今年、真宗学科、仏教学科、日本語日本文学科、英語英米文学科が開設して20周年を迎える。学科開設と時を同じくして文学部に着任した文学部長の越前谷教授と、その最初の教え子となった卒業生達が集まり、当時の思い出やそれぞれのその後について語り合った。
「しかし、みんな変わらんなあ」。越前谷宏文学部長のそんなひと言で18年ぶりの再会は始まった。
日本近代文学をテーマとする越前谷ゼミ、1994年度の卒業生がこうして集まるのは初めてのことだ。
今から20年前、文学部に日本語日本文学科が開設されたときに龍谷大学文学部に着任した越前谷教授。その最初の教え子となったのが当時3年生だった1994年度卒業生だ。
越前谷ゼミの思い出は?という質問には全員が口を揃えて「とにかく厳しかった」とひと言。
現在、大型スーパーマーケットで副店長を務める服部さんは「ちょっとした文章でも越前谷先生に見てもらうのにはとても緊張したんですよ」と当時を思い出す。
「当時はメールなんてありませんでしたから、夏休み中などは論文のテーマが決まると越前谷先生に葉書で連絡するんですよ。休みが明けた授業では論文のことよりも、まずは葉書の文章についてのお叱り。そんなことを繰り返していくうちに自分の文章力は鍛えられていったように思いますね。越前谷先生からすれば、『そんないい加減な文章では、社会に出てからは通用しないぞ』ということだったのでしょう」(服部さん)
「でも、とても優しい一面もあって」と話すのは、卒業後は福祉の道へと進んだ﨑山さん。
「就職先に文学とはまったく関係のない分野を選んだ私を越前谷先生は随分心配してくださいました。卒業前には、私の不安な気持ちを察していただいて『ちょっと相談にでものろか』と心配してくださったりして。厳しいだけじゃなかったんですよ」(﨑山さん)
「龍谷大学で経験したことは今の生き方へとつながっている」と話す服部さん。
「レポートで苦労したこと、ゼミで先生に叱られたこと。もちろんアルバイトや友人関係も全てそうです。当時はつらいと思っていたことも今振り返れば、『ああ、あの頃の経験は有り難かったなあ』と思えることばかりですね。」
高校の国語教諭として教育に携わる伊東さんは、論文を書く際に越前谷先生がいつも口癖のように話していたことが強く印象に残っている。
「とにかく『自信がないことは書くな』と何度も言われましたね。裏返せば、書きたいテーマについては徹底的に調べなさい、ということ。そんな学問に対する向き合い方は今の自分に大きな影響を与えています。今、高校生に作文指導をするときにもその心構えを伝えているんですよ」。当時の論文や、執筆のために集めた文献資料は今でも保管してあるという伊東さん。「なんだか捨てられないんですよ。苦労の結晶だからかな?」と笑う。
「学部で学べる内容には限界がありますからね。大切なのは基礎的なトレーニングです。トレーニングの素材は学部によって異なっており、われわれのように文学でもいいし、法律でも経済でもいいわけです。信頼できる情報を収集し、整理し、分析し、解決策を模索する。こうしたプロセスはどんな職業に就いたって同じです。学部でのそうしたトレーニングは社会に出ても必ず活かされます」と越前谷先生が話すと、一同強く頷く。
「学生のときには、福祉の仕事に就いたら文章とはもう縁がなくなってしまうのだろうと思っていました。でも、福祉の現場でも日々の報告書や研修、介護プランの設定など、客観的な根拠に基づいた説得力のある文章が要求されます。文学部での4年間で、知らず知らずのうちに積み上げていたものが今も仕事の助けになっていると感じますね」(﨑山さん)
市役所に勤務する松田さんは、就職活動が始まる頃、越前谷先生に言われた言葉が今も忘れられないと話す。
「就職氷河期と言われ始めていた当時、私達にとって就職活動は不安でしかありませんでした。4年生になった頃、越前谷先生がゼミ生を集めて『文学部は就職活動には不利だと誤解されているが、そんなことはない。たしかに実効性という点では、弱いかもしれないが、文学がない世界、物語がない世界を想像してごらん。荒涼としているでしょう。人生を豊かなものにするためには必要なものなんですよ。そうした自信を持って面接官に向き合えばいいんだ』と話されて、気持ちが楽になったことを覚えています」。現在、行政で文化芸術や人々の暮らしに関わる仕事に携わっている松田さんにとって越前谷先生の言葉は大きな自信につながっている。
「同窓生って有り難いですよね。こうして18年ぶりに会ったって『おう』『久しぶり』と時間の隔たりを感じさせない。みんな、卒業後の人生でいろんなことを経験しながら自分というものをつくり上げてきたから、かつての苦労話だって笑い合える。彼らと接していると、大学での4年間はとても大きな財産なんだなとあらためて感じます。勉強だけじゃないんですよね。なにかに一生懸命に取り組んだ経験は、きっと未来の自分の自信につながると思います。大学はそのためのトレーニングをする場所なんです」(越前谷教授)
主催:龍谷大学文学部
協力:龍谷エクステンションセンター(REC)
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