龍谷 2010 No.70


龍谷人 国際協力って難しいことじゃない。「フツーの人」にもできることはたくさんある。

1980年生まれ。三重県出身。2003年国際文化学部卒。
高校時代にNGO(非政府組織)活動や国際協力分野に関心を持ち国際文化学部在学中から
フィリピンの貧困問題に取り組む特定非営利活動法人アクセスでのボランティア活動に携わる。
現在は理事、事務局長として事業計画の策定から予算管理、広報などの事務局業務全般をおこなう
一方で、年間に3-4度の現地活動をおこなうなど多忙な日々を送っている。
http://www.page.sannet.ne.jp/acce/
Facebook:野田沙良
Twitter:Sayon34
 
「生きる意味」とコスプレの青春時代


2005年12月都市スラムでの火災救援活動
都市スラム・アペロクルスで2005年12月に
大規模な火災が起こり、数百世帯が一度に家を
失った。その翌日からアクセスは救援活動に
入り、救援物資として配布する食料と
被災者リストを見比べてチェックしている
作業の様子。

 今でこそ誰とでも気楽に話せますが、じつは私、高校生の頃は半ば引きこもりのような性格だったんですよ。一応、学校にはちゃんと通うものの、「一体なんのために勉強するのか」「自分が生きる意味ってなんだろう」って小難しいことばかり考えて、同級生とうまくコミュニケーションができなかったんです。
 当時の唯一の楽しみは、大ファンだったロックバンドLUNA SEAのライブに行くこと。全国のファン仲間と連絡を取り合って、年に10回は通っていたんじゃないでしょうか。三重の小さな街からコスプレをしてライブ会場に出掛けるものですから、「あそこの娘さん、また金髪にしてるよ」なんて近所で噂されたりして。でも、そんなことも気にならないくらい熱中していました。学校は私にとって、自分らしくいられる場所ではなかったんですね。
 そんな私の未来を左右したのが、映画「ラングーンを越えて」との出会いでした。レンタルビデオ店で偶然手にしたこの映画は10代の私が探していた、「自分自身の生きる意味」を見つけるきっかけとなったんです。私が人生の意味をあれこれ悩んでいる間にも、世界には生きたくても生きることができない人達がいる。その現実はとてもショックでした。そして、私の人生は、そういう人達が安心して暮らせる社会づくりのために使おうと心に決めたんです。
 なんだか、真面目だか不真面目だかわからない青春時代ですよね。でも、この映画を見た日を境に「国際協力を仕事にする」っていう大きな目標ができました。ただ当時は、そのために何をすれば良いのかはまったく見当もつきませんでしたけどね。

フィリピンのごみ捨て場「スモーキーマウンテン」で働く子ども
フィリピンには800近いごみ捨て場があり、そのうちの一つがこのスモーキーマウンテン。この地区には現在、6500人もの人々が暮らし、リサイクル可能なものを拾い、廃品回収業者に売って生計を立てている。

 
現地で感じた、「もう他人事じゃない」
 龍谷大学に入学後は、半年間のアメリカ留学や、国際協力に関するメールマガジンの発行、学園祭でフェアトレードを紹介する展示を企画したりと、将来、国際協力分野で働くための準備に明け暮れていました。
 アクセスのことを知ったのは4年生の時でした。すでに一般企業に就職が内定していましたが、国際協力への気持ちをとにかく行動に移したくてボランティアとして参加したんです。そして、英語通訳として同行したフィリピンへのスタディツアーで、私の価値観が大きく変わりました。初めて現地で触れた貧困の現状。日本では「貧しい人達」という漠然としたイメージしか持てずにいたのですが、現地を訪れたことで、貧困のなかで生きる人々も「悲しいことがあれば泣き、楽しいことがあれば笑う」私と同じ人間なんだ、ということを実感したんです。そして、そこで出会った人達と交流を重ねるにつれ、「貧しい人達を助けたい」から「困っている友人を応援したい」という意識に変わった。もう他人事ではなくなってくるんですね。
 2年後には、一般企業を退職してアクセスに復帰。フィリピン現地インターンとして、おもに日本事務局とフィリピン事務局の間の連絡調整をおこなっていました。社会経験も乏しく、英語が少し話せるくらいの私にできることなんて、そう多くないことはわかっていました。ただ、2年間の現地生活を通じて、日本人のライフスタイルがじつはフィリピンの貧困とつながっていることなど、とても多くのことを学びました。
 「そろそろ日本に帰ろうかな」。そう感じ始めたのと、アクセスから「日本で常勤の事務局員として働かないか」と言っていただいたのは、ほぼ同時期のことでした。
 
いつか、LUNA SEAと一緒にチャリティライブを
 フェアトレードやスタディツアーなどフィリピンを中心に多角的なプロジェクトを運営するアクセスですが、最近の活動で特に力を入れているのは、近畿労働金庫さんと取り組んでいる「心のそしな」プロジェクトですね。これは預金の際に渡される粗品に代えて、その金額分をフィリピンの小学校・幼稚園の運営費や給食費に充てるというものです。
 フィリピンでは学校給食の制度がなく、必然的に昼食を食べることができない貧困層の子ども達の出席率が低下しています。2011年度におこなったプロジェクト第3弾では、85名の子ども達の1年分の給食費用に充てることで、栄養改善と学力の向上をめざしました。また、給食調理・配給を子ども達の保護者にボランティアでおこなってもらうことで、大人達の団結や社会意識を高める効果も狙いました。結果は予想以上の大成功。預金額は目標のおよそ3倍にもなり、子ども達の出席率も大きく上がりました。
 ここ数年、大学の講義や講演会などで、自分の経験をお話しさせていただく機会が増えました。国際協力ってそんなに難しいことじゃないんだ。普通の、特別な知識やスキルを持たない人でも、協力すれば社会を良くするためにできることはたくさんあるんだということを、もっとうまく伝えられるようになることが今の目標ですね。
 あとは、いつかLUNA SEAのメンバーと一緒にチャリティライブがしたい。20年越しのファンですからね。夢のようなはなしだっていうのはよく分かっています。でも、こうして人に伝えていれば、夢だってかなうかもしれないじゃないですか。

2年間担当していた都市スラム
フィリピンのマニラ首都圏パサイ市にある、アペロクルスという都市スラム。
2005年〜2006年と、アクセス・フィリピンのインターンとして、この地区を
中心に活動していた。

 
※「ラングーンを越えて」1995年アメリカ映画。苛烈な民主化運動に揺れるビルマ(現ミャンマー)でアメリカ人女性医師が体験した実話を題材としている。

※フェアトレード 商品のコストダウンのみを追求するのではなく、安心安全な生産と、生産者の生活に十分な賃金を保障する持続可能な経済活動。

※スタディツアー アクセスが取り組む一般向け現地学習ツアー。5日?12日間の日程で「事前学習」「現地訪問」「ディスカッション」「解説」をおこない、貧困問題への理解を深める。

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