龍谷 2009 No.69


短期大学部改組 ーこども教育学科を新設(2010年5月設置可申請・2011年4月設置予定)
 
短期大学部改組 ーこども教育学科を新設(2010年5月設置可申請・2011年4月設置予定)
龍谷大学短期大学部は2010年度に創設60周年を迎える。そして2011年度には、
現在の「社会福祉科」を「社会福祉学科」に名称変更すると同時に「こども教育学科」を新設(2010年5月 設置認可申請予定)。保育士資格と幼稚園教諭二種免許状が取得できる高等教育機関として、新たな一歩を踏み出すことになった。
 そこで、短期大学部の歩みを振り返りながら、実習園園長である羽栗周映先生と中西京子先生とともに、短期大学部改組の目的や将来への期待などを語り合った。
中西 京子 氏 羽栗 周映 氏 若原 道昭 藤原 直仁
蜂ヶ岡保育園 園長
なかにし きょうこ

中西 京子
本願寺中央幼稚園 園長
はくり しゅうえい

羽栗 周映
龍谷大学・
龍谷大学短期大学部 学長
わかはら  どうしょう

若原 道昭
龍谷大学短期大学部 学部長
ふじわら  なおひと

藤原 直仁

龍谷大学短期大学部その歴史と改組の目的 龍谷大学短期大学部その歴史と改組の目的

藤原 本日はお忙しいなかをお集まりいただき、ありがとうございます。まず若原学長から、本学短期大学部の創設から今日までの歩みをお話し願います。

若原 日本に短期大学(以下、短大)の制度ができたのが1950年。本学短期大学部は当時認可された149校のなかの1校でした。当初は仏教学科(後に仏教科)のみでスタート。しかし、短大や大学への進学率が低い時代であり、学生確保に向け、1962年に仏教科の入学定員を二つに分けて社会福祉科を設置しました。
 1965年には、さらに魅力を高めるべく社会福祉科に保母養成課程(現保育士養成課程)を設けました。折しも、1960年代は高度経済成長期で保育所も拡張期にあり、保母養成課程は学生獲得の大きな力になりました。また、1988年に社会福祉士国家試験受験基礎資格を得るための課程を設置。1992年には専攻科に福祉専攻を設け、介護福祉士の養成にあたりました。
 その一方、四年制大学への進学率の上昇や少子化等、社会環境の変化を踏まえ、仏教科はその役割や使命を全うしたと判断して、2003年に学生募集を停止。以来、社会福祉科だけの1学科となって今日に至っています。

藤原 次にこのたびの短期大学部改組に至る経緯をご説明ください。

若原 本学の第4次長期計画(2000〜2009年度)で短大の発展的解消も検討課題としてあげられ、短大教授会等を中心に審議をかさねた結果、先述のように仏教科は廃止されることとなりました。社会福祉科も、近年の少子化で志願者数が減少傾向にありました。日本の短大数も次第に減少しています。
 しかし、検討と議論を尽くした結果、今後もなお短大へのニーズはあり、短大教育の存在意義はあると判断し、存続と改組を決定。2011年度から「社会福祉科」を「社会福祉学科」に名称変更(定員130名)すると同時に、新たに「こども教育学科」(定員90名)を設け、2学科に再編する予定です。

藤原 改組後の本学短大の方向性についても、あわせてお話しいただけますか。

若原 日本の短大制度は発足時から、異なる二つの性格を持っています。一つには、2年または3年で職業に就くための完成した教育をおこなうという役割です。もう一つは、短大を終えた後、次の教育段階に進むための接続教育の場という役割です。本学でも現在では、短大生のおよそ半数が進学希望を持っています。
 短大に対して就職面での需要がある一方で、短大からさらに進学を志す若者がいる。その二面性を踏まえながら、改組・充実させていく方向へ舵を切りました。再編の具体的内容については、藤原学部長にご紹介いただければと思います。

藤原 若原学長の説明にもありましたとおり、改組後の姿は、短大に求められる2つのニーズに対応しようというものです。現在の社会福祉科の「社会福祉コース」はそのまま残し、「健康福祉コース」を「教養福祉コース」と改め、接続教育のニーズに対応。また、同じく「児童福祉コース」を発展的に「こども教育学科」として独立させます。
 今日の日本では、大学全入時代を迎え、私立の4年制大学で46・5%、短大で69・1%が定員割れ(2009年度日本私立学校振興・共済事業団調査)の状態です。そのなかで各大学は質量両面において安定的に学生を確保していかなければならないという厳しい現実に直面しています。
 新設のこども教育学科では、保育士資格に加え、幼稚園教諭二種免許状が取得できるよう計画を進めています。幼稚園と保育所を一元化しようとする動きもあるなか、二つの資格を取得することで社会的ニーズに応え、学生の就職にもより有利になればと考えています。
 龍谷大学の短大としてどのような人材を養成していくのか。他校には無い特色とは何かにつきましては、改めて若原学長より説明願えればと思います。

