親和会だより

LECTURE “College Education and Career Design” 大学懇談会 【大阪】講演会「大学教育とキャリアデザイン」社会学部コミュ二ティマネージメント学科教授 東田晋三(ひがしだ しんぞう)
東田晋三(ひがしだ・しんぞう)1952(昭27)年、大阪出身。関西学院大学卒業。ベネッセコーポレーションキャリア開発事業部長を経て米国ジョージア大学シニアリサーチフェロー(上級研究員)に就任。大阪国際大学助教授から04(平成16)年4月、本学教授に着任。主な研究テーマは「日本に合ったキャリア教育の体系化」「コミュニケーション能力の養成を主体にした社会化教育の開発」など。大卒者採用拡大の中で

 実は私の娘も4月(04年)から龍大生なんです。住まいは東京だったものですから、てっきり関東の大学に行くものだと思っていたら“お父さん、私の受験番号があったよ”と(笑)。ですから、私も皆様と同じ親和会の一員です。
 ところで、昨年の10月28日の日経新聞に、約1000社のデータとして「大卒採用者3年ぶりに拡大」という記事が出ていました。ようやく就職状況も明るくなりつつあります。
 私たちには明るいニュースに違いないのですが、問題は、その採用の仕方なのです。バブル期にあったような、採用予定人数を埋める採用はなく、あくまで欲しい要件を備えた学生しか採らないということで、採用枠の拡大を素直には喜べないのです。要するに力のある学生だけを採るということで、基準はむしろ厳しくなっています。本当に自分が行きたい会社、やりたい仕事を見つけるのは、決して簡単ではないということです。

フリーターと正社員の差

今、フリーターの数は400万人にも上ると推定されています。「さまよう若者は、親の時代に作り上げられた豊かな社会の歪みを写す鏡だ」と評した新聞もありました。
 我々の時代のフリーターというのは、年功序列、終身雇用の体系から脱して、自分の道を切り拓いていくのだという、チャレンジャーとしてのニュアンスが強いものでした。しかし、今のフリーターは言うことは立派ですが、どこか現実に背を向けて逃げているようです。
 厚生労働省と経済産業省のデータでは、一部の高卒者を含めて20〜24歳の年収は131万円です。ところが、正社員では平均約250万円。月収で10万円の差です。社員教育費もフリーターにはほとんどありません。また、フリーターからの正規採用は基本的になくなりつつあります。フリーターには大きなリスクを伴うことを覚悟しなければならないのです。そのことを我々はしっかり学生に伝えなければなりません。

大学教員の基本とは

 2007年問題というのが、注目されています。1947年から49年生まれの“団塊の世代”が企業の前線から消え始めるのです。この世代は単に仕事ができる世代というだけでなく、苦しさを知る人間の優しさ、つまり、いろんな人とチームを組んで仕事をしてきた世代でもあり、龍谷大学が掲げる「共生き(ともいき)」を知っている世代です。この人材中の人材が消えるのです。企業は、この大きな穴を埋めていかねばなりませんから、入社試験で求められるのは、よりスキルフルでハートフルな、高いレベルの人材です。
 大学教育というのは、(1)読み書き話すというコミュニケーション能力(2)創造的で自主的な考えを備える人間になる(3)高度で専門的な学問水準の獲得−この3点が、基本中の基本です。この3点の能力が高ければ高いほど、そのまま企業の求める人材ということにつながっていくのです。ですからどういう科目であれ教員は学生にこの3つの力をつけるために全力で取り組む責務があります。

3年生から始まる採用試験

 就職活動は3年生の秋から始まり、上場企業の多くが翌5月の連休前後に内定を出します。しかし、辞退者の動きに伴った採用の山が6、7月にもあり、続けている限りチャンスがあるというのが、今の就職活動です。
 そんな中で、学生は多数の会社の試験を受けますが、9割方が落ちます。それで自信を無くしていくわけですが、気にする必要はありません。企業は個人の学習歴を前提にして、すごく元気のいい子を求めたり、逆にじっくり物事を考える人が欲しかったりで、不採用というのはご縁がなかっただけのことです。
 また、就職活動は、学生にとって実にお得な話なのです。企業は大卒の採用に多くの費用を使いますが、例えば、適性検査など数千円もするテストが無料で受けられます。面接でも、企業研究でも、大学で学習した知識や経験を実際の場で試すことができ、なおかつ評価までしてもらえるのです。「こんな得な話はそう多くはないぞ」と学生には話しているのです。

保護者の皆様へのお願い

 どの学生にとっても世の中に出るということは極めて負担の大きいことです。それと真正面から向き合わなければならないお子様の姿をリアリティーを持って思い浮かべ、その上で、保護者として出来ることを考えてみたいと思います。
 ひとつは、まず受容してあげることです。心の中では甘えるなと思っていても、だまって目を見て話を聞いてうなずいてあげるのです。そこで、ときたま子どもの話を「お前の考えはこうなんだね」と要約したり、整理してあげる。アドバイスは不要です。
 ふたつ目は、就職活動とは仕事を見つけることですが、実は最高の学習チャンスだということです。自分たちが勉強してきたことや課外活動などで経験してきたことを、実際に世の中で試してみる絶好の機会なんだということを認識し、その姿を誇らしく見てあげて欲しいということです。

大学懇談会(大阪会場)における講演会で熱弁する東田教授。多くの保護者が耳を傾けた。 “よろこび”を共有

 我々の龍谷大学も、多くの企業や行政から採用して良かったと言われるようになってきました。龍大生というのは、ガンバリ屋が多いと言われます。これは非常に誇らしいことです。龍谷大学のキャリア開発部の皆さんの地道な努力が実ってきているのだと思います。私はこれまで500以上の大学を見て回ってきましたが、日本に誇ることのできるキャリア開発部です。
 もうひとつ、何よりも卒業生の実績が積み重なってきていることです。どの企業にも活躍している卒業生が、必ずいます。そういう学生をいかに多く輩出できるかというのが、我々の使命だと思っています。ですから、学生を温かくサポートしていただいて、成果がより大きく膨らんでいく喜びを、保護者の皆様がたと共有していきたいと思っています。龍谷大学が掲げる「共生き(ともいき)」を、具体的な形で一緒に作っていくことができれば、これほど素晴らしいことはありません。

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