龍谷 2010 No.70


第8回青春俳句大賞
 
入賞作品発表
第8回を迎えた龍谷大学の青春俳句大賞は、
26,570句の力作が寄せられました。
厳正なる選考をおこなった結果、見事に入賞を果たした作品をここに発表します。
 
短大・大学生部門 最優秀賞 高校生部門 最優秀賞 中学生部門 最優秀賞

短大・大学生部門

茨城県 大山 真以さん

筑波大学大学院1年

 

評・大峯あきら

夏野を歩いていると、はるかに要塞らしきものが一つ見えてきた。古城と言わずに「要塞」といったところが良いし、「仰ぐ」からも作者の興奮が伝わってくる。

高校生部門

愛知県 清水 栄里さん

愛知県立幸田高等学校3年

 

評・大石悦子

トランプのカードが一枚見当たらぬというのだが、青年期の、それも晩夏の一事となると見過ごすことはできない。誰もが経験する若い日の喪失感が、一句を重く覆っている。

中学生部門

埼玉県 清水 大輔さん
川越市立川越西中学校3年

 

評・寺井谷子

冬の夜空に輝く星。晴れ渡って寒い。父が黙って差し出してくれた父の手袋。作者の手には大きすぎる。その大きさは、家族を守る「父」の大きさであろう。

 
英語部門最優秀賞

英語部門

埼玉県 江口 靖子さん 一般

 

評・ウルフ・スティーブン

この句は初春の黄昏を写生する。暗み行くなかでの真白い木蓮の輝き。人の生きる日々のなかにもありがちな暗闇に、ひそかに光を放ちながら、行く先を示してくれそうな木蓮だ。

 
●中学生部門優秀賞
中学生部門優秀賞 中学生部門優秀賞 中学生部門優秀賞

京都府 井本 麻比さん

京都市立嵯峨中学校3年

 

評・有馬朗人

麦藁帽が風に飛ばされている。それを麦藁帽が飛びたくて飛んでいるようだと見たところが面白い。確かに麦藁帽は翼を持っているようで、飛びたがっているようである。

東京都 朝海 航太さん

練馬区立豊渓中学校3年

 

評・大峯あきら

五月雨の頃の修学旅行で京都の寺々を回ったのであろう。自由行動をしているうちに、道に迷ってしまった。五月雨のさびしい感じが出ている。

愛知県 夏目 あや乃さん

名古屋市立駒方中学校1年

 

評・有馬朗人

皆傘をさして歩いている。急に空が明るくなり、美しい虹が出た。皆いっせいに傘をたたんだといったところに、誰もが虹の美しさに打たれた姿をよく描いている。

 
●高校生部門優秀賞
高校生部門優秀賞 高校生部門優秀賞 高校生部門優秀賞

愛媛県 今泉 礼奈さん

愛媛県立松山西中等教育学校5年

 

評・有馬朗人

「生きている化石」と言われるシーラカンスは、南西インド洋で見ることがある。黒いくらい蒼い海にシーラカンスが泳ぐ姿は、まさに晩夏の感じがする。

東京都 平井 皆人さん

私立開成高等学校1年

 

評・寺井谷子

息を吹き入れながら紙風船を膨らます。乱暴に吹くと破れてしまいそうで、加減を計りつつ吹く。「惑星創るやうに」が、段々に膨らむ紙風船を捉えて見事。

東京都 宇野 究人さん

私立開成高等学校1年

 

評・大峯あきら

万屋というのは雑貨商とちがって、もう少したくさんな種類の品物をあつかう店である。その入り口が広いといったところに師走の感じが捉えられている。

 
●短大・大学生部門優秀賞
短大・大学生部門優秀賞 短大・大学生部門優秀賞 短大・大学生部門優秀賞

広島県 蒔田 侑里子さん

九州栄養福祉大学1年

 

評・有馬朗人

中学生の頃つかい馴染んだ楽譜を、久し振りに開いてみた。そこに古い書き込みが残っていた。それは今日と同じように花の雨の日であった、と思い出したのである。抒情が良い。

愛媛県 野間 菜津子さん

愛媛大学4年

 

評・茨木和生

冷房のない講義室はないだろうが、外は底なしの暑さ。例えば、単位互換制度による集中講義「現代俳句講座」の宇治吟行に参加した日の句に違いない。

愛知県 金田 文香さん

愛知県立大学2年

 

評・寺井谷子

上海は昔から人口も多い商業都市。そこで見た金魚が「水より多き」という。この把握によって、ひしめく赤さが迫る。「上海」なればこそのエネルギー。

 
●英語部門優秀賞
英語部門優秀賞

愛媛県 新居田 亮子さん 
愛知県立今治西高等学校2年

 

評・ウルフ・スティーブン

作者の故郷に対する思いが、肉体的にも感情的にも暖かさとなって伝わってくる。そこにはオレンジ色に染まって空を包み込む雲と、懐かしさで故郷の町を包み込む作者の思いがある。

 
英語部門優秀賞
滋賀県 若城 啓子さん 
一般

 

評・ウルフ・スティーブン

ともすれば否定的に思われがちな秋の冷気は、この句のなかでは山に寄り添い時を告げる優しさとなり、一体の自然となって山々の衣替えを成す。自然の姿を素直に愛でる一句である。

