大学のまち・学生のまち」と言われる根底にも宗教が存在しています。龍谷大学も、そういう京都で今日まで歩んでこられた。
小川 1639年、本願寺の境内地に僧侶の教育機関として学寮を創設したのが本学の始まりです。明治に入ると、それまでの伝統的な学林の大改革を進め、1876年には大教校と改称、今日の龍谷総合学園の礎を築きました。大改革の数年前にドイツ語の講義が開講されたことも、本学の進取の精神を示すものです。
そして1960年、深草学舎の開設によって、文科系総合大学としての道を歩み始めます。さらに1987年に創立350周年を機縁として、瀬田学舎を開設。仏教系大学としては初めての理工学部の発足となり、「人間・科学・宗教」の融合という龍谷大学新時代の大きな課題を探求することとなりました。
本学は宗教を根底にした都市・京都を拠点とした大学として生まれ、育ってきたのです。
若原 京都は世界的に認知された歴史都市です。そのなかに存在する大学というだけでも、本学は恵まれています。そして、その恵まれた環境を活かして、親鸞聖人の思想に基づき、一貫して進取の精神による教育改革を進めて今日の3キャンパスを持つ総合大学へと発展してきました。
また、教育研究活動とともに、積極的な社会連携や地域貢献活動も大学に課せられた重要な使命です。本学も積極的に取り組んでいる「大学コンソーシアム京都」をはじめとして、行政の支援をいただきながら推進している事業がたくさんあります。
門川 50の大学・短期大学と京都市などで組織する大学コンソーシアム京都の取り組みは、私も特に力を入れ、また期待しています。
若原 京都市には、大学コンソーシアム京都の設立の時からお世話になっています。また、各大学に対して精神的サポートをしてくださるなど、心理的距離が近くなっていることを実感しており、ありがたく思っています。推進中の「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」にも期待しております。
門川 「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」は、世界に誇る「大学のまち」「学生のまち」の実現をめざして、大学コンソーシアム京都と協働で策定したものです。その柱となるのは、学生の確保に向けた学びの環境の充実、大学の国際化に向けた優秀な留学生等の受け入れ拡大と国際社会に対応した人材の育成、大学の知や学生の活力を活かした地域の課題解決や活性化などです。この壮大な計画を、皆様とともに実現したいと思っています。
小川 京都市と大学コンソーシアム京都の事業の一つとして、各大学との協働により、「学まちコラボ」事業を実施し、地域の活性化を図っておられます。本学では「思い出作り140年プラス計画」と「伏見砂川・公園を中心とした地域との交流事業」の2件が本年度の採択事業となり取り組んでいますが…。
門川 「学まちコラボ」事業は、龍谷大学が累計件数で9件と、他大学を圧倒しています。現在進行中の事業も、地域の活性化に役立っており、感謝しています。
この事業でわかったのは、地域の方々は、学生さんが加わることで取り組みの質が変わるということです。どちらかというと守りの姿勢に入っている年齢層の人々が、学生さんが入ることで攻めの姿勢になる。これはすごいことです。
若原 大学コンソーシアム京都以外にも、経済界・教育界・行政・メディアの連携による「京都教育懇話会」の活動もあります。
そのほかにも、たくさんの市や、他大学との連携実績があります。例えば、龍谷大学を代表とする国公私立13大学と京都市、大学コンソーシアム京都の連携による取り組み。ここでは、米国のボストンの大学コンソーシアムやオーストラリアのビクトリア州の複数大学とのコンソーシアム同士の連携協定の締結を実現しました。
同じく戦略的大学連携支援事業では、地域公共人材の教育研修プログラムと地域資格認定制度の開発などを各関係大学、団体と協力しながら進めています。もちろん、これには行政のご支援が不可欠となります。市長には、本学も参加している「京都連合教職大学院」の開設に際しても多大のご支援をいただきました。
門川 日本は教育機関の社会に開かれた取り組みが遅れがちになっています。というのは、戦前、戦中の反省のうえに、戦後の学校教育は宗教的、政治的、経済的活動に関わるものが敬遠されてきました。まるで無菌状態で学ばそうとしてきたのです。
その結果、大学で経済を学びながら消費者ローンに苦しんだり、民主主義を学びながら若い人の選挙の投票率が伸びなかったり、宗教的情操が育っていない。これらの反省を踏まえ、これからの教育は教室のなかだけでなく、社会や人間の生き方をトータルで見渡せるようにしなければいけません。
若原 人を育てるということは大学だけでは不可能であり、小中高大の縦の連携と、企業や行政など横の連携が必要です。政治、宗教、経済などの問題の学校教育への持ち込みは当然ながら慎重にしなければなりませんが、全く閉鎖的では生きる力を育てる場ではなくなってしまいます。龍谷大学は開かれた大学として、その役割を果たしたいと考えます。 |