学長 安藤 徹
龍谷大学は、「浄土真宗の精神」を建学の精神とする大学です。その歴史は、1639年に西本願寺に設けられた僧侶養成・教育機関「学寮」に始まります。以来、380年以上の歴史を刻みながら、「真実を求め、真実に生き、真実を顕かにする」ことのできる人間を育んできました。現在は、10学部1短期大学部11研究科に約2万人の学生が学ぶ総合大学として、深草(京都市伏見区)・瀬田(滋賀県大津市)・大宮(京都市下京区)の3つのキャンパス(キャンパス)で教育、研究、社会貢献活動を展開しています。
「長い歴史を有する仏教系大学」と聞くと、いかにも古色蒼然とした印象を抱く人がいるかもしれません。もちろん、私たちは誇るべき伝統を大切にしていますし、歴史の重みをけっして疎かにしません。ただし、そうした伝統や歴史を墨守すべきものとは考えていません。むしろ、価値創造による社会の変革や人類の発展に貢献していくための礎、あるいはよりよい未来に向けた新たな“旅”の糧として積極的に活かしていくところにこそ、龍谷大学の存在意義があります。
実際、SDGs宣言を掲げて仏教SDGsを推進している本学は、社会課題の解決拠点となるべく、先進的で共創的な取り組みに果敢に挑戦しています。哲学者の三木清(1897-1945)が「創造には伝統が必要である」(『哲学ノート』)と指摘しているように、長い歴史とよき伝統は光輝ある未来を創造していくための原動力になります。一方で、三木は「創造が伝統を生かし得る唯一の道である」とも述べています。こうした伝統と創造のダイナミズムを経験できるのが、龍谷大学の魅力のひとつなのです。
「つどい、つながり、つむぐ」―これは2025年3月に大宮キャンパスに完成した新校舎「黎明館」のコンセプトです。同時に、龍谷大学全体のめざす姿をも表現しています。多様な学生が「つどい」、学生同士、教職員、さらには社会や世界、いろいろな生物や環境とも「つながり」、自分の未来、そして新たな社会の歴史を「つむぐ」。この3つの「つ」に、「つまずく」や「つちかう」、「つくる」、「つたえる」などを加えてみてもいいかもしれません。本学につどう学生が、学びを通じてさまざまな経験を重ねつつ、地域社会や世界の人々をも巻き込んで価値をともにつくり出す。多彩なつながりのなかで、途中つまずいたりしながらも、かけがえのない関係をつちかい、志をつらぬき、光り輝く未来の物語をつむぎ、つたえていく。こうした学びの醍醐味を存分に味わった学生は、「自省利他」の行動哲学を実践する「まごころ」ある市民として、社会変革の担い手になってくれるものと確信しています。
松尾芭蕉の弟子の一人、各務支考(1665-1731)に次のような俳句があります。
野に咲けば野に名を得たり梅の花
梅の花は、庭に咲けばいかにもその庭にふさわしい美しさを放ち、野山に咲けば野山ならではの魅力を醸し出します。そうした梅の花のように、どこであっても、どのような状況にあっても、それぞれの関係性のなかで個性を発揮しながら、多様性のある社会の実現と世界の平和のために貢献できる人間を育むことが、龍谷大学の使命です。
龍谷大学は、伝統と創造のダイナミズムのなかで「つどい、つながり、つむぐ」経験のできる大学です。
龍谷大学長 安藤 徹