龍谷 2010 No.70


「建学の精神」を持ち続け世界で活躍する人間にー
 
若原 道昭
第17代学長
わかはら どうしょう
若原 道昭

1947年生まれ。
1973年京都大学大学院教育学研究科教育学専攻修士課程修了、
1976年京都大学大学院教育学研究科教育学専攻博士課程単位取得満期退学。(教育学修士)
1979年京都芸術短期大学専任講師、1982年龍谷大学短期大学部講師に就任。
同助教授・教授を経て1997年短期大学部長、2003年から副学長を務め、
2007年4月学長に就任、現在に至る。専門は教育哲学。
 
心を砕いた、二つの課題への取り組み

 私は学長に就任する前に短期大学部長や副学長を務め、執行部には10年の経験がありましたので、学長の果たすべき役割を理解していたつもりでした。しかし、いざその座に就いてみると、想像以上の責任の重さを感じました。それでもここまで無事に来られましたのは、私を支えてくださった多くの方々のご厚情の賜物と感謝しております。
 在任中には、取り組むべき重要な課題が2つありました。その一つ目は、2000年から2009年の第4次長期計画(4長)を仕上げ、第5次長期計画(5長)を策定することでした。
 そして二つ目は、創立370周年記念事業を成し遂げることでした。本事業は、意図的に学外に向けての展開をおこなったこともあり、大学の存在感を社会に示すということで、1年間という長期にわたって規模の大きな事業が続きました。あと残る大きな事業は、「龍谷大学関係戦没者調査」だけとなりました。
 4長でとくに重点を置いたのは「教育面」では、教学改革と新しい学部・研究科の開設でした。2009年には実践真宗学研究科がスタートし、本年4月から政策学部と政策学研究科がスタートします。また、短期大学部の改組を図り、「子ども教育学科」を開設し、2学科体制で同じく4月から再スタートすることができました。
 「研究面」では、本学らしい特色ある研究を重点的に強化。私立大学学術研究高度化推進事業と、それに続く私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に、毎年複数の大型プロジェクトが採択され、十数件のプロジェクトをとおして研究の活性化をすすめることができました。
 「高大連携」では、平安中学校・高等学校の付属化が実現できました。また、2008年10月に大阪オフィスを開き、翌年には大阪梅田キャンパスとして規模を拡大しました。
 さらに、特筆するべき事業として、本年4月にオープンする龍谷ミュージアムがあります。龍谷ミュージアムの設置を検討しはじめた頃、西本願寺でも宗門長期振興計画を立てられていました。そのなかに、「文化財の保護と活用」という項目があり、この課題と本学の思いがタイミングよく一致し、開設に向けて動き出しました。長年夢に描いたミュージアムがカタチとなって実現したことを、非常に嬉しく思っております。

   
創立370周年記念式典の様子(2009年10月) 「鳥取県との連携に関する協定」締結式(2010年5月)
創立370周年記念式典の様子(2009年10月) 「鳥取県との連携に関する協定」締結式(2010年5月)
 

 5長策定につきましては、2007年6月に大学将来構想委員会を立ち上げ、4長の総括と5長の構想を検討いたしました。「進取」の姿勢によって世界が直面しているさまざまな課題の解決に積極的に関わり、「共生」の世界の実現に参画する主体として、学生一人ひとりが自立していける大学―…、それを目指すべき姿として掲げました。そして、丸2年を要してグランドデザインを策定。2010年3月には、前半5年間の中期計画をアクションプランとしてまとめました。
 ここには約50項目の検討課題が挙げられ、執行部のもとで実施計画案を検討し、実行できるものから取りかかっています。5長推進にできるだけ筋道をつけて、次へ受け渡していくことが私の最後の役目だと思っています。

 
龍谷大学の未来に託すもの
 この4年間を振り返れば、数多くの人との出会いがありました。創立370周年記念事業は、2009年の5月から全国8都市でイベントが始まり、いろいろな研究プロジェクトや学部が国際シンポジウムや記念講演をおこなうなど、一年間にわたり様々な事業が開催されました。多忙ではありましたが、10月24日に催された記念式典と祝賀会、さらに翌日や1週間後におこなわれた国際シンポジウムなど、とくに秋の催しが印象深く思い出されます。また、これらの事業を成し遂げた全学の職員のパワーを誇りに思います。
 知の創造(研究)と伝達(教育)と公開(エクステンション)が大学の基本的使命であり、知をもって社会に寄与することが大学の責務です。そのなかでも教育による人間の育成が中心です。その認識のもとに、「建学の精神」を大切にしながら、これからも「教育力のある大学」をめざして改革を重ねることが最重要課題であると思います。
 それぞれの大学には独自の建学の精神があり、それに基づく大学運営の自主性が尊重されなければなりません。同時に大学には「社会の公器」としての自覚も必要です。
 促成の教育によって「時分の花」を育てるのではなく、学生の皆さんには、樹木が少しずつ着実に自然に年輪を重ねていくように、大樹に育っていってほしいと思います。
 本学で学び、行動する力を身につけた皆さん達には、ぜひ、日本だけでなく、世界で活躍していただきたいと願っています。
 
若原道昭学長在任中4年間の主な取組
 
文部科学省大学教育改革支援プログラム
 
激動の時代を見据え 知の拠点としての使命を果たす
 
赤松 徹真 第18代学長 (2011年4月就任)
あかまつ てっしん
赤松 徹眞

1949年生まれ。
龍谷大学大学院文学研究科修士課程修了、
龍谷大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。(文学修士)
1984年龍谷大学文学部講師、
1987年龍谷大学文学部助教授、
1998年龍谷大学文学部教授、
2005年龍谷大学教学部長、
2007年龍谷大学文学部長。 専門は日本仏教史、真宗史、近代史。
 
