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2019.02.26

龍谷大学理工学部 木村睦教授のグループがアモルファスGa-Sn-O薄膜デバイスのメモリスタ特性を発見

 アモルファス金属酸化物半導体薄膜デバイスは、材料・構造・製造などをカスタマイズすることによって個々の要求に対して優れた性能を発揮することができるため、現在も広く利用されており、今後もさまざまな用途にも有望と考えられています。低コストで大面積に作製することも可能です。特に、アモルファスGa-Sn-O(α-GTO)薄膜デバイスの研究は、薄膜導電膜だけでなく、薄膜トランジスタや他のアプリケーションに対する応用にも期待されています。また、Inのようなレアメタルを含まず、資源枯渇と供給不安に関する産業上の問題を解決することができます。
 一方、メモリスタは電荷履歴に対して電気抵抗が変化する受動素子であり、最近では抵抗変化型ランダムアクセスメモリ(ReRAM)、ニューラルネットワークなどに使用されています。しかしながら、従来のメモリスタは、高価な材料・デバイス構造・製造プロセスを必要としていました。

 本研究では、α-GTO薄膜デバイスのメモリスタ特性を発見しました。そして、本論文では、デバイス構造と製造プロセスを示し、メモリスタ特性を紹介し、様々な特性を分析し、そして動作メカニズムを議論しています。驚くべきことは、このような一般的な材料、単純な構造、および容易な製造によってメモリスタ特性を実現できることです。Inに比べてGaは地殻埋蔵量が8倍以上もあり、産出地も偏在していないことから、材料の資源枯渇や供給不安の課題を解決できます。単層のα-GTO薄膜をアルミニウムで挟んだだけの単純な構造です。製造方法も室温のスパッタであり、きわめて容易です。これらの特長を活かして、今後のReRAMやニューラルネットワークへの活用が期待できます。

◆ 発表論文について
英文タイトル : 
Memristive Characteristic of an Amorphous Ga-Sn-O Thin-Film Device

和訳: 
アモルファスGa-Sn-O薄膜デバイスのメモリスタ特性

掲載誌: 
Scientific Reports(Nature Springer社)

著者: 
杉崎 澄生、松田 時宜(龍谷大学)、上沼 睦典(NAIST)、生田目 俊秀(NIMS)、中島 康彦(NAIST)、今井 崇人(龍谷大学)、曲 勇作、是友 大地、古田 守(高知工科大学)、木村 睦(龍谷大学) 

<研究の背景>
 アモルファス金属酸化物半導体薄膜デバイスは、材料・構造・製造などをカスタマイズすることによって個々の要求に対して優れた性能を発揮することができるため、現在も広く利用されており、今後もさまざまな用途にも有望と考えられています。低コストで大面積に作製することも可能です。特に、我々は、新規材料のアモルファスGa-Sn-O(α-GTO)薄膜デバイスを発見し、研究開発を進めています(T. Matsuda, M. Kimura, et al., Rare-Metal-Free High-Performance Ga-Sn-O Thin Film Transistor, Scientific Reports 7, srep44326, 2017)。Inのようなレアメタルを含まず、資源枯渇と供給不安に関する産業上の問題を解決することができます。以降、この材料は、さまざまな研究機関で検討され、薄膜導電膜だけでなく、薄膜トランジスタや熱電変換素子などの他のアプリケーションに対する応用にも期待されています。
 一方、メモリスタは電荷履歴に対して電気抵抗が変化する受動素子であり、最近では抵抗変化型ランダムアクセスメモリ(ReRAM)、ニューラルネットワークなどに使用されています。しかしながら、従来のメモリスタは、たとえば酸化チタン(TiO2)や酸化タンタル(Ta2O5)では特性向上のため高温アニールが必要とされたり、レアメタルであるハフニウムの酸化物(HfOx)との積層構造が必要とされたり、高価な材料・デバイス構造・製造プロセスを必要としていました。

<研究の結果>
 本研究では、α-GTO薄膜デバイスのメモリスタ特性を発見しました。そして、本論文では、デバイス構造と製造プロセスを示し、メモリスタ特性を紹介し、様々な特性を分析し、そして動作メカニズムを議論しています。驚くべきことは、このような一般的な材料、単純な構造、および容易な製造によってメモリスタ特性を実現できることです。Inに比べてGaは地殻埋蔵量が8倍以上もあり、産出地も偏在していないことから、材料の資源枯渇や供給不安の課題を解決できます。単層のα-GTO薄膜をアルミニウムで挟んだだけの単純な構造です。製造方法も室温のスパッタであり、きわめて容易です。
 これらの特長は、α-GTO材料の特徴に起因しています。すなわち、n型半導体のSnOとp型半導体のSnO2の混合のアモルファス材料であり、電圧印加によりそれらの比を変化させることによりコンダクタンスが制御されていることが、さまざまな評価実験から示唆されています。また、追加の製造プロセスなしに、アルミニウムの表面が参加することも、うまく利用しています、これらの幸運な偶然から、単純な構造と容易な製造によってメモリスタ特性を実現できています。具体的には、1万回以上の繰返特性などが得られています。

<研究の意義と今後の展開>
 一般的な材料、単純な構造、および容易な製造によってメモリスタ特性を実現できることから、今後のReRAMやニューラルネットワークへの活用が期待できます。抵抗変化型のデジタルメモリであるReRAMへの応用については、今後のさらなるオンオフ比の改善が必要ですが、アナログメモリであるニューラルネットワークのシナプス素子への応用については、むしろ上記の特長が有用で、薄膜積層構造による3次元集積化LSIの可能性がみえてきます。これは、Society 5.0で提唱されているエッジコンピューティングにおいて、コンパクト・低パワー・低コストの人工知能チップにもつながる成果です。

<参考図>


アモルファスGa-Sn-O薄膜デバイス


メモリスタ特性

<研究に関する問い合わせ先>
 龍谷大学 理工学部 電子情報学科 教授  木村 睦
 研究室Tel: 077-543-7407
 E-mail: mutsu@rins.ryukoku.ac.jp