龍谷 2007 No.63
Ryukoku University HEIAN 理想の教育連携が実現!

中学・高校・大学の接続で連動する学びを実践 平安+龍谷ならではの高大連携の未来形をめざす

2008年4月、いよいよ龍谷大学付属平安中学校・平安高等学校が動き出します。建学の精神を共有する両校が教育連携を推進する意味とは何か若原道昭学長と安井大悟校長が語り合いました。

安井大悟 若原道昭

若原道昭 ●龍谷大学学長
若原道昭(わかはらどうしょう)

1947年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程満期退学
‘82年龍谷大学短期大学部講師に着任。助教授を経て‘92年から教授
短期大学部長や副学長を務める。2007年4月から学長
専門は教育哲学

●平安中学校・平安高等学校校長
安井大悟(やすい たいご)

1945年生まれ。立命館大学大学院文学研究科修士課程修了
‘70年4月から平安中学校・平安高等学校の教壇に立つ
教頭を経て2001年9月から校長
専門は地理学
安井大悟


■長年の願いが教育連携で実現

安井 龍谷大学と平安高等学校は1995年に「教育連携推進に関する覚書」を締結して以来、高校と大学の新しい連携のあり方を築くために努力してきました。長年にわたるお互いの願いが実を結んだことは、私自身とてもうれしいです。

若原 本当に喜ばしいことです。龍谷大学と平安は歴史的にも地理的にも近い関係にあり、もっと早くから付属化を進めることもできました。しかし、本来あるべき高大連携の系統的教育を実現するため、両校の先生方がじっくり時間をかけて協力・連携し、教育プログラムの開発・実施に取り組んでいただきました。おかげで本当に良いかたちで付属化を実現することができたと思っています。

安井 龍谷大学の協力を受け、2002年4月から教育連携を拡大強化し、翌2003年度からは男女共学・2期制・3コース制(プログレス・クリエイト・アスリート)を導入しました。5教科(国語・英語・数学・理科・社会)については、高校の教育活動に大学が深くかかわった形で展開できるように、高校と大学の先生が教科ごとに「教科ワーキンググループ」をつくり、カリキュラムの内容や指導方法、教材開発などを研究してきました。2003年の学校改革から4年たったわけですが、教育内容や学習支援体制などに高い評価をいただき、志願者数も順調に増えております。
 改革で私たちが大事にしたかったのは、基礎学力をつけるということです。中学校の教育は中学校で、高校の教育は高校で、それぞれの教育を完結させた上で、中学校から高校へ、そして大学へと接続させ、一貫教育を実現していきたいと考えました。目先の受験のため、付属化のため、ということではなく、大きな視野で連携を進めてきたところに特長があると思います。

若原 最近は中学・高校の付属化を進める大学が多く、マスコミには「学生確保」や「囲い込み」という表現で取り上げられることがあります。しかし、平安と龍谷大学の場合、安易な付属化ではないとはっきり強調することができます。まず育成すべき人間像を共有するというところから始め、教育の連続性の確保に努めました。今まさに機が熟して付属化したといえますね。

■いのちを大切にする建学の精神

若原 この連携は建学の精神を共にしているからこそ、実現できたと思います。龍谷大学は浄土真宗の精神を建学の精神としていますが、21世紀の本学のあり方として「共生(ともいき)をめざすグローカル大学」という大学像を掲げています。
  「共生」とは、すべての存在は縁(よ)って起こっているものであり、すべての存在は相互につながり、支えあっているという縁起思想に基づいています。自らの自己中心的なあり方や利己的排他的なあり方を反省し、他によって生かされているという自覚と感謝と謙虚さをもって生きること、そして共にいのち輝く世界へと生きていくことを教えられます。仏教というと若い人たちからは敬遠され気味ですが、現代を生きるために必要な智慧が詰まっています。若いうちから仏教の精神に触れることは人生の財産になることでしょう。
 龍谷大学では、共生の精神を大切にしながら、地域(ローカル)に根差した様々な分野の教育・研究を展開し、その成果を世界(グローバル)に発信することをめざしています。

