若原 本日はお忙しいなか、お時間を いただきましてありがとうございます。また、昨年の本学創立370周年記念式典にもお越しいただき、重ねてお礼を申し上げます。
本学では、今年4月からスタートした第5次長期計画のグランドデザインで、建学の精神に基づく共生の理念のもと、「教育力のある大学」を大きな柱として掲げています。その具体的なものとして、地域に貢献できる公共性と市民性を持った地域公共人材の育成をめざし、2011年4月に「政策学部」と「大学院政策学研究科」を開設します。
山田 私が4月の知事選に出馬した時のマニフェストの柱の一つが「地域共生のまちづくり」でした。龍谷大学がめざすものも、私が掲げていることも、本質は同じ。みんなが共生していける社会をつくっていかなければなりません。
今、時代はかつて自分達が経験したことのない社会へと向かっています。そのことは頭のなかではわかっていても、現実のものとして理解することが難しい。人間というものは、どうしても今まで生きてきた現場のなかで物事を判断しようとするから、問題や課題への対応が遅れてしまいがちです。
昨今、官僚批判、公務員批判が出てきているのはなぜか。それは端的にいえば、「時代の変化に対応できなくなってきている」ということです。
高齢化が進み地域社会が崩壊しているのに、財政的な見地から高齢者の医療制度をつくろうとしたり、お年寄りにとって医療と介護は一体化した政策をとるべきなのに、医療費が増えるからと切り離しにかかったり。現実とかけ離れた政策をおこない、それらがことごとく失敗しています。
また、官僚批判、公務員批判が出てきたもう一つの理由は、安定成長の時代に入ったということが挙げられます。高度成長期のように給料が右肩上がりで伸びている時代は、国民はそれほど負担を感じなかった。ところが、今は、負担に見合うことをやっているかと、行政を見る目が非常にシビアになっている。
若原 それなのに官僚や役人達の体質は、従来のままであると…。
山田 「私は公務員に向いています」という人がいます。そういう人は、どちらかというと非常に真面目で与えられたことをコツコツやるタイプの人がそう思う傾向にありました。ひと昔前なら、それでよかったのでしょう。しかし、今はそれではだめです。これから向かっていくのは、私達が経験したことのない時代なのですから。もっと現場に入り、人々と交流し、自分で考え、行動していかなければなりません。
高度成長の時代、65歳以上の人口はわずか数パーセントでした。それが10年後には30パーセントにもなる。これに対応するためには、クリエイティブな作業が要求されるし、ベンチャー的な要素も必要。公務員像が全く変わってきているのです。与えられたことだけをやっていたのでは、本人が一生懸命やっていても通用しません。
若原 官僚や役人も問題ですが、民の側においても公共性という考え方が希薄になってきているということがあります。
山田 高度成長期を支えてきたのは、地方から出てきた農村型の志向を持つ人達でした。彼らは仲間意識を持ち、助け合いながら生きてきた。ところが、今は核家族化、個人志向へと移行しています。
少し前まで、日本は非常に治安の良い国でした。それは警察による治安の維持だけではなく、共生社会であったからだと言えます。その共生社会が徐々に崩れ、治安の悪化が表面化してきている。今、まさに「公共とは何か」を考え直さないといけないところにきています。
補完性の原理で言えば、まず住民が自分のやれることはやる。できないときは納めた税金で市町村にやらせる。それでもできないときは都道府県、そして国にやらせる。そういう考え方が大事であり、これが本来の地域主権のあり方です。
ところが、今は国が税金を吸い上げて配っているから、本来自分達の税金なのに、住民は要求する側に回っている。その結果、国は900兆円もの借金を抱え、にっちもさっちもいかない状態になっている。これを変えないといけません。
国の役割が変わっていくなか、新しい負担と受益の概念を持った市民自治社会が必要とされています。市民とはいったい何か。どうやってそれを構築していくか。龍谷大学に新設される政策学部には、これらの課題に応えてもらいたいと思います。
若原 今の時代、大学はかつて象牙の塔と言われた頃のように、より良い研究を発信していればいいんだというわけにはいかなくなっています。積極的に地域と関わり、市民社会をどのようにつくっていくかを追求していかなければなりません。
本学では従来から共生を理念に社会貢献、社会連携に取り組んできました。しかし、知事のお話を伺って、その範囲を超えるチャレンジを模索していかなければならないと感じました。
大学は教育、研究、社会貢献の三つの役割を持っていますが、社会貢献では大学の知的な資源を社会に普及する、還元するという使命があります。例えば生涯学習事業、産官学事業、さらに、社会と連携したインターンシップとかサービスラーニングなどがその例です。
本学でもそこまでは進めてきました。しかし、その先に何があるのか。持続可能な社会を実現するためには、このままでは限界があります。やはり発想の転換、価値観の転換が必要。今おっしゃった具体的な課題に、政策学部がいかに応えていくか、さらに学内で議論していきます。
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