アラブの国営エアライン、エティハド 異国で暮らし、世界をまわるクルーの仕事とは

エティハド航空
江川 加津美(えがわ かつみ)さん
2010年国際文化学部国際文化学科卒

アブダビに本拠地をおくエティハド航空は、アラブ首長国連邦が世界に誇る国営航空会社である。オイルマネーを背景に、急成長を続けるこのエアラインは、設立8年目にして、世界各地に約80もの路線を展開。洗練されたサービスとラグジュアリーな空間が人気を呼び、数々の航空賞も受賞している。2010年より日本でも成田空港と中部国際空港に就航し、100名の日本人スタッフを採用した。その第一期生の客室乗務員として、世界を飛びまわっているのが江川加津美さんだ。ちょうどフライトで日本へ戻っていた江川さんに、謎に包まれたアラブの航空会社での仕事について聞いた。

機内でラマダンが明けると大騒ぎ?!

江川さんは、現在就航している路線全てに搭乗し、ファーストクラスである“ダイヤモンドゾーン”と、ビジネスクラスの“パール・ゾーン”を担当している。アラブの大富豪達は、フェラーリの内装で有名なポルトラーナ・フラウ社製の世界最高級革張りシートでくつろぎ、専属フード&ビバレッジ担当マネージャーが作る料理と、選りすぐりのワインを堪能。そんななかでのサービスは、もちろん最高級の質が求められる。機内のコミュニケーションは基本英語であるが、それでも日本人ながら、全く異なる文化にあわせて最高のサービスを提供している江川さんはすごい。

「特に、イスラムの国ではラマダン(断食)があり、この期間は日の出から日没まで、水ですら口を湿らす程度しか摂ることができません。このラマダンの明けを機内で迎えてしまうと、もう大変。空腹でイライラが頂点に達した乗客達からのコールベルは鳴り止まず、クルーは水を配ってまわるのに大忙しです」

日本では想像できない光景のなかで、江川さんの毎日は過ぎているようだ。時にはシリアやバグダッドなど、危険な紛争地域に飛ぶこともあるという。

「抑圧された地域から来られるお客さまは、旅行をすることを本当に喜んでいて、楽しそうに乗ってくださるので、こちらも嬉しくなりますね。自分でお金を払ってまでは、なかなか訪れない国へも行くことができ、いろいろな文化を感じられる。それがこの仕事の醍醐味です」

日本のサービスは世界では異質

そんな江川さんも、日本線を飛ぶ時は、ことさら気を使うという。驚いたことに、日本線だけは、専用の訓練を受けずには担当できないそうだ。訓練内容は、箸の並べ方に懐石料理の盛りつけ方、緑茶には砂糖を入れない、など文化的なことから、簡単な日本語の授業、また、日本人はその場では不満を言わないといった、メンタリティにまで及ぶ。日本のサービスレベルは世界的に非常に高く、よって日本人乗客は、ハイクオリティなサービスを求めてくる。

「今まで当然のように受けていた日本のサービスのすごさ、難しさを改めて知りました。外国線を飛んでいると、そこまでの質は求められませんが、それに慣れてしまうことなく、日本人であることを忘れずに、自分のなかにある基準でサービスをしていこうと思っています」

一緒に働くのは、120カ国から集まったクルー達。それぞれ文化も違えば仕事観も異なるが、外国人のクルーでも、日本線をたくさん飛んでいると、だんだん気配りができるようになって、日本人らしくなってくるというから、面白い。

「チームは毎回、一度のフライト限りのメンバー。客室乗務員だけでも8000人もいるので、ほとんどが初対面同士です。それでチームワークよく仕事するには、言いたいことはハッキリ言わないとやっていけません。日本にいた頃の自分と比べるとキッツイ性格になったなーと思います(笑)」

それでも外資の航空会社は働きやすい、と江川さんは言う。
「日本ではお客さまは神様。でもエティハドでは、一番大切なのは従業員です。クルーが肩や腰を痛めたら仕事ができなくなってしまう。だからお客さまの荷物を持つことは基本的にはしない、というくらい。日本では考えられませんね。上司にも言いたいことが言え、有給もしっかりとれるなど、制度はとても合理的。まさかアラブの航空会社で働くとは思わなかったけれど、自分にはあっていたなと思っています。」

現在、アブダビにある会社の寮に暮らす江川さん。8割が外国人という街は、夏の50度近い気温になることを除けば、英語が公用語として通じ、世界各国の飲食店が集う、とても暮らしやすいところだそうだ。何より、税金がない。フライトのない日は、趣味や勉強をする時間もたっぷりあるし、同僚達と一緒にご飯を作ったり、街へ繰り出して遊ぶこともあるといい、アブダビライフはなかなか充実しているようだ。

マイナスを乗り越えて夢をつかむ

高校生の頃から、航空業界に憧れていた江川さん。しかし、内定までの道のりは平坦ではなかった。

「英語が苦手。身長が低い。この2点は、客室乗務員になるには致命的な欠点でした」

初めて受けたTOEICは航空会社の条件点数に遥か及ばず、絶句。これは日本で勉強していても埒があかない、と思った江川さんは大学3年生の時に、思い切ってロサンゼルスに留学し、半年でなんとか英語力を身につけた。それからはじまった就職活動では、募集が出た会社は、片っ端から受けた。客室乗務員だけでなく、グランドスタッフ、総合職、パイロットまで総あたりでだ。そして、意外にも縁があったのが、身長制限162㎝以上のエティハド航空だった。江川さんは158㎝だったというのに。

「自分のやりたいことを実現するには、幅を狭めずにできる限りの挑戦をして、やりきること。そうすればきっと道は開けるのではないでしょうか」

実は、江川さんが本当になりたかったのはパイロットだという。しかし、視力が足りず、一度は断念した。しかし夢は未だ捨てず、自社養成パイロットの募集が出ると、必ず応募しているそうだ。日本から遥か遠くの異国で、江川さんは今日もたくましくチャレンジを続けている。


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