
陸上400mハードルにて、オリンピック・世界陸上で活躍した為末大さんは、現役時代から競技を探求する「走る哲学者」とも呼ばれている。その発信されるメッセージに入澤学長は「仏教にも通じ、学生の人生の道しるべになる」と共鳴していたという。同じ広島県出身という縁のある二人がお互いに「生きるヒント」について照らし合った。
入澤:為末さんに以前からお会いできるのを熱望しておりました。オリンピックに3度も出場されるなど輝かしい競技人生を送られた為末さんですが、過去の取材や著書では、敗北やスランプを機に、自己探求に至ったとあります。どのように立て直されたのでしょうか。
為末:私は小中高、大学、社会人、プロアスリートの全カテゴリーでチャンピオンになり、敗者の経験がほとんどありませんでした。しかし、競技人生の後半は思うような結果を出すことができず、重圧と緊張からハードルを跳び越えられなくなった時期もあります。敗北と挫折に打ちのめされて「がんばってもダメなことがあるんだ」ということに気づかされました。その時の敗者の経験が私の人生において大きな学びとなり、引退後の今も役に立っています。
龍谷大学では、高校から大学への円滑な接続を図る「高大連携推進室(以下推進室)」を設置しており、龍谷大学付属平安高等学校をはじめ、多くの公立・私立高校と連携し、教育プログラムの提供、イベントの開催をおこなっている。こうした機関は、他大学にも自学への進学促進のために設置されているが、本学の推進室の目的は一線を画す。
「龍谷大学の『高大連携』は、高校生から大学生への成長プロセスに積極的に関わり、社会や地域に貢献できる人材を高大で育成していく『社会協創』を掲げていることが特色です。また、大学とは、現在、高校で進められている探究的な学びを深化させる場所であり、自主性や課題発見・解決といった社会人基礎力を磨く機関であることを示すことで、高校の授業や進路指導を補完することができます。高校生には『大学の学問・研究って楽しそう。学んでみたい』と思ってもらうことが目的です。これらは本学の行動哲学『自省利他』や『仏教SDGs』の考え方に基づくものです」と語るのは、推進室長を務める農学部の山崎英恵教授だ。推進室の姿勢については、本学教員も支持。「高校生を招いての教育プログラムでは、どの学部の先生方も興味を惹きつける講座を企画・実施されています」と、山崎室長。このような活動から、本学への進学を決める高校生が多いという実績にも繋がっている。
龍谷大学大学院政策学研究科は、琉球大学、京都文教大学と連携して、文部科学省に採択された事業『大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム』を2025年から展開予定。深刻化する社会課題の画期的な解決策を見出す人材を育成する。これに先駆けて、政策学研究科長の中森孝文教授と政策学部在学中にインクルーシブ(誰も排除しない)な社会をめざす靴磨き・靴修理店『革靴をはいた猫』を起業した魚見航大さんが、ソーシャル・イノベーションについて語り合った。
中森:私は魚見さんが4年生の時に障がいのある人の就労支援と雇用創出のために靴磨きの事業を開始し、応援文を書いてもらいたいと依頼されて見学に訪れ、そこでソーシャル・イノベーションを実現するための新しい価値に遭遇しました。
魚見:その時はまだ店舗を構えておらず「Café樹林」で活動し、先生方やカフェに来店されるお客様の靴を磨いていました。