広報誌「龍谷」

激動する世界情勢、排他的な風潮も強まってきている今、大学教育はどうあるべきなのかをあらためて考えています。本学は378年という長い教育研究歴を持っています。明治の初めに 廃仏毀釈という仏教大弾圧があったとき、西本願寺がはじめた先進的な取り組みの一つに、本学の前身である大教校、地方に中教校、小教校の設置がありました。当時新政府が進めていた学制と張り合うような形で、浄土真宗の精神に基づく人材育成組織を裾野の広い形でつくり上げたのです。明治35年には大谷探検隊が世界に向けて研究発信をおこなっていました。その力強い情熱をもう一度ここで取り戻すべきではないでしょうか。

「利他的な人間の育成」、これが学長として私の一番めざすべき仕事だと思っています。我々仏教系の大学こそが、利他の精神で世界を包み、排他の空気を一掃していかねばなりません。「今、慈悲の心を世界に」と、1月に本学の世界仏教文化研究センターのシンポジウムで講演された、ジャーナリストの池上彰さんもおっしゃいました。それは本学だからこそできることなのです。

浄土真宗を建学の精神とする本学では、独特な教育が施されています。各学部一つひとつは他の大学にもあるものですが、「龍谷大学で学ぶ」となれば根っこが明らかに違う。根っこを育てることにあたる時間が、1 年生時の必修科目「仏教の思想」です。そこでは釈尊と親鸞聖人を通して仏教の考え方を学ぶと同時に、「常に我が身を省みる」習性を身につけるのです。大学生になって、自由になったという気持ちになると思うのですが、そのときにふと立ち止まって、今ここに自分がいるのは、自分だけの力によるのか。そうじゃない。親兄弟、先生や友人など「自分以外の者が関わり、支えてくれてこその今の自分」、これに気づくことが「利他の精神」を涵養することにつながっていきます。

日本では震災以降、学生達のなかで、ボランティア活動などを通して社会に貢献したいという気持ちが明らかに高まっています。同時に、仏教への関心も強まってきました。それは「いのち」に対する関心でもあります。現実を直視して、現代の課題と向き合う知性を鍛錬していく。これが教育の質の向上につながると思います。人間としてどう生きるかを学び考える教育、これが龍谷大学の大きな特色です。偏差値で計ることのできない価値の創造は、志の高い高校生にも伝わるはずです。

ブランディングは、スローガンを掲げて顔の見えない人達に訴えるということをやりがちなのですが、まずは自分達、内部の構成員がそれを実践する気になっているかどうかが肝要です。その波動が社会に伝わっていくのです。いま本学にはすぐれた教職員がたくさんいますから、叡智を出し合って、「慈悲の心」「利他の精神」を具体化して発信していくことがブランディングとなるのではないでしょうか。仏教総合博物館である龍谷ミュージアムの外観には「波」のモチーフがデザインされています。仏教精神の波動を意図したものです。私は今、龍谷大学から「波」を起こしたいと思っています。「波」を起こすのは学生一人ひとりです。人間の存在を深くみつめる習性を身につけた学生諸君が、専門知識と幅広い教養でもって未来へと力強い一歩を踏み出していく。その波動が、産業界や法曹界、さらには地域社会へと伝わるよう全面的に支援していきたいと考えています。龍大生の大いなる飛躍、ご期待ください。

広報誌「龍谷」2017 No.83(Ryukoku University Digital Libraryへ)


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管理栄養士の卵がサポート 選手達のカラダづくり 農学部 食品栄養学科 石原 健吾 准教授

管理栄養士の卵とアスリートをマッチング

本学では全国的にも珍しく、農学部に管理栄養士養成課程(食品栄養学科)が設置されている。食糧の生産・消費という循環のなかで、消費者に最も近いところにいる管理栄養士は、栄養と健康の専門家。平均的な大学の管理栄養士養成課程では、食品やヒトの体についての学習はおこなうが、食糧生産を体験することはない。龍谷大学農学部を巣立つ管理栄養士は、全員が田植えや収穫、食品加工などの「食の循環実習」を経験する。同じ農学部の、生産分野や社会経済分野などの他学科生と混ざり合って学ぶ土に根ざした体験が、食の安心・安全を知り、日本人の健康を支える管理栄養士を育てる。

日本人の健康を支えるもう一つの要素が「運動」の観点。食品栄養学科には、アスリートを栄養面から支えたいという夢を持つ学生達がいる。厚生労働省のガイドラインに準拠したカリキュラムのなかには、病院や学校、企業、介護施設などの現場はあっても、スポーツ選手を意識した実習がない。一方で、学内には様々な体育会系部活動に励む選手達がいる。一人暮らしの選手や、トレーニングを終えて夜遅くに帰宅する選手は、食事の栄養バランスや規則正しさまでは目を向けきれていない。そんな選手達と、スポーツ選手に関わる実践の場を求める管理栄養士の卵をマッチングさせよう、というのが石原健吾准教授の取り組みである。管理栄養士の学びを充実させ、龍谷スポーツの強化にもなるプロジェクト「RYUKOKU SPORTS+N(栄養)」。

選手から依頼があると、石原准教授と食品栄養学科有志の学生達が立ち会って、食生活チェックや身体計測をおこなう。筋肉量や体脂肪率、貧血や骨密度の検査、運動能力測定からも食事背景が見えてくる。鉄分が不足していれば赤身の肉や魚の摂取を奨めるなど、授業で得た知識から学生がアドバイスする。

広報誌「龍谷」2017 No.83(Ryukoku University Digital Libraryへ)


あなたの手中にある 「今、ここ」を大切に

あなたの手中にある 「今、ここ」を大切に アウン・サン・スー・チー氏 ミャンマー国家最高顧問

2016年11月、京都迎賓館に本学学生10名が出向いておこなわれた特別ゼミナール。本学元教授大津定美・典子夫妻の進行で、ゲストは、大津夫妻と親交の深い、来日中のミャンマー国家最高顧問アウン・サン・スー・チー氏である。学生達は彼女と机を囲み、英語で直接インタビューをした。

ミャンマーは今、壁を乗り越えていくとき

―― これからどんどん発展していくと予想されるミャンマーで、伝統として残したいものはありますか?
スー・チー氏「 起こるかもしれない困難に、立ち向かえるようにする力ですね。私はそれを教育だと思います。困難がどのようなものかは、まだわかりませんが」

―― 新しい投資法が施行され、今後ミャンマーの経済はどのように変化すると思われますか?
スー・チー氏「 ASEANの基準に適合した、外国からの我が国への投資が簡単になる法律を導入しました。地元の企業家にとっては、国際競争にさらされるので良く思わない人もいますが、発展途上国が直面すべき問題であり、乗り越えていくべきです。これによって経済発展を速める。それが狙いです」

―― 一度仕事をやめて主婦になられたのはなぜですか?仕事をしながら結婚・子育てをしたいと思っている、日本の学生にメッセージをください。
スー・チー氏「 子どもが小さい頃は彼らに私が必要だったのです。子育てはとても楽しい記憶として残っていますよ。家族の絆を築くことができ、政治の仕事を始めた後、それがどんどん重要になりました。家族にあまり会えませんでしたからね。しかしこれは、誰もが自分で決めなければならない選択です。もちろん夫も子育てに関わる責任があると思います。今日多くの社会で家事の分担が進んではいるものの、実際はやっぱり女性の負担が大きいです。日本の男性を教育しなければならないですね。典子さん(大津夫人)から学んでください(笑)」

参加した学生の様子

広報誌「龍谷」2017 No.83 最新号

広報誌「龍谷」2017 No.83

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