歴史に学ぶ他者理解  歴史家 磯田 道史 × 龍谷大学学長 入澤 崇

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歴史に学ぶ他者理解

歴史家

磯田 道史

龍谷大学学長

入澤 崇

人工知能の登場やグローバリズムにより国内外ともに経済的にも転換期にある今。マニアックで鋭い歴史認識で人気を博し、メディアで活躍する歴史家の磯田道史さんと入澤学長が、これからを生き抜くための人文学の有用性について熱く語り合った。

磯田:よく「私も歴史好きなんです」と話しかけられるんですが、歴史は好き嫌いじゃないと思っているんです。歴史は、学ばないと、世の中を安全に歩けない。人生を歩くための靴に近い実用品みたいなものだと思っていて。
歴史家としても、今、人類史上未知の段階に入りつつあると確信しています。僕たち研究者も大学教育自体も、教育を受ける若者も、政府も親も、意識を変えざるを得ない時代です。「大学から駅まで車で何人送迎」という作業は、AIが搭載された車がやるようになる。でも「この人を1日楽しく過ごさせる」といった非常に抽象度の高い、人の感情に根ざした仕事が、たぶんこれから経済の中心になっていく。おそらく感情や脳や哲学といった人文知の分析が前よりも重要視されます。理工系はそれとリンクした形で発達していくのに、人文学の有用性はここ数年までそれほど認識されていなくて。これからの10年ほどで、哲学や歴史や人文学の広い教養、それこそが実は経済成長のエンジンになるし、人間の心の幸せにとって重要だと気づくようになるでしょうね。

入澤:本学はあと20年で創立400周年、そこを見据えて、今ちょうど長期計画を立てながら今後の教育を考えています。おっしゃるように、これから必要になってくるのは人文学の素養。私は総合大学がこれから真に重要な役割を果たすと思っています。本学の理工学部は2020年4月に「先端理工学部」として新たに歩みはじめますが、私は、人間の「情」の部分にも踏み込んだ研究を期待しています。

磯田:今は暗記系はAIがやってしまう。僕はよくGoogle検索と知識競争をします。例えば歴史的な建物について、何年に誰が建てたのかは検索で出る。記憶量じゃGoogle検索に負ける。しかし、「なぜ建てたか?」といった質問への回答は検索エンジンは不得意で、僕が勝つ。発想し総合的に論理を組みあげる力には人間に軍配が上がる。暗記でなく「なぜあの人はあのお寺を作ったのか?」といった質問に総合判断で答えられる知の育成が、これからは価値をもちます。
先ほど龍谷ミュージアムを観てあらためて大事だと思ったのは、自分の目で見て鼻で嗅いで手で触る体験。報道などで日本人が陥りがちな「銀行強盗が金庫をバールのようなものでこじ開けて」とか「城を枕に討ち死にする」などの表現に代表されるよくある型にハマってはいけない。バールのようなものと書いた新聞記者は、バールを実際に見てこじ開けて確かめたことがあるのか、そのリアリズムですよ。疑問を持って自分で確かめ、世界を深めることを大切にして欲しいです。僕も子どもの頃に竪穴式住居を作って、その中でウインナーを囓ってみたり、神社で使われる「ぬさ」を分解して自分で作ってみたりしていましたね。

広報誌「龍谷」2020 No.89(Ryukoku University Digital Libraryへ)


学生と実験で使ったセイタカアワダチソウの根の長さを調べる塩尻かおり准教授

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植物の『おしゃべり』を聞いて
農家の負担軽減を考える

農学部 植物生命科学科

塩尻 かおり 准教授

敵から身を守るためのコミュニケーション

植物は動物のように動いたり鳴いたりはしない。しかし、植物たちは彼らだけにわかる方法でコミュニケーションを取り合い、おしゃべりをしているということが近年科学的に明らかになっているそうだ。そんな驚きの研究をしているのが農学部の塩尻かおり准教授だ。植物たちはどんな『ことば』を持ち、なにを話しているのだろうか。

「植物は動けない、声が出せない代わりに、香りを言葉として巧みに操り、コミュニケーションをしています。例えば、キャベツがアオムシに食べられると、アオムシの天敵の虫をおびきよせる香りを出して、それ以上食べられないように防衛します。そればかりか、その香りを隣のキャベツがキャッチすると、自身にも危険が迫っていることを知り、食べられる前にアオムシから身を守ろうとします。つまり植物は匂いを出すことで、仲間に敵が来たことを知らせて危険から自身を守っているのです。しかも親や兄弟など血縁関係が濃いほど強く防衛反応を起こします。このような植物間のやりとりをプラント・コミュニケーションといいます」

このように匂いを介したコミュニケーションは既に40種類以上の植物で知られているという。また植物は香りだけでなく、根からも抽出物質を出し、土壌を介しておしゃべりをしている可能性があるそうだ。そんなことを知ると、植物にも意思があるのではないかと思えてくるから不思議だ。現在、世界中の研究者がこれらのメカニズムを解明しようとしているものの、植物たちがどこでどのように香りを受けているのか明らかになっていないという。

塩尻准教授は、まだまだ謎に包まれている植物の実態を、生態学の立場から研究し、そこで得た結果を農業で活用できないかと、学生たちと一緒に様々な実験を重ねている。

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本学創立380周年記念事業「世界宗教フォーラム」でのムハマド・ユヌス氏の基調講演

本当の利益とは
他者を幸せにすること

グラミン銀行創始者
ノーベル平和賞受賞

ムハマド・ユヌス さん

2019年11月、本学創立380周年記念事業の一環として『世界宗教フォーラム』を深草キャンパスにて開催し、そこでムハマド・ユヌス氏の基調講演がおこなわれた。バングラデシュ出身のユヌス氏は、低利融資によって貧困層の自立を支援するグラミン銀行を創始し、2006年にノーベル平和賞を受賞している。本学は2019年6月にユヌス氏が所長を務めるユヌスセンターと連携協定を締結し『ユヌス ソーシャルビジネス リサーチセンター』を設立。仏教の観点から持続可能な社会を考える「仏教SDGs」の推進・研究及び具現化の事業等をめざしている。ソーシャルビジネスと利他的行動をテーマにおこなわれたユヌス氏の講演は、“世界は良い方へと変えていける”という力強いメッセージに満ちていた。

大学の外に出て人々のために

1940年にバングラデシュで生まれたユヌス氏は、米国の大学で経済学の教鞭をとっていたが、1971年に祖国がパキスタンから独立したのを機に「人々が尊厳を持って生きられる国をめざしたい」との思いから帰国。しかし1974年の飢饉によって経済危機が起こり、夢は悪夢へと変わってしまう。帰国後も経済学を教えていたユヌス氏は、美しい大学を一歩出れば貧しい人々が溢れ、飢えて死んでいく姿に衝撃を受け、深く自らを省みる。

「私が教えている経済学と現実には大きな乖離があることを知り、経済理論も人々のためにならなければ意味はない、むしろ役に立たない学問を教えるのは罪ではないかとすら考えるようになりました。私はそんな罪悪感から逃れるために、毎日大学の外へ出て、一人でも村人を救うことにしたのです」

そんな活動をビジネスとして持続させるために立ち上げたのが、現在では世界中に2500を超える支店を持つグラミン銀行だ。

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ソーシャルビジネスで起業した学生たちと握手を交わすムハマド・ユヌス氏

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広報誌「龍谷」2020 No.89 最新号

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