龍谷 2009 No.68

学長対談│明治大学学長 納谷 廣美 × 龍谷大学学長 若原 道昭

わかはら どうしょう
1947年生まれ。
京都大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。
1982年、龍谷大学短期大学部講師に就任。
助教授を経て1992年から教授。
短期大学部長や副学長を務める。
2007年4月から現職。専門は教育哲学。

 

なや ひろみ
1939年生まれ。
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。
1968年、明治大学法学部専任助手に就任。
講師,助教授を経て、1980年から教授。
教務部長や法学部長等を歴任し、2004年から現職。専門は民事訴訟法。弁護士。


 
学長対談

 3月28日、明治大学との間で教育・研究活動の連携を中心とした大学間交流に関する包括協定と覚書が締結されました。この協定は、これまでも学生交流会などを通じて協力関係を築いてきた両大学の数理科学分野の連携をさらに強め、大学同士の結び付きも深める事が目的となっています。この協定締結を記念して、明治大学納谷 美学長と龍谷大学若原道昭学長の対談がおこなわれ「個を強くする大学」をスローガンに各分野で先進的な取り組みをおこなう明治大学と、浄土真宗の精神を脈々と受け継ぎ、伝統を継承しつつ革新を積み重ねて今年創立370周年を迎えた龍谷大学の互いの個性を確認し合いながら、大学運営や教育制度改革などについて活発な意見交換がおこなわれました。


若原 明治大学では納谷先生が2004年に学長に就任されて以来、今回の包括協定の原点にもなったグローバルCOEプログラムをはじめとして教育と研究における大きな改革がいくつもおこなわれていますね。

納谷 学長に就任したときにまず考えたのが、大学は社会との関係をもう一度見直さないといけない時期にきているのではないか、ということでした。そのために「教育体制の整備」、「研究体制の整備」、「教学運営体制の整備」、「社会貢献」の4つを柱にして大学全体を変えていこうとしたんです。今回の連携のきっかけにもなった明治大学先端数理科学インスティテュート(※1)設立の際には、それまで学部にしか置くことができなかった教授職を研究・知的戦略機構にも独自に配置できるようにするなど、大学の仕組みそのものから作り替えました。

若原 大学の強みや今後、伸びる分野をしっかりと『目利き』して、早い段階から仕組みづくりをしていく事が大切なんでしょうね。龍谷大学でも10年前に第4次長期計画を策定した際、各学部の研究を横断的に連携させる仕組みづくりをおこないました。それは現在、人間・科学・宗教総合研究センターとして実を結んでいます。そして今年2010年度からスタートする第5次長期計画のグランドデザインを策定しました。(こちらを参照)明治大学も「個を強くする」というスローガンを掲げておられますが、これには学生一人ひとりに対する大学側の支援を充実させるという意味もあるのでしょうね。龍谷大学では2003年から理工学部物質化学科の教育プログラムがJABEE(※2)の認定を受け、教育力の向上に取り組んできましたが、明治大学では、「教育の質保証」に対する取り組みはどのようにされているのでしょうか。

納谷 かつてのように教員ごとに好きな教材を使い、講義内容を自由に変えていたようなやり方は、現在では通用しなくなっていますね。これからの大学は少子化による志願者の減少を気にする前に、教員一人ひとりが学生に提供する教育内容について考え、努力していくべきでしょうね。明治大学でも理工学部でJABEEの認定を受けていますが外部の認証制度を取り入れる事も柔軟に対応していきたいと考えています。学生の進路については、教学と就職部を連携させた就職キャリアセンターという部署を開設し、OBなどを積極的に招いて産業別、企業別の分科会などをおこなっています。まだ完全とは言えませんが、大学の入り口の部分から出口を見据えたシステムをつくっていきたいですね。

若原 とても興味深い取り組みですね。受験生が大学を選ぶ基準のひとつとして重要視するのはその出口、つまり卒業生の就職先がどのような傾向にあるかはとても大きな要素だと思います。龍谷大学では従来のインターンシップを見直し、学生の自立とキャリア形成を支援するための教育プログラムとして位置付けた「協定型インターンシップ」を展開しています。就業体験を通して、学生が大学における学びの意義を深く理解することで、自律的に行動できる人間の育成につながると考えています。納谷先生は私立大学連盟の副会長や大学基準協会の会長など、大学外でのお仕事もとても精力的におこなわれていますね。そうした外での活動を学内にフィードバックしていくにはどのような工夫をしておられるのですか?

納谷 なるべくいろんなところに顔を出して、こちらから積極的に情報を得ていくように意識していますね。そうして得た情報を学内の該当部署にどんどん流して、大学が時代の流れに置いていかれないようにしています。大学も、私自身も風通しの良い状態を維持していきたいと思っています。

若原 私自身も私立大学連盟の理事、大学基準協会の評議員として納谷先生とご一緒させていただく機会も多いのですが、学長として大学外に出かけていく業務はますます増えていますし、多様になってきています。本当に情報もヒトも大学を越え国境を越えて往き来する時代になっていることを実感しています。
  めまぐるしく変化する社会情勢にともなって、今後、大学教育に求められる要請も多様化していくのだと思います。大学間での連携は、これまで単独では不可能だった研究・教育分野に協力して取り組み、互いの教学充実に影響し合うことができるという大きな利点があります。龍谷大学としては今回の明治大学との連携が本格的な大学間連携の第一歩です。これまでの研究者同士、学生同士の個人的な結び付きから、大学同士のより大きな協力関係を築くきっかけになればうれしいですね。
  また連携のパートナーとして選ばれるためには、それぞれの大学が独自の強みとなる分野を持たなければなりませんし、連携によってその強みをさらに伸ばしていくことが相互にとって意義のあることだと思います。


※1 明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)
2005年に設立された研究・知財戦略機構の附置研究機関として2007年に開設。社会・自然における様々な現象解明に向けた数理科学の発展と普及を図り、若手研究者育成や先端数理科学分野の国際的研究拠点の形成を目的としている。
※2 JABEE 日本技術者教育認定制度
大学など高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムが社会の要求水準を満たしているかを評価、認定する制度。審査・認定は非政府団体日本技術者教育認定機構がおこなっている。






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