学生と教職員の一体感を醸成し
知性と活気あふれる大学を追求

 2010年4月にスタートした第5次長期計画(5長)で、龍谷大学は「知の創造」「次代を担う人間の育成」「学術文化の振興」を使命としています。そしてこれらをベースに「教育」では「建学の精神に基づき、広い学識と進取の精神を持つ人間の育成」。「研究」では「伝統と地域を基盤にした研究、国際水準の研究」。さらに「社会貢献」では「持続可能な社会の形成に貢献」を基本方針に諸課題を掲げ、すでにとりかかっている事業もあります。
 それらが意図するもの、本学の進むべき方向性を一口で表現するならば、「知性と活気にあふれる大学づくり」であると私は考えます。大学は幅広く知性を培う場であり、教養や専門知識など学識養成のための知の拠点でなければなりません。どの大学にも言えることではありますが、本学も今まで以上に社会から期待される存在となるべく知の創造と蓄積に努め、教育や研究の成果を発信していくことが急務であると感じています。
 また私が考える活気とは、次代を担う人間育成のためには、大学は学問を学ぶ場というだけではなく、スポーツやその他の活動で、様々な自己表現・経験ができる活き活きとした場とならなければならないということです。学生はもちろん、教員も、職員も、自己表現が自由にできる。そして分け隔てなく対話することで一体感が生まれ、さらに活気ある大学になっていく。めざすのは、そんな大学づくりです。
 確かに設備としてのキャンパスは整備され、きれいになってきました。しかし私は常々、学生がキャンパスにとどまる比率が少ないように感じています。講義に出たり、サークル活動をしている学生はキャンパスにいるけれど、それ以外の学生はさっさと離れていってしまう。キャンパスに心地良い居場所があれば、学生がとどまって、活気も出てきます。私は龍谷大学の卒業生ですが、学生時代は大宮キャンパスの図書館の地下にあった合同研究室が格好の居場所でした。大学の環境というのは、合理的に美しく整備するだけではなく、そういう居場所づくりにも目を向けなければならないと思います。

 
赤松 徹真 未来を切り拓くカギは
総合力を高めることにある
  私が学長選挙で掲げた大きな課題は「教育力のある大学」を追求していくことでした。学生同士のつながりをつくるだけではなく、学生の皆さん一人ひとりが幅広い教育力を備えた教員や職員との出会いによって成長することで、本学で学ぶことの楽しさや魅力を感じてほしいと考えています。
 そして様々な経験のなかで知性と教養を磨きながら、卒業のときには自分自身の進路を見いだしていけるような能力を身につけていく。その一方で大学は、進路を切り拓く学生の皆さんを万全の態勢でしっかりとサポートしていきます。
 また、これからも本学ならではの特色ある研究、強みのある研究を推進します。そこでは、例えば仏教に関する幅広い研究など本学が得意とする分野において、世界に通用する研究を積極的に展開してまいります。
 ところで、私の学長としての4年間は、5長の2年目からにあたり、前半の5年間で第1期中期計画を、是が非でも成し遂げなければなりません。
 先に述べました5長の三つの使命をはじめ、数々の課題や事業を滞りなく推進するためにとりわけ必要とされるのが、大学としての総合力を高めることだと思っています。これを実現するために、私は学生、教職員、保護者、卒業生など、本学に関わる構成員がそれぞれの役割を最大限に発揮できるような環境づくりを推し進めます。なぜなら、優れた能力を持った各構成員の連携が相乗効果を生み、本学の社会的信頼と評価の向上につながると考えるからです。
 激動の時代に本学が独自の総合力を発揮し、豊かな未来社会を形成するために、私も学長として努力を惜しみません。
 

進取の伝統を受け継ぎ

「知恵の眼」で社会を見つめる

 最近の学生を見ていると、一般的に挫折の経験が乏しく、いざ挫折するとそれに耐える力が弱いように思います。しかも、社会の風潮は「勝ち組」「負け組」というように評価が2極化される傾向にあります。しかし、「建学の精神」を重んじ、すべてのいのちが平等に生かせる「共生(ともいき)」を理念におく龍谷大学には、社会の風潮に流されることのない批判性と創造性を育てる環境があります。
 それでも、もし学生の皆さんが壁にぶつかったときは、「知恵の眼(まなこ)」をもって抱える問題を超えていただきたい。私が言う「知恵の眼」とは、常に親鸞聖人の精神に立ち帰り、自分が培ってきた知識や経験を結集させ、自分なりに確立した基軸をもって冷静に事態解決にあたるということです。個人的な問題の解決はもちろんですが、調和のある社会、豊かな人間性を備えた社会というのは、「知恵の眼」をもって考え、行動しなければ実現できないと思います。
 龍谷大学は、「建学の精神」が生きているという大きな特色と魅力を持つ大学です。教員や職員など構成する人々は、幅広い寛容性を持っています。また、進取を尊ぶ伝統に育まれた滋味あふれる個性と、知力も備えています。学生の皆さんは、本学が誇りうるそれらの精神を学び、受け継ぎ、卒業してからも、変わらぬ「知恵の眼」で社会を見つめ、より良い社会を形成してください。
 最後に、学生のご家族の皆さまには、4年間の成長を大いに期待していただきたいと思います。そのプロセスはご心配ではあるでしょうが、距離を保ちながら、温かく見守り、その自立的成長を楽しみにしていてください。
 卒業を迎えるときに、「龍谷大学で良かった」と学生の皆さんにも、ご家族の皆さまにも思っていただける大学となるよう、その職務を全力で果たす決意です。


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