若原 最大の特色を挙げるとすれば、「親鸞聖人のみ教えに基づく龍谷大学の建学の精神、共生の精神を伝える」ということです。
 すべてのいのちのつながりに目覚め、人間は生かされている存在であることを知り、感謝の心をもって共に支え合って生きていくという精神を学生達に理解してもらうような教育をしていきたいと考えています。

 

保育士、幼稚園教諭に求められるもの
こども教育学科への提言
保育士、幼稚園教諭に求められるものこども教育学科への提言

藤原 ここからは羽栗先生、中西先生にも加わっていただき、浄土真宗本願寺派の短大としての存在意義について話し合いたいと思います。お二人の簡単なプロフィールと、こども教育学科への要望や期待などについてお話しください。

羽栗 私は現在、本願寺中央幼稚園と西山幼稚園の園長を務めています。20年間、本願寺で務め、その後、日本各地の関連寺院や幼稚園、保育園に勤務した後、現職に就きました。
 幼稚園や保育園では教える対象である子ども達から、教えられることがたくさんあるということを学びました。例えば、子ども達に浄土真宗とは何か、命とは何かなどについて教えるのは非常に難しいことだと痛感しました。物に対する感謝、仏様の概念を伝えるのも難しい。大人の論理では通らない。それらのことを、子ども達に接しているなかから学びました。
 これから保育士や幼稚園教諭をめざす学生の多くが、短大に来て初めて浄土真宗の教義に触れることになるでしょう。そういう人が2年間で建学の精神をいかに学び、どのようにわかりやすく子ども達に伝えていくのか。その辺りが新学科の重要なポイントになるように思います。

中西 私は寺院出身でもないのに、浄土真宗本願寺派の保育園の園長になったという経歴の持ち主です。高校卒業当時は高度経済成長期で、保育園はどこも人手不足。保育士資格取得前に採用され、入職後、勤務の傍ら猛勉強して保育士資格を取りました。その後、立命館大学の二部で教育哲学を学び、保育という仕事にますます惹かれていきました。
 そんな経緯ですから、保育園に勤め始めた頃は、宗教についての知識がほとんどありませんでした。幼い子ども達に「ののさま」についてどのように説明するかも含め、「まことの保育」の難しさを痛感しました。
 15年前に蜂ヶ岡保育園の園長になり、ご縁があって2004年から龍谷大学短期学部でも教鞭を執っています。これからも「共生の精神」を伝えていけたらと思います。
若原 私は、保育士を志す学生達に、「育つ」「育てる」「育てられる」という言い方をよくします。「育つ」は、子ども達は「こうしたい」「あのようになりたい」と自ら考えて育っていく力を持っているということです。そこでは、保育士は身近なモデルとして重要な役割を担います。「育てる」は、保育のプロとして、育っていく子ども達に対して、その成長がより良い方向に進むように援助するということ。「育てられる」は、育てるプロセスを通して、保育士自身も育てられるということです。

藤原 日々の園生活のなかで、浄土真宗的な見方や手法で「育つ」「育てる」「育てられる」を実践されていることはあるでしょうか。例えば、羽栗先生の幼稚園では、バス通園をしないというこだわりを持たれているとお聞きしています。

羽栗 はい、そのとおりです。多くの幼稚園が園児獲得のためにバス通園をしています。しかし、当園では園児の送迎を保護者にしてもらっています。保護者は朝起きてから園に送ってくるまで、子どもの体調や様子を気遣うことができます。また迎えに来れば、担当教員が園での子どもの様子を伝えます。保護者と子ども、保護者と教員のコミュニケーションが密になります。
 また、教員は保護者と子どもの関係をそれとなく観察することができ、叱り過ぎなど「問題あり」と判断した時に素早い対処ができます。

藤原 保護者の送り迎え、ということだけでも、いろいろなことが見えてきますね。それでは中西先生、こども教育学科では、どこに重点を置いて教育していけばよいとお考えでしょうか。

中西 「子どもにどんな力をつけるか」をしっかりと見定められる保育士を育ててほしいですね。私は、保育とは「関わり」だと考えています。子どもの育ちを見る視点を「できるか、できないか」で見るのではなく、その子の視点に立って子どもが「しようとする」ところを見る、学ぼうとする意欲があるかどうか、が大事なのではないでしょうか。
 子ども達が保育のなかで経験する「熱中すること」や「安心できる環境」は、最もよく生きる未来につながります。そのためにもこども教育学科は、結果だけでなく、子どもとの「関わり」を大事にできる学生の養成、また様々な諸事情を抱えた保護者を支援する力をつけるものであってほしいです。

藤原 これからの時代、保育士は、子ども達だけでなく、保護者との関わりをとおして、家庭環境を的確に把握することが求められます。保育士・子ども・保護者の三者がどう関わるか。これは現場に出れば避けては通れません。

羽栗 短大卒という年齢では、ほとんどの人が自分の子どもを育てた経験がありません。ですから、どうしても現実が見えにくい。「子どもが好き」という短絡的な考え方や、「教えてあげる」という姿勢だけでは保育士、幼稚園教諭にはなれません。
 こういうことは、机上ではなかなか修得できず、現場に出て初めて見えてくることが多いものです。子どもとの関わり方はもちろん、保護者との関わり方についても、できれば在学中にある程度理解させてあげられるような工夫があるといいと思います。

