龍谷 2010 No.70

青春クローズアップ
 
「変面でつなげたい!中国と日本の未来 江玉さん 国際文化学部 四川省芸術学校出身
江玉さん
 

 どんなに目を凝らして見ていても、カメラで捉えようとしても、その早技の謎は解けない。鮮やかな衣装がひるがえった瞬間に、付けていた面が変わる、表情が変わる! 中国第1級国家秘密である「変面」の技術を受け継ぐ彼女のパフォーマンスに、観客達は文化圏を越えて感嘆の声をあげる。
 その華やかな舞いの裏には、日本と中国、二つの国への純粋な愛情が隠されていた。

 
仕事の傍ら日本語を勉強し、留学。
自分の可能性を広げたかった。

 彼女の名前は江玉。実は中国文化遺産である「変面」継承認定者で、なんと2008年の北京オリンピックの開幕式にも花を添えたという、スゴ技の持ち主だ。10歳の頃から中国四川省の伝統芸能「川劇」の専門教育を受け、7年後の2006年には川劇団に入り、3年後にはそのなかの特殊な技の一つである「変面」の継承者に。その後「中国川劇団」に入団し、アジアや欧米などで数多くの川劇に出演してきた。そんな彼女が、この春、留学生として国際文化学部へ入学。なぜ?
 「変面のプロとして活動するだけでなく、もっと自分のいろんな可能性を考えてみたくなったんです。日本に興味を持ったのは、2008年の四川省大地震の時。私もボランティアとして駆けつけたのですが、そこにいた日本の救助団のひたむきな姿をみて胸が熱くなりました。でも、コミュニケーションがとれなくて。『ありがとう』だけ覚えて彼らが帰国する時に伝えました。それから、仕事の傍ら日本語を勉強するようになったんです」
 日本語や文化、歴史を知っていくうちに、日本に行ってみたいという思いが強くなり、ついに劇団をやめて留学生に。選んだ地は日本伝統の街並みや文化が多く残る、憧れの京都だった。
 「まだ来たばかりで少ししか足を運べていませんが、嵐山はイメージしていた日本の景色に近い気がします」

スイス・インターラーケン市を訪問(2010年8月 授業中の江玉さん
 

特技がコミュニケーションの きっかけとなっていく。

それが喜び

 音楽にのせて舞いながら、一瞬で面を次々と変えていく「変面」。観客を驚かせ惹きつけるその仕組みは国家秘密とされている。彼女は言う。 「変面は『川劇』が持つたくさんの技のなかの一つにすぎないけれど、一番見ててわかりやすいんだと思います。理解されやすいものは、伝播していく。だったら、変面を世界中のもっと多くの人に見てもらって、中国文化に興味を持つ人が増えるといいな。日本でも、変面の継承者としていろんなところに行って交流できるのが嬉しいんです」
 実際に、来日以来、神戸の南京町や東北の石巻市など日本各地でそのパフォーマンスを披露してきた。時には日本のアニメのキャラクターの面も取り入れるなど彼女らしい工夫で市民を楽しませている。彼女にとって変面は日本人とコミュニケーションをとるための大切な一手段なのだ。
 

次の顔へ、次の人生へ、中国から日本へ。
違うものをつなげていくことが面白い!

 「変面ってまるで人生をあらわしているみたいだと思います。顔が次々と変わるように、人生もくるくると変わっていきますよね。例えば私は2年前は中国で仕事をしていたけれど、今は留学生として日本にいる。別のストーリー、次の私が始まったんです」
 変面はその早技ばかりが注目されがちだが、実は一つひとつの面に意味があるのだという。歴史上の人物を表現していたり、喜怒哀楽や思想が潜んでいる。
 「色や表情の変化だけじゃなく、面の意味がわかれば、変面をもっと楽しめるかもしれません。そのためにはまず中国の歴史や文化を知っていないと」
 変面という芸術をより多くの人に楽しんでもらうために、中国の文化をもっと知ってもらいたいし、演者としての自分も日本のことをもっと知りたい。そんな思いで、彼女はこれからの夢を語る。
 「将来は、日中交流や貿易に関わる会社で働いてみたいですね。もちろん、変面を活かした活動も続けます。演技専門で活躍されている方は中国にも多いですが、私は大学で、様々な知識やビジネススキルも身につけて、社会人としての自分、芸能者としての自分の相互作用で、世界にチャレンジしてみたいと思っています!」
 
「加油(がんばれ)!東日本」のイベントで変面を披露する江玉さん。変面のお面は喜怒哀楽を表現する。手をかざした瞬間に面が変わる。
2011年6月神戸南京町にて。
 

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