 
●選考委員特別賞
選考委員特別賞 選考委員特別賞 選考委員特別賞
大阪府 甲斐 千晶さん 
龍谷大学1年

評・稲が黄熟した田の水は落としてしまって田を乾かす。そんな「落し水」の頃の御陵の番をしている一人の衛士である。謹厳実直で滅多に物を言わない。
京都府 山本 夏帆さん 
京都市立梅津中学校3年

評・テストが、授業であったりすると、夏と言っても本当の夏ではない。夏休みになってからが本当の夏。海水浴に行って海に足を入れた瞬間に夏を感じる。中学生らしい感受の句。
東京都 宇野 究人さん 
私立開成高等学校1年

評・木版画を作っている。彫刻した版木に、何度も様々な青の絵の具を塗っては紙に刷り上げる。そのたび画面は、水の澄んだ美しい風景になってゆくのである。
選考委員特別賞 選考委員特別賞  
徳島県 下田 誉さん 
国立阿南工業高等専門学校1年

評・幼い日に見た虹は大きく鮮やかで、その不思議が知りたくて虹へと駆けだしたものだ。今も虹を見ると彼の日のことが思い出される。過去という時間の堆積の始まる年頃を詠い、心を打つ。
愛知県 金田 文香さん 
愛知県立大学2年

評・80歳を越えてなお、話題作を作り、演じるクリント・イーストウッド。「遠雷」によって、若き日のイーストウッドと現在のイーストウッドの長身が二重に重なって思われる。
 
選考委員特別賞  
大阪府 戸田 成美さん 龍谷大学1年
評・
生命力の象徴のような子ども達が遊ぶ公園の脇に、おそらく錆びかけそうな公衆電話が時代の波に洗われ、残されるようにひっそりとある。哀れの感覚を表象的に表した句。
 
●選考委員総評

茨木 和生 氏

茨木 和生

俳人協会理事。
大阪俳句史研究会理事。
俳誌「運河」主宰。

 私は今回予選委員として高校生の作品を選考しましたが、要求している有季定型の俳句ではなく、「部活は青春の俺の生きがい」、「あの人の心も私と同じ青春と思う」と、季語がなく、五七五という定型をはみだした作品が散見されました。「青春俳句大賞」と銘打っていますが、「青春」という言葉を入れて俳句を作れとは要求していません。入選した作品をよく読んで参考にし、学生生活を、日常の暮らしを、自然を見ての感動を詠い上げてほしいと思います。
   

有馬 朗人 氏

有馬 朗人

元文部大臣。元東京大学総長。
武蔵学園長。
俳誌「天為」主宰。

今年も中学生・高校生の俳句に面白いものが多くありました。それに毎年、入学試験の「傾向と対策」のような、マニュアルに従っているような作品をまとめて出す幾つかの学校が多かったのですが、今年はその嫌みをあまり感じませんでした。短大・大学生の句にも佳句がありましたが、短大生や大学生の世代は、成人に近いか成人です。大いに俳壇に新風を吹き込むような作品を、もっと積極的に発表してもらいたいと思います。

   

寺井 谷子 氏

寺井 谷子

現代俳句協会副会長。
俳誌「自鳴鐘」主宰。

 「青春俳句大賞」も8回目を迎えました。中・高の3年間の早さを改めて思います。例えば高校1年生から2年生になる時の劇的な変化や精神的な成長などを毎回の選考で実感します。かと言って、1年生より22年生の作品が全て佳い、と言えないところが「俳句」の面白さでもあります。今回は、一句のテーマが「俳句」らしさに縛られていない、自由な感覚の作品が多く見られたことが何より嬉しいことでした。
   

大石 悦子 氏

大石 悦子

俳人協会幹事。
日本文芸家協会会員。
NHK京都カルチャーセンター講師

 初めて本賞の選考にあたりましたが、失礼な言い方ながら、予想以上にすぐれた作品に出会えた、というのが素朴な感想でした。近頃の若者の間に俳句が流行っているという噂を聞いてはいましたが、その証拠の一端を見た気がしました。今回は高校生部門に佳い句が多かったように思いますが、それは、現在の自分を投影した等身大の作品が多かったからだ、と言って良いのではないでしょうか。ぜひ自分の言葉で、いま在る自分を表現してください。
   

ウルフ・スティーブン 氏

ウルフ・スティーブン

龍谷大学国際文化学部教授。
俳句研究、翻訳をおこなう。

 寄せられる英語句は毎年その数と質が高まっています。今回は100句近くが投句され、多くの技術的にも優れた感動的な作品のなかから、入賞句を選ぶのは大変でした。他の優れた作品があたかも評価されていないように受け止められるのならば、非常に残念です。学校で生徒、学生達を励まし指導された先生方のご様子も目に浮かびます。指導された先生方、また選考委員の先生方、コンテストに投句された皆様に感謝します。心打つ俳句をよみながら私もコンテストに参加できました。
   

大峯 あきら 氏

大峯 あきら

大阪大学名誉教授、
元龍谷大学教授。
同人誌「晨」代表

 今年は面白い作品が多かったと思いますが、全体として言えば、もう少し人事句よりも自然や季節の世界に目を向けて詠むようにしたら良いのではと思いました。人間は社会のなかに生きていると同時に宇宙の中にも生きています。宇宙のなかに生きているということは、季節のなかに生きているということです。俳句という詩は、人間が季節内存在だということの感受性が鈍くなるにつれて質をおとしていきます。季節感と季語の選択において、もっと敏感であってほしいと思います。

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