広報誌「龍谷」

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自省と利他が
人を優しく強くする

フォトジャーナリスト

安田 菜津紀

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龍谷大学学長

入澤 崇

フォトジャーナリストとして、東南アジア、中東、アフリカ、日本と精力的な活動を続ける安田菜津紀さん。現代社会における宗教の役割、人間の可能性、教育と希望について、入澤学長と語り合った。

入澤:安田さんは、困難な状況にある人に真摯に向き合い、世界各地の子どもたちの写真などを通して平和のメッセージを発信し続けておられます。そうした活動や生き方の原点はどういうところにあるのでしょうか。

安田:高校生の時にカンボジアに渡航し、人身売買の被害にあった子どもたちを保護する施設でお世話になりました。私と同世代で壮絶な経験をしているにもかかわらず、彼ら彼女たちが口にするのは、自分の体験の辛さや悲しさや怒りではなく、故郷の家族への思いや気遣いでした。カンボジアは「家族」の定義が広く、血縁に限らず「自分以外の守りたい誰か」という意味で話してくれていたのですが、モノが溢れた日本から来た自分にとって、とても衝撃でした。そんな経験をしてなお「守りたい他者」のために生きようとする子どもたち。入澤学長がおっしゃる「利他」ですね。それによって彼らはこんなに芯が強くあれるし、人に優しくあれるし、人に優しさを配れる。自分はどうだったのかと省みて、「自分しか守るものがないってこんなに脆いのか」と、初めて気がつきました。それがこの仕事についたきっかけでした。

入澤:「自省」と「利他」は本学の教育が大切にするところです。本学に障がいをもつ同級生を支援する学内団体があります。自立就労支援が高じて靴磨き会社を起業し、昨年、京都市役所の近くに店舗をオープンしました。メンバーのなかには自分もひきこもりだったが大学に入って友達に支えられて活動を始めたという学生もいます。他者のために動くことで、自分自身も一歩踏み出せる人間に成長していける。学内でそうした循環が生まれているのを目の当たりにして、教育者としてこんなに嬉しいことはありません。

安田:素晴らしいですね。大きな社会問題と捉えてしまうと自分を小さく無力に感じてしまいがちですが、自分の同級生との「あなたとわたし」という関係性のなかで、一緒にできることを考え、実践に移していく。聞くだけで力をいただける感覚があります。一方で、世界を見ると、自分に利さない他者との間に物理的な壁まで作ろうとしたり、ヨーロッパでも移民難民の受け入れを拒否したり、日本は韓国との関係が緊張するなど、排他的で攻撃的な言動が世界を覆っています。利他とは真逆のこうしたうねりのなかで、いま教育現場ではどのような実践に取り組んでおられますか。

入澤:本学は全学部の一年生が「仏教の思想」を必修科目で学びます。そこで自分を省み、自分がいかに自己中心的であるかにまず気づくことを重視しています。他者との関係性のなかで私たち人間は形成されていく一方で、災害や戦禍に苦しむ人も同じ命ある存在であるものの、かけがえのない命が損なわれる現実がある。そうして自分や社会や国や世界を省みたうえで、仏教の精神に基づいて、それぞれの諸学問を学んでいく。本学の学びの大きな特色です。また、自分に対する先入観や偏見から自分自身を解放し、自分のなかに眠っている可能性を伸ばしてほしい。そういう意味で「You Unlimited」のメッセージを全学で掲げています。

広報誌「龍谷」2019 No.87(Ryukoku University Digital Libraryへ)


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ゲノム解析が拓く農学の新たな地平

農学部 植物生命科学科

永野 惇 講師

世界最先端の研究で受賞

本学農学部の永野惇講師が、平成30年度「第17回日本農学進歩賞」を受賞した。この賞は公益財団法人農学会が農学の進歩に顕著な貢献をした若手研究者に授与するもの。受賞対象となったのは「野外トランスクリプトミクスによる植物環境応答の研究」だ。世界的にも先例のない最先端の研究で、関係機関・企業や国内外の研究者の注目を集めている。

永野講師の専門は、分子生物学、情報生物学だ。植物の生命現象の実体を分子レベルで把握し解明しようとする学問で、ゲノム、遺伝子、DNA、RNAなどを扱うと考えるとわかりやすい。こうしたミクロの世界の研究は、ほとんどが設備や環境の整った実験室内でおこなわれる。一方、植物の本来の生育環境は野外であり、その環境は複雑だ。実験室では気温や光量をコントロールすることも可能だが、野外では環境は激しく変化する。そのため、実験室内でおこなう研究から実際の野外の植物の環境変化を類推することは容易ではない。

そんななか、永野講師は、これまでむずかしいとされていた実験室と野外を融合した研究を大きく前進させた。しかも研究対象はイネだ。数万種類に及ぶイネの全ての遺伝子のはたらきを調べ、複雑な野外環境下での生きざまを明らかにし、さらに気象データを用いた大規模なモデル解析をおこない、田んぼのイネの遺伝子のはたらきを解明。その先には生育の予測と制御、つまり人智を超える自然とのよりよい共生の道が見えてくる。新しい発想で、実験室と野外、ミクロとマクロ、遺伝子と「農」を直結させ、農学に新たな領域を拓いたことは、永野講師の大きな功績である。

広報誌「龍谷」2019 No.87(Ryukoku University Digital Libraryへ)


よりよい観光の在り方を探って祇園でアンケートを実施

国際学研究科が新スタート
世界の現状を多角的に捉え
学際的な交流がさかんな場に

国際学研究科 研究科長

松居 竜五 教授

従来の学問領域では捉えきれないリアルな国際問題に向き合うために

2015年に改組した国際学部で今年3月に第1期生が卒業を迎えたことを受け、この4月、大学院でも国際学研究科が新たにスタートを切る。

これまでの国際文化学研究科から「文化」の2文字を外すことで、文化のみに限らず幅広いテーマを多角的に研究し、より現代社会に即した学際的な学びをめざす。研究科長に就任するのは、南方熊楠研究の第一人者として知られる松居竜五教授。100年前に13年間も欧米留学した熊楠は、日本の文化的な国際化における最初期の人物だ。

「熊楠は国境や分野の垣根を超えて学問を探求し、そこで得た総合的な知恵を社会の課題解決のために用いた先駆者でした。20世紀になって学問は細分化・専門化が進み、それゆえに進歩した面もありますが、逆に見えなくなってしまった部分もたくさんあります。一方、世界では従来の学問領域では捉えきれないような様々な現象が日々生じており、このような現状に対応するためには、これまで以上に広い視野で多様な見解をもつ他者と対話しながら問題を解決し、多様な価値観・文化が共生する社会を実現させてゆく力が求められています。これまでも本学科は、国際関係論、文化人類学、言語学、比較文化学などの方法論を総合した学際的な研究を展開してきましたが、今回の発展的改組では、より幅広いテーマの研究活動を推し進めると同時に、他の研究科をはじめ、他大学や研究機関ともさかんに交流することで、多様な関心をもった学生・研究者達が自由に意見交換できる場として機能する大学院をめざしたいと考えています」

広報誌「龍谷」2019 No.87(Ryukoku University Digital Libraryへ)


グローバルクライシスゲームで育む交渉力

広報誌「龍谷」2019 No.87 最新号

広報誌「龍谷」2019 No.87

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