「貧困削減のための地域開発」に関する龍谷大学の取り組み

JICA「スラウェシ貧困対策支援村落開発プロジェクト」の構成要素

1 プロジェクト形成の背景

インドネシアでは、第1次長期国家開発計画(1969〜1994年度)の実施を通して、一定の経済成長が達成されたものの、その結果、都市部と農村部、ジャワ島とその他の地域(ことに、東部インドネシア)など、国民間の貧富の格差、地域の格差の拡大が顕著となった。このため、同国政府は、1994年に発表された第2次長期国家開発計画(1994〜2019年度)の実施計画である『第6次国家開発5ヶ年計画』において、「人的資源の質的向上」、「経済発展と経済構造調整」とともに「平等と貧困軽減」を国家開発の中心的目標にあげ、国家的事業として本格的に貧困対策に取り組むことを明らかにした。同計画では、1993年当時の推定値で全人口のおよそ13.7%を占める絶対的貧困層 2,590万人を、計画終了時に6%、 1,200万人まで減少させることを最重要課題の一つにあげるものであった。
こうした背景の下に、インドネシア政府は、東部インドネシアの南スラウェシ州を対象に実施される貧困対策事業の効果的実施に向けて、住民参加型村落開発事業の立案・運営能力の強化、ラボ村落における貧困対策事業の実施を通じた人材育成を図りたいとして、日本政府にプロジェクト方式技術協力を要請した。これに対応して、国際協力事業団(JICA)は、1993年、94年に基礎調査を実施し、同国の貧困問題・対策の現状及び他の援助機関などの協力内容などの情報収集・分析を行い、さらに、1996年3月に事前調査、7月に長期調査を実施、10月に実施協議調査団を派遣、11月にインドネシア側(内務省村落開発総局:PMD)と討議議事録(Record of Discussions :R/D)の署名を取り交わし、1997年3月1日から5年間にわたる「スラウェシ貧困対策支援村落開発計画」を開始した。

2 プロジェクトの構造

本プロジェクトをスタートさせた頃は、1968年以降のスハルト政権下において、かなり完成度の高い中央集権的体制が村落の末端にまで組織化されたことを十分に考慮する必要のある時期であった。しかし、1998年のスハルト政権からハビビ政権への移行後、地方分権への動きが急速に高まり、1999年5月には地方分権基本法二法(22号・25号)がインドネシア国会を通過するなど、地方分権の実施は急速に制度化されていった。そのことは、地方レベル、特に地方分権基本法二法において地方分権の実施受胎となっている県レベルでの行政組織、大学やNGOなどの関係機関の地域開発計画に関する能力の向上が、急務の課題となってきたことを意味している。当プロジェクトの形成過程において、ラボ村落における参加型村落開発事業に関するイメ−ジを明確化することは非常に重要な課題であった。このような事情から、1996年3月に実施された事前調査では、協議内容や村落開発事業の視察から得た考えをまとめて、「計画基本概念」(Conceptual Basic Framework for the Project for Strengthening Sulawesi Rural Community Development to Support Poverty Alleviation Programmes) を提出し、今後の事業計画作りの基本とすることで合意した。
「計画基本概念」の前提条件は、参加型村落開発事業において、開発事業実施主体である住民にとっては、PMD職員やJICAエキスパートはあくまで外部資源(external resources)にすぎない、との立場に立っていることである。この立場から見て、村落開発をどのように理解するべきなのか、さらに、村落レベルでは開発のために何をすべきなのか、を明確化するための枠組みみとして提示されたものが「計画基本概念」である(「参加型農村開発の基礎的概念図」参照のこと)。
当プロジェクトは、1997年3月より2002年2月までの5年間のプロジェクトとして、JICAとインドネシア政府農村開発総局(旧PMD/2001年より制度改革によりBMP)との間で実施された。プロジェクトサイトは南スラウェシ州で、プロジェクトオフィスはマカッサル市(旧ウジュン・パンダン)に設置され、ラボサイトはマカッサルより南に車で2時間のタカラール県である。プロジェクトの目的はラボサイトで参加型村落開発を実施し経験を蓄積すると同時に、参加型農村開発を実施可能とする地域レベルの支援システムの構築、およびその担い手に対する研修プログラムの構築にある。
当プロジェクトの上位目標として「南スラウェシ州における総合貧困撲滅計画の実施に人的資源開発を通じて寄与し支援する」ことが、また、プロジェクト目標として「南スラウェシ州におけるPMDと対象村落の住民組織の、村落開発における計画立案・実施・運営・管理能力を強化する」ことが設定された。そして、プロジェクトの成果として、(1)対象村落の住民組織の社会的能力が強化されること、(2)スラウェシにふさわしい訓練システムが開発されること、(3)村落開発にかかわるPMD職員の運営能力が強化されること、の3点が期待値とされた。これと対応する形でプロジェクトの実施計画の骨子は組まれ、以下の相互に連携した3つの柱によって構成された。

  • (1) ラボサイトにおける村落開発事業の実施(「参加型農村開発の基礎的概念図」参照)
  • (2) 研修システムの強化・更新(「研修プログラム構築の概念図」参照)
  • (3) 参加型村落開発戦略の策定と幅広い支援システムの構築(「参加型支援行政システムの概念図」参照)

つまり、実施計画の概要は、南スラウェシ州タカラール県における4ヵ村のラボ村落で参加型村落開発事業を試み、その試みを通じて、参加型村落開発戦略の策定と幅広い支援システムの構築し、そのメカニズムを支える主体に対する研修システムの強化・更新を図るというものである。

参加型農村開発の基礎的概念図(SISDK)

村落開発のための基本要素として(1)プロジェクトの開発主体である住民、(2)住民をとりまく村落内部環境と外部環境、(3)村落をとりまくハード環境とソフト環境に注目している。図はそれぞれの関わり方を表わしている。主体が住民であり職員やエキスパートはあくまで外部アクセスであることを前提として、村落開発を取り組むことを基本的概念とする。

参加型農村開発の基礎的概念図(SISDK)

参加型支援行政システムの概念図(PRD)

行政の役割:参加型村落開発事業の過程において、村落開発行政システムにおける行政官と住民の関係の把握は重要である。中央・州・県(地域)の行政の役割が住民に対しどれくらい、どのように機能しているかを理解することがプロジェクトを成功させる大きな手掛かりとなる。

参加型支援行政システムの概念図(PRD)

研修プログラム構築の概念図(PLSD)

データ分析に基づく開発計画:住民を取り巻く問題、さらに、その問題の因果関係を明らかにし、住民にとって自立的村落開発のためのスキームと手段を認識するのに、データ収集と分析、その分析に基づく計画立案が要求される。

研修プログラム構築の概念図(PLSD)