広報誌「龍谷」

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人・本・旅で生き方に目覚めよう

ライフネット生命保険株式会社 創業者

出口 治明

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龍谷大学学長

入澤 崇

斬新なビジネスモデルで注目のライフネット生命を生み出し、育て上げた出口治明氏。 古都・京都を本を片手に歩んでいた、それぞれの学生時代に思いを馳せつつ、若者に必要な学びとは何か、入澤学長と語り合った。

「人・本・旅」の出会いで自分の言葉で世界を語れるように

入澤:出口さんが日頃言われている「人・本・旅」について、まさにいつも私も同じことを思っておりました。今日は大学教育への考えをお聞かせいただけますか。

出口:大学は明日の日本です。30年先の日本のリーダーは、確率で言えば、今の大学で学んでいる人の可能性が高い。そうであれば、今の大学のレベルが、将来の日本のノー ベル賞や、GDP、年金の姿をつくる。みんなが楽しい生活をするためには、いいリーダーを育ててほしい、となる。いいリーダーになるためには、たくさん人に会い、たくさん本を読み、いろんな所に行って見聞を広げることです。特に大学の4~5年間は、相対的に時間に余裕のあるとき。この間に、「人・本・旅」で勉強せずしていつ勉強するのか。大学がこの国の将来を決める。なんとなく進学してきた若者に対して「人・本・旅」で賢くなればこんなに楽しいことがある、と理解させるのが大学の役割だと思うんです。

入澤:私の頃は大学紛争の一番最後の年でしたから、授業もあまり開かれてない状況で、果たしてこのままで良いのかなとは思いながら、京都の町をウロウロしていましたね。ただ本はいつも持っていました。そして、おっしゃるように「人」がターニングポイントになりました。3年生のときのパーリ語の先生が「ちょっとアフガニスタンに行ってくる」と見せてくれた写真が、仏像の横にヘラクレスがいるというもの。「なんじゃこれ」と自分の世界にないものを観て衝撃で。そこから今につながる学びの一歩を踏み出したのです。

出口:僕はほぼ全共闘時代で、ひたすら下宿で本を読んだり、京都の町をぶらぶらしていました。けれど先生に教えていただいたことはいくつかあって。国際政治学者の高坂正堯先生からは「古典は時代背景がわからないから難しいが、現代の本を読んだり話を聞いたりしてわからなければ、それは書いたり話したりしている人がわかっていないか、わかっているけれどえぇ格好して難しいことを言っているだけや。そんな本は読むだけ時間の無駄やで」と、人や本の選び方を教えていただきました。僕は最初の10ページで面白くない本は読みません。またあるとき「日本の仮想敵国は?」と聞かれ、当時はまだ東西冷戦の最中だったので「ソ連に決まってる」とか「いや共産中国も怖い」と答えると、先生はカラカラと笑って「仮想敵国とは、例えば工業製品なら、同じような物を作って、同じような人々に売ってる国のことを言うんや。そしたら日本の仮想敵国はアメリカしかあらへんやんか。そんな当たり前のこともわからんかったらあかんで」と。こういう一言一言って印象に残ってますよね。やっぱり社会常識を疑う力こそ大切。一度常識を疑って、土台から自分の頭で自分の言葉で考えて、なるほどと思うことを語る。僕はそれこそが、学問というか人間が生きていく上で一番の基本だと思っています。大学でそこを学生に気づかせてあげればいいですよね。

広報誌「龍谷」2017 No.84(Ryukoku University Digital Libraryへ)


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内側から体感する祇園祭

国際学部 国際文化実践プログラム
京都学実践フィールドワーク 祇園祭

泉 文明 教授

町衆とともに祇園祭を担う

7月14日祇園祭宵山の初日、御朱印を求める人や、厄除けの粽を買う人で賑わう霰天 神山(あられてんじんやま)の町会所を留学生のジョスィー・エィミ(イギリス)さんが訪ねた。そこでは橋本麻愛さん(国際学部2年生)が、町内の方々や舞妓さんとともに粽の販売に奮闘していた。

これは国際学部泉文明教授による「国際文化実践プログラム 京都学実践フィールド ワーク」の一環で、町衆と関わりながら祇園祭を内側から支えるスタッフとして体験するもの。自らも参加し、汗を流す泉教授は、祇園祭がおこなわれる鉾町の近隣の出身で、山鉾が建つ町内に知り合いも多く、自身の伝手を活かし学生が体験できる場を広げてきた。祇園祭をきっかけに、まだ知り得ていない国内の文化にも目を向けようという目的がある。

「地元祇園祭への参加は、観光客としてではなく、内側に入り込み、町衆の方々とコ ミュニケーションをとりながら、伝統や習わしを教えていただけるところが貴重です。また運営側に立つと祭を社会的かつ経済的な視点で見つめることができます。事前学習では祇園祭の歴史や位置づけ、他の祭との関連性の調査や比較、懸装品から見えるその時代の海外との関係などに学びを広げます。祇園祭というテーマから、異文化理解のための様々な気づきにつながっていけばと考えています」(泉教授)

祇園祭を初めて訪れたジョスィーさんは「見たこともない世界。近代的な街並みのな かに、伝統の固まりのような山鉾が存在するなんて、昔と現代が交差する不思議な感覚に包まれています」と感動していた。

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モンゴル帝国の新たな姿を映し出す手がかりを発見

モンゴル帝国の
新たな姿を映し出す
手がかりを発見

農学部 食料農業システム学科(歴史学担当)

中田 裕子 講師

文学部

村岡 倫 教授

日本人なら誰もが知っている、チンギス・ハン。彼の築いたモンゴル帝国はユーラシア大陸を横断し、地球の4分の1にあたる巨大な領土と一億人を超える人民を支配していた。野蛮で暴虐な人物だと思われがちなチンギス・ハンだが、そのイメージは間違っているかもしれない。

昨年9月、この遊牧民の王の違う一面を指し示す歴史的な発見が、本学の農学部食料農業システム学科中田裕子講師らの研究グループによってなされた。モンゴル国西部でおこなったハルザンシレグ土城遺跡の発掘調査において、モンゴル帝国時代に作られたものと思われる仏像の手と足を発見したのだ。

この発見から見えてくるチンギス・ハンとは、モンゴル帝国とはどのような姿なのだろうか。調査プロジェクトに携わってきた中田裕子講師と村岡倫文学部教授に、発見の詳細と歴史的意義について伺った。

中田:我々は、1994年に日本とモンゴルの歴史学・考古学の研究者達によって結成された共同プロジェクトの一員として、モンゴル国において碑文や遺跡の調査・研究をおこ なっています。プロジェクトチームは、2001年と2004年のモンゴル西部アルタイ地方での現地調査で、長年研究者の間で謎とされていたチンギス・ハンの軍事拠点であるチンカイ城がハルザンシレグ土城遺跡にあたることをつきとめました。

2004年の調査では本学の大学院生として参加した中田講師。初めて降り立ったモンゴルの地では「真実を明らかにしようとする研究者達の姿を目の当たりにし、その熱意を肌で感じた」という。それから10年以上の時を経た昨年、彼女が研究代表者となって本格的な発掘調査を開始するやいなや、今回の発見となった。

広報誌「龍谷」2017 No.84(Ryukoku University Digital Libraryへ)


発掘調査に立ち会うエルデネ・ボルドさんと中田裕子講師

広報誌「龍谷」2017 No.84 最新号

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