中西 現在の私の授業のなかでも、保育のイメージのアンケートを取ると、前期では「子どもと遊んでいる」などの結果が出てきます。しかし後期になると、「子ども教育は難しいと学んだ」「奥が深い」というような回答に変わってきます。現在のカリキュラムでも、保育の難しさを感じ取る学生がいることがわかります。
 これも実際に教えていて気づいたことですが、今の学生は携帯メールなどで特定の人とはしゃべることができても、不特定多数の人に話すことが不得手な人が多いですね。これをクリアしないと現場で通用しません。現場は常にバタバタ状態です。そこに自分から進んで話しかけ、アドバイスをもらったり、協力したりしていかなければ、保育士間のコミュニケーションがとれないし、園の動きが止まってしまいます。保護者にもストレートに話して、誤解されたり苦情になったりします。
 それと、一番の課題は、学校で学んだ理論と現場をどう結び付けるか、子ども達の目線で物事を考えることができるか、ということです。ですから、短大の授業のなかで、学生を公園に連れていって、子ども達にとってどこが危険かを調べさせたり、葉っぱで何かを作らせてみるなどの実地体験も、ぜひ取り入れていただきたいと思います。

 
専門的な職業人としての自覚を持った
伸びしろの大きな人間を育成
専門的な職業人としての自覚を持った伸びしろの大きな人間を育成

藤原 その時々の状況に合わせて対応するために、保育士には遊び心や柔軟性が必要ですね。今の学生達には遊び心が欠けているのでしょうか。
若原 今の学生達には、昔のようにゆったりとした時間を楽しむゆとりが無くなっています。いつも何かに追いかけられている。学生の努力も必要でしょうが、環境の変化によって生活経験自体が乏しくなっています。そんな学生達が保育者になるのですから、現実は厳しいことがたくさんあることでしょう。
 それに、少子化、親の高学歴化、親の仕事環境の変化等によって、保育士の仕事も複雑化し、かつ仕事量も増えています。保育士は、ますます専門性が強く求められています。

藤原 こども教育学科は、高い専門性が要求される保育士と幼稚園教諭を育成する教育機関となります。重要な役割を担う新学科へのバックアップ体制について、学会活動等を含めてご紹介ください。

若原 本願寺系の保育所、幼稚園で組織している保育連盟(約1300施設が加盟)は、「まことの保育」をスローガンに活動しています。そこでは、日々の実践を積み重ねながら理論をつくり上げていくという方向性と同時に、大学教員と保育・幼児教育の現場が交流し、理論的裏づけを持って「まことの保育」をおこなっていこうと、1997年に「真宗保育学会」を設立しました。本学の短大が学会発足時からその事務局を務めていますが、これをもっと発展させていきたいと考えます。
 また、それとともに、大学教育の一環として、保護者・子ども・学生・教員が交流し合える地域の「子育て支援センター」のようなものを学内につくってはどうかという構想もあります。

中西 「子育て支援センター」はいいアイデアですね。学生が現場を知る良い機会となります。

藤原 はい。学生の経験不足、子ども達の生活環境の変化に目を向け、日常的に現場と同じような経験ができれば、と考えています。
 これらも含め、大学でどのように学ばせていくか。社会の変化でニーズも変わっている今、私達に期待されることは何でしょうか。

羽栗 最近の子ども達は…と言われますが、基本的に子ども達は昔から変わってはいません。周り、環境が変化しているのです。少子化で子ども達は甘やかされ、わがままに育てられています。そういう子どもが、今や親になっています。そのような状況を理解したうえで、集団生活というものについて考え、自ら向上しようとする、そんな学生を育ててください。私も精一杯お手伝いをさせていただきます。

中西 子どもはいつもキラキラしています。こちらの働きかけを心待ちにしています。それは昔と変わりません。ただ、子どもも保護者も便利さに慣れてしまい、不器用になっています。ドアは自動で開くものだと立ったままで待っている。蛇口は自分でひねるものだと教えないといけない。雑巾は買うものだと思い、縫うことができない。蜂ヶ岡保育園では、親子を招いて一緒に過ごす機会をつくり、遊びを通して子ども達の生活力を高めようと試みています。ここでも保育士の指導力は重要です。
 利便性や効率を追いかけ、不器用な人間をつくったことを、専門職をめざす学生にはしっかりと認識していただきたい。そして、どうすれば解決できるかを、私も一緒になって考えていきたいと思います。

藤原 最後に学長の立場から、こども教育学科への抱負をお願いします。

若原 専門的な職業人としての自覚を持った人間をいかに育てるか。私達の使命は、自覚と研究心、向上心を持って自ら努力する人間の育成に尽きるでしょう。
 こども教育学科では、豊かな人間性のうえに、確かな知識と実践力を持った、総合力のある伸びしろの大きな人間を育てていきたいものです。

藤原 長時間にわたって、有意義なお話をありがとうございました。


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