広報誌「龍谷」2022 No.93

「MINAMATA」は地球環境問題の原点 写真家 環境ジャーナリスト アイリーン・美緒子・スミス × 龍谷大学学長 入澤 崇

People, Unlimited

「MINAMATA」は地球環境問題の原点

写真家 環境ジャーナリスト

アイリーン・美緒子・スミス

×

龍谷大学学長

入澤 崇

1956年、熊本県水俣市で発生した公害病「水俣病」を世界に伝えた写真集「MINAMATA」を学生時代に見て衝撃を受け、以来、教育者としてだけでなく、人生の土台に据えている入澤学長。この写真集を写真家ユージン・スミス氏と共同制作したアイリーン・美緒子・スミスさんと念願の対談が実現した。

入澤:水俣病の公式確認から65年を迎えるにあたって、2021年、写真集の再出版と、写真集を基にした映画『MINAMATAーミナマター』(配給ロングライド、アルバトロス・フィルム)が公開されました。私も写真集を改めて拝見し、映画を鑑賞したのですが、地球環境が問題になっている今こそ、水俣の問題を見つめ直す必要があると強く感じました。

アイリーン:水俣病は終わっていません。国との訴訟は未だ続いています。高度経済成長の負の遺産ともいわれますが、決して過去の問題ではなく、今、取り組むべき課題です。水俣病は化学会社チッソが流したメチル水銀が引き起こしたのですが、真の原因は汚染物質ではありません。環境破壊といった公害は人の心の表れです。

入澤:龍谷大学では、脱炭素をめざす「カーボンニュートラル宣言」を発出するなど、全学で環境問題に取り組んでいます。戦後の高度経済成長期以降、現在も経済成長が第一に掲げられています。しかし、その経済成長を志す人間の心の問題を見つめ直さないことには、第二、第三の水俣が生まれてしまいます。だからこそ、水俣の問題は、環境問題に取り組むにあたってはもちろん、これから社会に出る学生が最初に学ぶべきものなのです。そのため、学生をはじめとする若い世代には出版された写真集と同じようなインパクトを与える機会、例えば学内で映画『MINAMATAーミナマター』の鑑賞会をするといった機会を設けたいと考えています。

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Research, Unlimited

文化遺産の医者として次の100年に繋ぐ修復を

文化遺産の医者として
次の100年に繋ぐ
修復を

文学部

北野 信彦 教授

文化財の法医学教室ここにあり

日本で鑑賞できる美しい文化遺産。それらは作り出された当時からタイムスリップしてきたわけではなく、当然、何百年にわたって何度も修復されながら今に存在する。江戸の修復作業もあれば、明治、令和の修復があり、また100年後の修復もあるだろう。その時、現代の取り組みの結果が出る。

比叡山延暦寺の根本中堂、平等院鳳凰堂、嚴島神社、日光東照宮、奈良吉野の金峯山寺、西本願寺唐門など、名だたる国宝・重要文化財等がそのメンテナンス時の「お医者さん」として列をなして頼るのが、文学部歴史学科文化遺産学専攻の北野教授。

文化財修復について日本トップレベルの東京文化財研究所にいた頃からの縁で、連日様々な案件が飛び込む。

北野教授は傷みやすい木製遺物や建造物の塗装彩色、動かしにくい石造物が専門。呼ばれると日本各地の患者(文化財)のもとへ駆けつけ、体を張って診察。真夏の焼けるように熱い平等院の瓦の上を、裸足で歩いて登ったり、雪降り積もる真冬の夜に日光東照宮陽明門でX線写真を撮り続けたことも。東日本大震災被災地の文化財等レスキュー活動に従事した際には、地域に密着した文化財の大切さも実感した。また、急ぎ案件の遺物が持ち込まれ、その分析・調査に学生が参加することもあるとか。

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Connect, Unlimited

心に寄り添う臨床現場での橋渡し

心に寄り添う臨床現場での橋渡し

臨床宗教師

田中ᅠ至道 さん

文学部 真宗学科

森田ᅠ敬史 教授

「臨床宗教師」という存在をご存じだろうか。被災地や医療機関、福祉施設などの公共空間で心のケアを提供する宗教者のことだ。布教を目的とせず、相手の価値観を尊重しながら宗教者としての経験を活かして苦悩や悲嘆を抱える人々に寄り添う。龍谷大学は大学院実践真宗学研究科において「臨床宗教師」を育成している。この度、在宅型ホスピス「メディカルシェアハウス・アミターバ」(岐阜県)で臨床宗教師として活動する実践真宗学研究科修了生の田中至道さんと、実践宗教学・臨床死生学を専門とする森田敬史教授のリモート対談をおこなった。

田中:私はお寺の跡継ぎなのですが、進路で迷い様々な出来事で深く生死について苦悩していた頃、臨床の現場で活動する僧侶の存在を知ったのがきっかけとなり、大学院へ進学し、研修を経て臨床宗教師の資格認定を受けました。森田先生とは実習先の新潟で出会い「現場で活動する宗教者は空気のような存在になることが大事」という先生の教えを今でも活動の指針にしています。

森田:ありがとうございます。臨床宗教師になられたのは、自身の辛い経験を活かされてのことだったのですね。私も田中さんと同じくお寺に生まれ、10年間ほど、病院に常駐する僧侶として患者様とご家族のスピリチュアルケアに携わってきました。混沌とした時代背景、社会や人の在り方の変化もあって、医療や介護、福祉の現場では、精神的・心理的支援が欠かせないものとなり、臨床宗教師への要望、期待値も高まっていますが、現場におられる田中さんは臨床宗教師という存在、活動をどう捉えられているのか、お聞かせください。

田中:臨床現場でケアをおこなうということで、臨床心理士をはじめ、カウンセラーとの違いについてよく質問を受けるのですが、まず臨床宗教師は宗教者であることが大前提です。提供するケアにおいても、臨床心理領域の国家資格を持つ専門職や教育を受けた方は、医療の知見からアプローチをおこない、ケアを提供されていきます。一方、臨床宗教師は、例えて言うなら「生と死の専門家」です。お相手の声を真摯に聴き、そのままに受け止める「傾聴」によって寄り添い、一緒にいのちや人生、さらに死生観に向き合っていくことが特徴で、これは臨床宗教師だからこそできる強みだと捉えています。

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