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2019.03.22

龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号を発行【犯罪学研究センター】

日本におけるエビデンスに基づいた犯罪対策の確立を目指して

龍谷大学 犯罪学研究センター(Criminology Research Center)では、犯罪をめぐる多様な〈知〉の融合と体系化を目的とし、現在14のユニットでの研究活動が行われています。
研究ユニットの1つである「政策評価」ユニットでは、浜井 浩一 ユニット長(本学法学部教授)のもと、犯罪学(犯罪防止)における科学的エビデンスの構築と共有を目的として、2000年に国際研究プロジェクトとして始まったキャンベル共同計画(Campbell Collaboration: C2)に協力した政策評価研究が行われています。

このたび犯罪学研究センター「政策評価」ユニットの2018年度の活動成果物として、龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号を発行しました。
同時に 犯罪学研究センターのウェブサイトでもPDFデータを公開いたします。
<掲載コンテンツ>
1. 虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア
2. 先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付


今回のレビューを通じて、エビデンスについて考える機会や成果を活用する機会が増える一助となることを期待しています。


「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。

「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。


龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

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【PDFデータ】龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

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はしがき

2016年6月、龍谷大学は、「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界に海外にアピールすることを目指し、犯罪学研究センターを開設した。同センターは文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された。これまで、『Ryukoku-Campbell Series』は、龍谷大学矯正・保護総合センターの研究プロジェクトの一つとして第11号まで発刊してきたが、その研究内容に鑑み、今後は、政策評価に関する研究プロジェクトの活動として犯罪学研究センターが引継ぐこととなり、本号がその2号目である。
このプロジェクトの目的の一つは、刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共同計画(Campbell Collaboration)と協力し、その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は、社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め、評価し、広めることを目的としている。龍谷大学では、これまでもキャンベル共同計画の日本代表である静岡県立大学の津富宏教授と協力し、キャンベル共同計画の成果の中でも「矯正・保護」、つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に、評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。
今後は、犯罪学研究センターの開設を契機として、キャンベル共同計画の日本語版ホームページの運用を含め更に連携を強化することとなった。そして、政策決定者、実務家、研究者に対して、その成果をより身近なものとして活用してもらうために発刊してきたブックレット『Ryukoku-Campbell Series』についても、犯罪者処遇だけでなくより幅広い犯罪対策をカバーして発刊する予定である。
本号に掲載するレビューとして選んだのは、「虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア」と「先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付」の2本である。前者は、虐待のために自宅から離された子どもの安全性、永続性、幸福感において、「親族を里親とした場合」と「非親族を里親とした場合」とで差があるのかどうかを検証したもので、後者は、貧しく恵まれていない家庭への金銭的援助は、相対的な貧困の状態を改善し、子どもの健康、福祉、学業上の習熟度を向上することにつながるかどうかを検証したものである。どちらも刑事政策ではなく、社会福祉政策を対象としたものであるが、少年司法と児童福祉とは密接に関係した領域であり、私たちにとっても重要な示唆を含んだ内容となっている。ぜひご一読願いたい。

各レビューのポイントを簡単に紹介する。
一つ目は、「虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア」である。これは、最近、欧米において、虐待によって親から引き離された子どもを、親族を里親として預けることが増加していることを背景に、里親が親族の場合と、そうでない場合とで子どもの安全性、永続性、幸福感(ウェルビーイング)に差があるかどうかを検証したものである。結論から言うと、虐待のために自宅から離されざるを得なかった子どもの安全性、安定性、幸福感を確保する観点からは、親族を里親とした子どもは、そうでない子どもよりも行動面や精神面の状態が優れていることが明らかとなった。親族が里親の場合には、全体に問題行動が少なく、行動も適応し、精神障害が少なく、感情面も良好であった。また、親族が里親の場合には、より安定し永続的な生活が経験でき、非親族の場合の子どもよりも組織的虐待を受けにくい傾向も指摘された。レビューでは、親族が里親の場合のほうが、そうでない場合よりも支援が少なくて済むことが明らかとなったが、最終的には、養子縁組か生みの親の元に戻ることが好ましい最終目標であると結論づけている。
二つ目は、「先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付」である。このレビューは、恵まれていない家庭への金銭的援助が、相対的な貧困の状態を改善し、子どもの健康、福祉、学業上の習熟度を向上することにつながるかどうかを検証したものである。結論から言うと、金銭的援助だけではあまり効果は期待できなさそうである。少なくとも、レビューでは、金銭的利益を提供することが、子どもの健康や福祉を向上させる介入としてすぐに効果があると確信を持って言うことは出来ないと書かれている。ただし、支給された現金の使い道に制限が無かったことや、受給方法において厳格な条件をもうけていたことを考慮すると、この結論は一般化できないとも指摘されている。金銭的な福祉プログラムについては、直接的な金銭的援助よりも財政的なアクセスや財政に関する啓蒙的なアプローチのほうが効果的であるという研究もあり、貧困家庭などに対してどのような形での支援が効果的か、今後の成果が待たれる。
これまでのブックレットで津富宏教授が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー)ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。

龍谷大学犯罪学研究センター 政策評価ユニット長 浜井浩一