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理工学部

丸山敦 研究室
和装本に漉きこまれた毛髪の科学分析で江戸時代の食環境を復元する。
和装本の鑑定作業

2019.11.18和装本の鑑定作業

理工学部 丸山敦 研究室

今回は、国文学研究資料館(東京都)・教授の入口敦志先生に、和装本が何万冊も所蔵されている龍谷大学の大宮図書館までお越しいただきました。入口先生は国文学者として和装本に造詣が深く、「読む」以外にも古書を活用する道があるのではないかと模索してこられた方です。私たちとの共同研究では、「書誌学」的な知見を存分に披露して頂いています。

入口先生に今回お願いしたのは、(1)私達がこれまで毛髪を摘出してきた書籍の書誌情報が正確かどうかを確認していただくことと、(2)書籍に記されている刊行年から、その和装本が実際に印刷されるまでにどれくらいのズレがあったのかを鑑定して頂くことでし た。

(1)について、書誌情報の記録くらい簡単ではないかと思われるかもしれません。しかし、江戸時代に出版された書籍ですから、そもそも出版年や出版都市名は古い字体で書かれている(正確には刷られている)上に、複数の出版者が共同で出版していたり、版木が譲渡されていたり、本の表紙が付け替えられていたりするのです。私たちが読み取ったデータに間違いがないか、突き詰めればその書籍は研究に使用してもいいものかどうかを、専門家の眼力で一冊一冊、鑑定して頂きました。
(2)については、もっと複雑な事情があります。江戸時代に出版された和装本は、ほとんどが木版で印刷されています。つまり、1ページごとに木の板に文字を彫り、墨をつけて版画のように紙に印刷していました。そのため、1冊を完成させるのに大変な時間がかかるため、現代の活版印刷のように内容を頻繁に更新することは難しかったようです。結果として、木版は何年、何十年にも渡り使いまわされることがあります。したがって、書籍に記された刊行年号はそのまま鵜呑みにはできません。入口先生のような専門家に、墨のかすれ具合から木版の欠け具合を推定して頂き、木版が彫られてからどれくらいの年月が経ってから印刷されたのかを推定して頂きました。ちなみに、かつて私たちの研究室で、この鑑定をまったく独立に2人の専門家にお願いしたところ、非常に近似した鑑定結果になったとのことで、頼もしいことです。

以上の作業を、2日間(9/5~6)かけて、計321冊に対してお願いしました。私たちは作業の傍ら、和装本についての知識を次々と教えていただきました。このような、生で作業しながらのご教授はなかなか受けられないことなので、とても貴重な経験になったと感謝しています。

桑木 捷汰(阪南大学高校卒業)