龍谷 2007 No.64

教員NOW 逆転の発想で、バランス維持能力の評価訓練機器を開発!


堤 一義(つつみ かずよし) 理工学部機械システム工学科教授
堤 一義(つつみ かずよし)

大阪生まれ
神戸大学工学部電気工学科卒業
神戸大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了
神戸大学大学院自然科学研究科システム科学専攻博士課程修了、学術博士(神戸大学)
神戸大学大学院自然科学研究科文部教官助手
龍谷大学理工学部専任講師、同助教授を経て
1999年4月より龍谷大学理工学部機械システム工学科教授現在に至る

より便利に快適に、特別なスキルがなくても誰もが「結果」を享受できるようにする…そんな科学技術の恩恵を逆手に取った研究が、今、産官学連携で理工学部の堤一義教授の研究室で進められている。

試作機の外観
試作機の外観
 
堤教授と研究室のメンバー
堤教授と研究室のメンバー
手前左は6脚歩行ロボット、右は4脚走行ロボット
●「不便にする」技術で人間の能力を伸ばす

 両側に車輪のついたプレートにポールを付け、ポールを両手で持って立ち乗りする機器だ。バランスを取る練習を重ねてやっと乗りこなせる「不便な構造」が、人間のバランス能力の訓練に役立つ。
 形状は米国生まれの電動立ち乗り二輪車「セグウェイ(Segway)」そっくり。それもそのはず、開発のきっかけはセグウェイそのもの。「ジンジャー」の名で開発中から話題になり、「未来のスクーター」とも呼ばれているこの乗り物、ブレーキもアクセルもなく、体重移動だけで前進、加速、減速、方向転換などを行う。少し練習すれば誰もが乗れるようになる。
 3年前、滋賀県にある宮川バネ工業株式会社がセグウェイを入手、ブレーキがないので日本では乗り物として認可されないため、公道での乗り物として認可されるような改良ができないものかと考えた。滋賀県産業支援プラザの鹿間コーディネーターに相談、コーディネーターが産学連携事業として龍谷大学の産学連携窓口REC(龍谷エクステンションセンター)に持ちかけた。RECが堤教授を選定・仲介、セグウェイを預って検討の後、バランス維持能力の評価・訓練機器としての可能性を追求してみてはどうかと逆提案した。2005〜06年度の二年間、滋賀県健康福祉産業創出支援事業費助成金を得て、宮川バネ工業、びわこ成蹊スポーツ大学の運動生理学の医師と、産官学の4者連携で研究が進められた。名付けて「わさびプロジェクト」。ジンジャー(しょうが)の向こうを張ったネーミングである。

 「セグウェイも今回開発の機器も、原理は制御工学では基本テーマの1つである『倒立振り子』。機械の制御能力を上げると、セグウェイのように誰もが利用できる乗り物になります。そして、その性能をより向上させようとするのが乗り物製作としての工学です。逆に制御能力を下げると乗り物としての機能は失われますが、人馬一体とでも言いますか、人が機械の制御能力を補おうとして、人間のバランス能力を訓練する機器になるんですね。本件ではこの点に着目しました」

 プロジェクトの目的は高齢者の介護予防。バランス能力などの身体機能を鍛えることによって、転倒事故防止や寝たきり状態にならない身体作りに寄与するのが狙いだ。現在、人間のバランス能力を評価する方法は「閉眼片足立ち」程度しかなく、これは評価するだけで訓練にはならない。評価と訓練の両方を可能にする機器を開発、トレーニングセンターや病院のリハビリ機器として活用してもらおうと考えた。今年5月には日本機械学会、8月には日本体育学会で研究成果を発表、新たな研究成果は順次発表予定だ。

 「現在の機器でやれるのは前後のバランス能力の訓練だけですが、ビルディングブロック的にアタッチメントを取り付けて左右や斜め方向のバランスなど、次々と新しい能力の開発・訓練ができるようにするつもりです。さらには、様々なバランス維持能力を事前にチェックできる機能も考えています。それはつまり、自転車、一輪車、竹馬などを乗りこなせるかどうか、それらに乗らずしてズバリ言い当てる機械、ということになります。」

●機械と人間の相互作用に着目 「鉄腕アトム」実現を目指す

 堤教授の専門は、人工神経回路網、知能ロボット、メカトロニクスなど、脳の情報処理機能の解明と応用だ。「鉄腕アトム」のような「考えて行動する知能システム」を作り上げるのが目標で、「鉄人28号」の技術を発展させた「遠隔スポーツシステム(例 遠隔腕相撲システム)」の開発にも着手、ニューロンコンピュータと称される新しい処理系の構築をも目指している。

 「人間はすばらしい身体能力を持っています。ある作業を熟達した人間に制御させ、その動きを記録して機械の制御に使う『教師あり学習』的方法、さらに、試行錯誤で能力を身につける人間の『強化学習』能力を機械にも与え、機械自身が試行錯誤によって、その作業能力を獲得できるようにする研究も進めています」

 堤研究室では学生の研究活動も活発だ。学会発表に加えて、理工学部で年3回開催される研究室公開にも全員が全力投球。来訪者に見てもらうだけでなく、うまく説明するための工夫や準備に力を入れている。ラジオコントロールカー全日本選手権で7回チャンピオンになった学生も在籍、4脚ロボットでどこまでスピードを出せるかの研究を進めている。

 OBも元気だ。この春の学会では、先に紹介したバランス維持能力評価訓練機器に取り組んだ大学院生が、若手研究者対象の「日本機械学会フェロー賞」を受賞、卒業後は本田技研工業で活躍している。先輩・後輩の交流も活発である。


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