図1.植物プランクトンのイタケイソウの仲間(Ulnaria sp.)に寄生したツボカビ(Rhizophydiales sp.)が成熟し、胞子嚢(のう)になったところ。細胞の左端付近に二つの大きな胞子嚢が見られ、細胞の右側にも小さな胞子嚢が少なくとも4つ見られます。これらの胞子嚢の数から少なくとも6回の寄生が生じたことが分かります。周りに見える粒々は水中を泳ぐツボカビの遊走子(胞子)。
(写真提供:横浜国立大学・瀬戸健介博士)
今回、寄生実験において観測された多重感染の数は、プランクトンとツボカビの接触がランダムに繰り返されたときに想定される数(図2の破線)よりも大きく、一部のプランクトン個体に寄生が集中していることが明らかになりました(図2)。多重感染度の高い個体は新たな寄生を引き起こす力が他の個体よりも大きいと予想され、感染症拡大の新たな起点になる可能性があります。このような特別な個体の存在は人間や動物における様々な感染症でよく知られた現象ですが、植物プランクトンを起点とする湖の食物連鎖では初めての発見です。
この集中的な感染パターンをより良く理解するために、「一度寄生した個体はさらに寄生しやすくなる」という新しいメカニズムを取り入れた数理モデルを構築したところ、寄生実験における多重感染数を定量的に再現できることがわかりました(図2の青線)。さらに、プランクトンから放出される香り物質(揮発性有機化合物、VOC)の成分比には、〔ツボカビ寄生の有無〕や〔プランクトンの種〕によって違いがあるため、その差がプランクトンとツボカビの〔接触しやすさ〕や〔寄生しやすさ〕に影響を与えている可能性も示唆されました。そうであるならば、寄生されたプランクトンが放出する特有の香り物質により、ツボカビが引き寄せられることで多重感染するとも考えられるのです。
図2.イタケイソウにおける多重感染数の分布.植物プランクトンとツボカビの接触がランダムに繰り返されたとしても多重感染は起きますが、ランダムな接触から想定されうる場合(図の破線の曲線)よりも、数多くの多重感染(黒丸が実際に観測された細胞数)が観測されました。この観測パターンは、今回開発した数理モデルによって得られた新たな分布関数(青線)でよく説明できることが分かりました。
多重感染の発生機構についての今後の更なる研究により、湖における物質循環の評価精度の向上や、ツボカビによる植物プランクトンへの致死効果の応用が期待できます。たとえば、アオコの原因となる藍藻類、貝毒を産生する渦鞭毛藻類などといった有害・有毒植物プランクトンに寄生するツボカビが発見されており、その抑制に有効かもしれません。また、バイオ燃料やサプリメントなどの応用分野において注目を集める有用微細藻類の大量培養におけるツボカビ感染症流行防止対策などの重要な知見になりえます。
文章作成協力:森上需 氏
■発表論文について
英文タイトル:Non-random patterns of chytrid infections on phytoplankton host cells: mathematical and chemical ecology approaches
和 訳:数理生態学・化学生態学アプローチを用いた、植物プランクトン宿主細胞へのツボカビ感染の集中感染パターンの発見と分析
掲載誌:Aquatic Microbial Ecology (https://doi.org/10.3354/ame01966)
U R L :https://www.int-res.com/abstracts/ame/v87/
(オープンアクセスCC-BY 4.0 International)
著 者:米谷衣代、三木健、Silke Van den Wyngaert、 Hans-Peter Grossart、鏡味麻衣子
■問い合わせ先
龍谷大学先端理工学部環境生態工学課程 教授 三木 健(みき たけし)
TEL 077-544-7111 メール tksmiki@rins.ryukoku.ac.jp
URL https://sites.google.com/view/quantitative-ecology-lab/home/
コメント
フッターで使用されているナビゲーションを表示します見出しはモジュールのカスタムフィールドで設定できます