生きることに真摯に向き合った著作が、混沌とした現代を生きる多くの人々の羅針盤となっている若松英輔さん。これからの時代を生きる、そのヒントを求めて、入澤学長が対談した。
入澤:若松さんは内村鑑三に関する著作も書かれていますが、今の若い人が明治の偉人に触れられるようにしてくださったのを、私はとても嬉しく思っていました。というのも私自身も近年、明治初期の若い仏教者の言葉を掘り起こして胸を打たれたことから、あの時代を見直したいと考えていたのです。近年盛んにグローバル化と言われますが、明治の時代に世界に出ていった若者達って、自己表現などを超えた使命のようなものを持っていますよね。
若松:明治の頃は人類のために、あるいは内村は宇宙という言葉を使いますが、もっと大きな意味で何かを求めている人のところへ自分が学んだものを運ぼうという志をもつ人たちがいました。それが今の日本では、小さなところからなかなか出られず、自分が最後という感じが強いですね。若い人は「私は何をしたいのか」にこだわりますが、実際は人は自分の思う通りには生きられず、生かされるようにしか生きることができない。だから私たちは「どう生かされているか」を考えないと「どう生きる」かがわかってこないのではないかと思います。
入澤:若松さんは随想などで、若い人達が思索することをせず、すぐに判断したり選ぼうとすることにも警鐘を鳴らしておられますが、これは私も日々学生達と接していて強く感じることです。
若松:考えるとは10年、20年という長い時間のなかでおこなわれる営みであるということ。そういう長いタームのなかで人は生きている、ということを学んでほしいですね。宗教となると世紀を軽くまたいで考えます。そんな長い時空のなかで自分が何か働きをなすとはどういうことかと考えていくと、大切なことは自分が目立つことをするとか、自分らしく生きるといった自己表現ではなくなっていく。これからの大学生には、そういう時間軸を学んでほしいと思います。
広報誌「龍谷」2018 No.86(Ryukoku University Digital Libraryへ)
「医師自身が救えるのは目の前の患者に限られるが、工学で優れた技術を作ると、たくさんの人を助けることができる。そこが醍醐味」と話すのは、本学理工学部の田原大輔准教授。
工学というと、自動車、航空、ロボットなどのイメージが強いが、実際はもっと幅広い。 医学が発達したとよく語られるが、実際に発達しているのは医工学のほうで、機械工学や電気工学などがかなり寄与しているのだ。とくに機械工学のなかでも「生体力学」という、日本ではまだ40~50年の比較的新しい分野の発展が関係している。
「機械工学自体は100年以上の歴史があり、100年前の教科書から基礎的な枠組みは変化をしていません。そこから新しい研究をしようと思うと、非常に微細なレベルの取り組みになってくる。でも生体力学は歴史が浅い。その分野で明日の教科書の1ページを作りたいと思っています」
広報誌「龍谷」2018 No.86(Ryukoku University Digital Libraryへ)
京都市を訪れる観光客数はピークの15年から減少したものの、宿泊者数および観光消費額は過去最大を更新し続けている。観光産業という点では大変な朗報なのだが、とくに増加し続けてきた外国人観光客による交通の混乱や住人とのトラブルが相次いだり、街並みが一変してしまうなど、弊害は深刻な問題となっている。そんな実態を学生主体で調査しようというのが、国際学部のデブナール・ミロシュ講師による授業『実践プログラム2~国際観光と京都』だ。
調査対象となるのは、京都随一の花街・祇園の花見小路界隈。花見小路の四条通から南側、建仁寺に至るこのエリアは、格式ある店が軒を連ね、従来は「一見さんお断り」で、限られた常連客や予約客しか足を踏み入れない、ひっそりとした地区だった。しかし近年は、朝から晩まで通りが埋まるほどの外国人観光客で賑わい、風景は一変。店舗や住居の写真を撮ったり、場合によって侵入しようとする人までいて、日常生活にも支障が出てきている。そんな観光客となんとか折り合いをつけられないかと、解決策を模索していた祇園南側地区協議会がデブナール講師に調査を依頼したのがこの授業の始まりだ。
デブナール講師は、スロバキアから日本へ来た大学院生の頃からこのエリアに関心を持ち、協議会がおこなう毎月の会議にも参加してきた。今回の要請を受け、国際学部の学生にとっても観光は関心の高いテーマであることから、授業への採用を決めたという。
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