安井 平安でも宗教的情操が自然に身につくように、折にふれ「いのち」の尊さを生徒たちに訴えています。
 人間は多くのいのちをいただいて生きています。ムダないのちはひとつもありません。自分のいのちと同じように相手のいのちも大事に考え、感謝の気持が素直に出る生徒を育てようとしている学校です。その先に建学の精神を同じくする龍谷大学があるというのはすばらしいですね。

若原 すべてのものはつながり合い、支え合って存在しています。21世紀の日本は科学技術創造立国をめざして歩んでいますが、このような時代にこそ、自己中心的な生き方を改め、自分の殻を破り、より豊かに創造的に考え行動し、世界に通用する人間が求められます。中学・高校・大学で人格教育をしっかりやることによって、そういう人間が育つと確信しています。

安井 人間は支えられて生きていることを忘れ、自分本位でわがままな行動を取りがちです。現代の子どもたちは、さまざまな悩みや問題を抱えていますね。
 例えばいじめの問題ですが、教員と生徒が近い距離にいる平安では、いじめも小さな「芽」の間に摘み取ることができるシステムをきちんともっています。学校全体でいのちを大切にしている平安でぜひ学んでほしいですね。いのちを尊ぶ私たちの建学の精神に共感して入学する生徒が、今後は増えていくでしょう。そしてこのような生徒たちが龍谷大学に学び、世界で活躍していくことが期待されるわけですね。

■基礎学力と人間教育を重視

安井 付属化という「形」を優先させるのではなく、先に学びの「中身」を組み立てたことが意義深いですね。いくぶん遠回りのようですが、強固な仕組みづくりができたと思っています。

若原 2000年前後から全般的に学生の学力や学習意欲の低下が問題視されるようになっている中で、大学が求める学力、高校で身につけるべき学力を備えた生徒を育てていただけるのはありがたいことです。
 受験を前提にした教育ではなく、ゆとりをもって、将来を考えながら自分のペースで勉強していく、これが本来の教育の姿であり大きな意味をもっています。大学が高校のカリキュラム内容などに立ち入って議論することに対して、反発されることもなく、熱心に取り組んでいただいたことに感謝しています。これにより、高校と大学のカリキュラムが重複することがなくなりました。

安井 近年は入試の多様化が進み、私立大学の場合、3教科あるいは2教科入試も増えています。高校で履修しなかった科目に対して、大学で再教育の時間を割いておられます。つまり必要な学力がついていない学生が多いということですね。
 例えば経済学部は文系学部と言われますが、数学・Bまでの基礎学力がないと大学の講義についていけない。これは、教育連携を通して、お互いの教育を理解しあえたから言えることで、学びの接続という視点から高校・大学間の教育を見直す良い機会になりました。

若原
 両校の建学の理念に基づき、人格教育に関しても緊密に連携できることも大きな特長となりました。大学の教育は、人格教育が土台にあって、その上で幅広い教養を身につけ、そして専門的教育へと発展させていくことが大切であると考えています。ですから、中学・高校時代から人格教育を受け、幅広い教養を身につけた生徒なら、大学で本当に勉強したいことに打ち込めると期待しています。

安井 私たちは「何になりたいか」より「どういう人になりたいか」を自分で考えることのできる生徒を育てたいと願っています。「人間の育成」は学校教育の最大の目的です。学校はどういう人間を育てたいのか、世の中から問われています。中高で行なった人間教育を大学へとつなげることができるのは、10年間かけて育てるのと同じ。本当に心強い引き受け先を見つけたと喜んでいます。

■中学・高校と大学連携の新しいかたち

若原 これまで「教科ワーキンググループ」を中心に、龍谷大学と平安高校の教員が相互交流し、教育方法や内容について議論を重ね、お互いの教育について理解を深めてきました。他の学校には見られない理想の教育連携を実現できましたが、2008年度からは付属校ということで連携はさらに強化できますね。

