広報誌「龍谷」

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言葉の力が人生を育む

作家

三浦 しをん

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龍谷大学学長

入澤 崇

インターネットや人工知能が進化し、大きく変化しつつある社会構造。そのなかに飛び込んでゆく現代の学生達に必要な力とは。直木賞作家の三浦しをん氏と入澤学長が語り合った。

心に情熱を灯すのは、出会いと言葉

入澤:先日もゼミの時間に、学生達に「舟を編む」を薦めたんです。あれは若い人に読んでもらいたいと本当に思います。全国大学生協の調査で、学生の二人に一人は全く本を読んでいないという結果が出た。ネットの普及とスマホの影響で、ここ数年で若い人達の言葉に対する感覚がものすごく変わってきたのを感じます。便利な一方、非常に安易な方向にも流れている。言葉や知識、情報に対する慎重さ、真摯さの欠如といいますか。どれだけ書き方を指導しても、卒業論文さえネットからの引用で済ませてしまう学生もいます。時間をかけて本を読むこと、足をつかってどこかに出向き本物を体感するような実体験さえも、面倒だとして避けている。

三浦:小説の新人賞の選考委員を10年以上やらせていただいて感じるのは、投稿数は増えているし、日常的なメールやラインによって、昔よりは文章を綴り慣れている人が多い。でも、なんで実地にあたったりして調べていないんだろうと感じる作品が多くて。だからかリアリティに欠けるんです。また、小説や漫画が好きだったら、なんとなくストーリーのパターンが身に染み付き、そこからその通りにいくか、あえて外すかになると思うんですが、全然それがない。かと言って、すごく斬新で面白いストーリーかというとそうでもない。文章力やひらめきみたいなものは感じられるのに、この人全然小説が好きでなく、小説を読み込まずに書いてるなという応募作が増えている気がします。物語を構想するときは、なんらかの情熱を持って先行作を読んできてはじめて、自分なりの表現となる。研究も、当然先行する研究があって、それをちゃんと知った上で、自分はどうアプローチするかですよね。情熱が醸成される機会が少ないのでしょうか。

入澤:教員の言葉も通じにくくなってきました。10年前の教え方のままとはいかなくなっている。講義内容にも工夫が必要です。若者の感覚をつかみやすい、30代40代の若い教員の質によって大学選びをしたほうがいいという声もあります。でも一方で、何が火をつけるきっかけになるかはわからないですよね。私は学生の頃、おじいさん先生のふとした言葉で、それまで無関心だった古典文学の世界に興味を持った経験があります。学問にしろ就職にしろ、最近はちょっとやってみただけで自分には無理だと判断してしまう人が増えたようにも思います。もう少し続けてみて違った観点から見るチャンスに出会えたら、面白くなったりするものだと思うんですが。

三浦:大学生活ってほんのちょっとしたきっかけで面白くなっていくんですよね。先生達は人前で喋る以上、芸能的な面もかなりある。人柄が喋り口調や言葉選びに滲んでいますよね。それぞれが培ってきた人間性も含めた研究成果や言葉選びが、何年かに一度、一人の学生の心を強く打つかもしれない。それがきっかけで研究の道に魅入られる人もいるはずです。そういう出会いがずっと繰り返されてきたんでしょうね。

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地域を活性化する学生視点の情報誌
『京都えきにし』4万部創刊

文学部 仏教学科

野呂 靖 准教授

教室で得た学びをフィールドワークで実践

いま京都で密かに人気のスポットは、京都駅の西側一帯、通称「えきにしエリア」。古くは平安京の朱雀大路を中心に東西の市や重要な都市機能が集積していたところである。現在も東・西本願寺をはじめ鉄道博物館や水族館、中央市場や地元に密着した商店街など多彩な地域資源が集積している。そして本学大宮キャンパスもこのエリアに含まれている。平成31年春、JR嵯峨野線新駅の開業予定もあり、京都市における新たな地域活性化の拠点として注目を集めている。

そして今春、このエリアを紹介する情報誌『京都えきにし』を創刊したのが、文学部の3年生達だ。これは「文学部共通セミナー(アドバンストコース)」が京都市の京都駅西部エリアまちづくり協議会や地域産業界と連携しておこなったもの。「学生視点で地域の魅力を掘り起こしてほしい」という京都市からの呼びかけによりスタートした。市と大学が連携して情報誌を作成するのは、全国でも珍しい試みである。

今回の授業を担当した野呂靖准教授は、「文学部の専門的な学びは、図書館で資料を読み込み、知識を得ることが主体で、これは学問の基礎体力を養うには不可欠なものです。しかし、修得した知識を社会や他者との関わりのなかで実践する機会が少ないという課題がありました。今回のプロジェクトでは、学生達が教室の外に出て、歴史や文化、そこに住まう人々の魅力を、これまで大学で学んだことを通しながら新たな視点で見出していきます。自らの学びと社会の接点を肌で感じることで、学びの意義や価値に気づく貴重な機会となったはずです」

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グローバルクライシスゲームで育む交渉力

グローバルクライシスゲームで
育む交渉力

国際学部 グローバルスタディーズ学科 

陳 慶昌 准教授

全てが英語で進行する模擬外交ゲーム

英語をなぜ学ぶのか。活きた言語を学ぼうとするモチベーションは「様々な人々と意思疎通が叶うと爽快だ」という経験や、反対に「うまく伝わらずに歯がゆい、伝えたい」といった経験からも生まれるのではないか。 2016年から国際学部で始まった「龍谷サミット グローバルクライシスゲーム」は、英語による交渉力を育む。2回目となる2017年は11月に深草学舎で開催された。参加者は本学の学生や留学生や高校生、合わせて約50名。当日の傍聴者も含めると約100名ほどでの実施となった。

このゲームは、世界各地の教育機関で取り組まれている「模擬国連」という外交ゲームを本学流の規模にアレンジしたもの。「参加者は実在する国家チームに分かれ、さながら国連会議のように、ある国際的なテーマについて1日議論を繰り広げる。チーム分けや議題は事前に伝えられ、各チームは当日までに、自国や周辺国の現実的な情勢の調査、議論展開する上での立ち位置や戦略、それぞれがめざすゴールなどを打ち合わせていく。そしてそれらの全ては英語で進行されます」と、これを企画した陳准教授。

2017年度の今回、テーマとされたのは「南シナ海問題」。参加者は開催日の1カ月前から日本、中国、ベトナムなど南シナ海周辺国やアメリカ、欧州連合などの国家・国際機関チームに分かれて準備に挑んだ。全てのチームは、1チーム日本人学生2名、留学生2名、高校生2名の計6名で構成。SNSでのやりとりやミーティングを重ねて戦略を練り、当日を迎えた。

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広報誌「龍谷」2018 No.85 最新号

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