大学懇談会講演会

○PHPとは

PHP研究所は昭和21年に松下幸之助が創設した会社です。戦争が終わり日本の荒廃した社会を見たときに、松下は忸怩たる思いを感じておりました。
「平和」と「繁栄」、繁栄を通して平和で幸福な社会を実現したい(Peace and Happiness through Prosperity)。単に物質的に繁栄するだけではなく、心の繁栄が相まってこそ真に平和で幸福な社会が作れるんだということを松下は訴えたのです。それがPHP研究所の原点です。

○松下幸之助と西本願寺

松下幸之助と西本願寺とは深い縁があります。西本願寺の門徒総代が松下幸之助でした。

PHP活動を始めた松下は、戦争が終わって日本人の心が荒廃している要因の一つは、当時の日本では宗教が十分にその役割を果たしていないからではないかと考えました。だからもう一度宗教が興隆しないと日本の再生はできないということを強く思いました。それで西本願寺に行き、西本願寺の僧侶の方々に心の繁栄の重要性をお話ししました。昭和22年のことでした。その当時「PHP研究とPHP運動」という冊子を作り、これを持って松下は大阪梅田の駅頭など様々なところで話をしていました。「PHP研究とは、早く言えば人類に平和をもたらす方策の研究である。PHP運動とはPHP研究を助成し、研究の成果を普及し、これを実践して繁栄と平和と幸福とを実現する運動である。本来人間には繁栄・平和・幸福をもたらす使命が与えられているが、いまはそれが実現できていない。だからPHP研究を実践することによって、平和で幸福な社会を作り上げよう」と松下は語ったということです。

○PHPへの入社

松下幸之助は松下政経塾を昭和54年に開設したので、私を含めたPHP昭和55年入社組と松下政経塾の一期生とは同期になります。そんなこともあって松下幸之助からは「どっちも負けるな」というようなことを言われました。

その松下政経塾の一期生を採用するにあたり、「どういう人を採用するんですか」とマスコミから質問されたとき松下は、「運の強い人」と「愛嬌のある人」と 答えています。私は48歳のときに舌癌になり、舌を3分の1切りました。そして、昨年11月に脳梗塞になり体の左側に後遺症がありますが、どうにか復帰することができました。いまも社長として働けるのは、割合運が強いからではないかと思っています。

○仕事は知識でするものじゃない

私が入社したときに「新入社員と語る会」というのがありました。現在のPHP研究所の京都本部は8階建ですが、当時の旧社屋の3階には和室があり「研究・問答室」になっていました。そこに松下幸之助が座り、その前に新入社員が全員正座するんです。そのときに「仕事は知恵でするものだ、知識でするものじゃない」ということをくどいほど言われました。

松下幸之助という人は小学校しか出ていません。私たち大学を出た新入社員を集めて、月刊誌『PHP』を全国に普及しようと話しました。そのとき「そういう仕事をヨーイドンでスタートしたら、僕は絶対君らに負けない。何でかわかるか。君らは大学を出た。知識は君らの方が10持っている。僕は5しかない。だけどPHPを世の中に広めたいという熱意は、僕には 10ある。しかし君らは3くらいだろう。仕事は知識ではなく知恵でするものだよ。知恵には公式があって、知識×情熱"が知恵なんだ。だから絶対君らには負けない」と言われました。

○今求められる人材

PHPの採用では、筆記試験も重要ですが、より大事にしているのは面接です。一次、二次、三次面接のうち、最後の三次面接は私が面接します。龍谷大学からも一人採用させてもらいました。

私の採用基準というのは簡単です。基本的には謙虚さと愛嬌。それとハングリー精神があるかということです。負けず嫌いというか、こんちくしょうと思ってそう簡単にはあきらめない。いま会社が求めているのは、そういうタフさではないかと思います。

○ルンバ世代

 「ルンバ世代」という言葉があります。ルンバという掃除機は、たとえば段差がないフローリングなら動き続けます。しかし、段差があると、もう全然ダメなんです。

いまの若い方々は、みんな優秀だとは思います。しかし松下幸之助が言ったように、それは知識をたくさん持っていることにおいて優秀なのであって、それを活かして使えるかどうかは別だという感じが強くします。親の言うことをよく聞き、ころんで怪我もしない子はたしかに「良い子」です。しかし、ころんで怪我をしないと痛みはわからない。結局、何事も自分で経験してみないとわからないのです。

いまの若い人たちが、私たちが大学を出た頃とどこが違うか。注意して指摘してあげる人が少なすぎるんです。叱る人がいなくなった。いまの子どもや若者たちは、叱られたり指摘された経験が圧倒的にないんです。

○「人間力」が大事

龍谷大学の広報物を拝見すると、赤松学長が「人間力の涵養が大事だ」と述べておられました。まさにそうです。PHPは企業向けの研修もおこなっていますが、「人間力を向上させるにはどうしたら良いか」というテーマの研修のご依頼を多数いただきます。大阪の「がんこ寿司」の小嶋会長にいつも教えていただくのですが、「人間力はどこからくるかというと、経験値だ」と言われます。色々なことを経験して、そこから学ぶ。そこで人間力が磨かれるということです。

○「置かれた場所で咲きなさい」

新入社員を迎えて5年間で、その社員がどういう立場で将来仕事をするのかは大体わかります。入社して5年間必死になって働く人間は、大体伸びていきます。『置かれた場所で咲きなさい』という渡辺和子さんのベストセラーがありますが、どんな仕事でも、どんなポジションでも、いま自分が立っているところで精一杯自分自身を発揮する力を持っていると、自ずと道は開けてくるのだと思います。

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