龍谷 2010 No.70


龍谷の至宝
真宗正統二十四輩御旧跡図
 
 二十四輩とは浄土真宗の宗祖親鸞聖人の高弟24名を指し、二十四輩巡拝とはその24名が開創した寺院を巡り参詣することを意味します。親鸞聖人の関東におけるご化導のみ跡を辿ることで、そのご苦労をしのび、各寺院で数々の法宝物を拝見する旅です。
 この「真宗正統二十四輩御旧跡図」は、禿氏文庫所蔵の「親鸞聖人と真宗関係寺院図版集」(全29枚)のうちの1枚です。江戸後期、1850(嘉永3)年に刊行された木版多色刷の印刷物で、中央には諸国に点在する寺院の地図が美しく描かれています。また、地図の上部には各寺院が所在する国名や開基名のほか、各々を讃える詩や歌なども記されています。 各寺院では、僧侶やお世話人さんが、その寺院の開創説話や宝物にまつわるいわれなどを拝読して、読み聞かせていたようです。それらは、単なる解説や説明じみたものではなく、抑揚をつけ朗々とした声で聞かせる物語のようなものでした。また、それらの内容は「略縁起」という小さな冊子にまとめられ、参詣者が記念の品として持ち帰っていたようです。
 二十四輩巡拝は、歴史上の人物としての「親鸞」ではなく、あくまでも「この私ひとりのためにお念仏のみ教えを明らかにし、それをご苦労あそばされて現にこの私にお伝えくださった親鸞聖人」の、み跡をお慕い申し上げる旅です。しかし、他宗派でおこなわれる順礼の旅とは異なり、修行としての意味合いはありません。参詣者は楽しみながら各寺院を巡り、親鸞聖人やその土地に関する多くの情報をも受け取って帰りました。
 この「真宗正統二十四輩御旧跡図」は楽しかった旅のお土産に相当し、地図としての役割以上に、折に触れて各所の由来や旅の様子を「思い出す」ための、道具としての役目を担っていたのではないでしょうか。
 この1枚のなかに当時の庶民の「信仰」と「学び」、そして「娯楽」を知るヒントが詰まっています。二十四輩巡拝に関連するほかの資料などとも見合わせて、江戸の庶民文化を知るきっかけにしてはいかがでしょうか。
(和田 恭幸 文学部 日本語日本文学科 准教授)


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