安井 付属校のメリットを生かして、学校設定科目として高大連携科目をできるだけ多く設定したいと考えています。例えば「現代を学ぶ」「理数研究」など、いくつかの科目を考えているのですが、これらの科目は受験にとらわれない幅広い教養を養成するため、教科・科目間の連携を深めるとともに、高大の学びの接続を重視しています。教科間や高校・大学の垣根を越えて、高校と大学の教員が一つの科目を共同で企画・担当し、生徒の学ぶ意欲と探求心を育む多様な授業を展開したいと思っています。
 また、今後は中学の授業にも大学にかかわっていただけるように検討していきたいです。

若原 大学教員はいわば専門家集団ですから、より専門的な視点で興味深い講義やアドバイスができると思いますよ。大学からの一方通行ではなく、中高の先生方にも積極的に大学の教育現場で活躍してもらいたいと思っています。

安井 そういえば、龍谷大学の教職課程における「模擬授業」の講義を平安の教員が担当していますが、今後は教員志望の学生さんにどんどん実習に来ていただけます。これまでに信頼関係が十分にできあがっているので、交流はスムーズに進んでいくでしょう。

若原 行事や課外活動の交流もできますね。

安井 平安では毎月、学習範囲の到達度を確認するため、ステップアップテストと週3回の朝テストを実施し、生徒の理解度をきめ細かにチェックしています。一定の基準に到達していなければ補講で徹底的にフォローをするわけですが、学部生や大学院生がティーチング・アシスタントとして授業に入ったり、個々の生徒にアドバイスをしてもらったりするのもいいですね。



■龍谷大学は平安高校の皆さんを歓迎します!

若原 龍谷大学は日本で一番古い歴史をもつ大学で、7学部1短大を擁する総合大学です。ぜひ龍谷大学で勉強したいことを見つけてほしいと思います。私としては平安高校を卒業される多くの生徒に龍谷に来ていただきたいし、皆さんの夢が叶うように、私たちも努力していきます。

安井 私は35年以上、中学・高校の教員をしてきましたが、人間を評価するのはとても難しいと痛感しています。成績表では点数で客観的に評価せざるをえませんが、点数評価はあくまでも結果でしかありません。それよりも我々の最も大事な使命は、いかに少年期・青年期の土台づくりを丹念にしてあげられるかです。中学・高校・大学の10年間、大切な子どもさんを預かるわけですから、我々が果たす責任は重大です。

若原 平安で培った土台に、龍谷大学の豊かな教養教育と高度な専門教育を積み上げて社会に送り出していく。そのために龍谷大学は、常に質の高い教育を維持し、提供していくことが使命だと確信しています。

コース・高大連携教育プログラムの流れ(イメージ図)


【広がる高大連携事業】

上宮高等学校との高大連携に関する協定締結について

 龍谷大学と上宮高等学校(大阪市天王寺区)は、去る7月12日、高大連携に関する協定を締結しました。

1・協定締結の目的

 今回の協定締結は、両校の教育内容のさらなる充実と学生及び生徒の資質の向上を図るため、相互協力の下、さまざまな高大連携事業を実施することを目的としています。

2・高大連携事業の概要
 龍谷大学は、上宮高等学校の生徒に大学での学問や学び方を理解してもらい、大学進学に対するモチベーションや学びの意欲・関心を喚起してもらうために、将来の進路選択(大学・学部選択)に役立つ教育プログラム(1〜3年)を提供します。3年生プログラムを実施する文・経営・社会・理工学部については、本学推薦入学試験と連動させます。

 こうした大学による高校の進路学習への支援だけでなく、高大連携の双方向化に向け、龍谷大学が実施する入学前教育やリメディアル教育、教育実習への上宮高等学校からの協力、両校の教職員の資質向上のための研修、高校生・大学生による高校現場における様々な教育活動の体験など、広範囲にわたる連携事業を展開する予定です。



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