
今年の京都賞を受賞した、アメリカの心理学者キャロル・ギリガン氏が提唱する「ケアの倫理」を安藤学長と同じ文学研究者の立場から研究する小川教授。学長の専門『源氏物語』にも造詣が深く、二人は話が尽きなかった。
安藤:まず、小川先生が研究されている「ケアの倫理」とは何か、お聞かせください。
小川:近代社会の培ってきた「正義の倫理」への対抗原理が「ケアの倫理」です。「正義の倫理」では普遍的な原則や権利、法律、公正さが重視されます。しかし、それは強者の正義ではないか。弱者を取りこぼしていないか。ギリガンは弱者の声に耳を傾け、応えていくケア実践を評価し、他者のニーズや苦しみに共感するような関係性こそが人間や社会の成熟のために重要だと唱えています。
安藤:コロナ禍は、従来の常識が通用せず、正解のない課題に向き合い続けるような経験でした。大学でも、教育や学生支援のあり方などを見つめ直す機会になりました。そうした緊急事態のなかで尽力するエッセンシャルワーカー、つまりケアをする人たちの存在と役割の大きさも再認識されたことがきっかけで、ケアやネガティブ・ケイパビリティ※1が注目されるようになったのかもしれません。
夏の夜空を美しく彩る花火。多くの人々に感動を与える一方で、打ち上げ後の残留物が環境課題になっていることを知る人は少ない。そこで、応用化学課程の中沖隆彦教授が産学連携による共同研究で、水に溶けるプラスチックを使った花火玉の外殻部分「玉皮(たまかわ)」の開発に成功。特許を出願した。「玉皮」は花火の色や模様になる星という火薬と、高く遠くに飛ばすための割薬という火薬を詰める球状の容器のようなもの。昔は和紙を何重にも貼り合わせて球状にしていたが、昨今はダンボールに用いられるクラフト紙をプレス成形した容器が使われている。しかし、クラフト紙が丈夫さゆえに燃え切らず、その破片が河川や田畑、住宅に落下して残ってしまうのだ。
経営学部・藤岡章子教授のゼミでは「未利用資源」を活用した商品開発や情報発信による地域の課題解決に取り組んでいる。その一環として、りんごの産地・青森県弘前市の「摘果りんご」を使った焼き菓子を開発・販売。今回はこの開発に携わった藤岡ゼミの4年生、今村朱里さんと、長年、りんごを通じて藤岡ゼミと協働する弘前市農林部長の澁谷明伸さんが弘前とりんご、商品への思いを語り合った。
今村:藤岡ゼミでは2015年から弘前市のりんごを使った「若年層向けのりんごの消費活性化」に取り組み、りんごのカフェやポップアップストアをオープンしての販売、オウンドメディアでの情報発信をおこなってきました。
澁谷:青森県弘前市は、日本一の生産量を誇るりんごの町です。市では大変重要なりんご産業の振興を図る専門部門「りんご課」を設置しています。藤岡ゼミとは、私が2020年にこの課に配属されてからのおつきあいですが、遠く離れた京都の大学が弘前のりんごの発信に取り組んでいることに驚きました。