Need Help?

News

ニュース

2019.06.11

「刑務所・少年院×立ち直り・地方創生アイデアソン」に浜井教授が参加【犯罪学研究センター】

刑務所・少年院とまちのつながりから立ち直りを考える

2019年6月1日、法務省主催・ヤフー株式会社共催によるイベント「刑務所・少年院×立ち直り・地方創生アイデアソン(通称:ケイムション)」が行われ、浜井 浩一教授(本学法学部/犯罪学研究センター 国際部門長/矯正・保護総合センター長)と犯罪学研究センターのスタッフが参加しました。

このイベントでは刑務所・少年院出所者の立ち直りや再犯防止を考えることを目的に、「立ち直りの新しい仕組み」や「法務省および刑務所職員の気づいていない、刑務所が持つ価値や地域に還元できる資源の活用方法」などについてアイデアソン*1を実施。ヤフー本社のオープンコラボレーションスペース「LODGE」を会場に、法務省職員やヤフー社員、民間企業社員、教育機関職員、学生、少年院出身の更生した方々、全国7か所の刑務所・少年院の所長、地方自治体職員など、約160人もの多様な職業や世代が参加し、白熱した議論を展開しました。



会の冒頭、名執 雅子氏(法務省矯正局長)が主催者あいさつに立ち「法務省は、この10年にわたり“開かれた刑務所”への方向転換を図ってきた。とりわけ、受刑者や保護観察対象者らに対する再犯防止の改善指導教育や就労支援など、社会復帰に向けたサポートを提供することが当たり前になってきた。受刑者の高齢化など刑務所は社会の縮図。次の被害者を生まないために、再犯防止策を地域の方々と共に考えていきたい」と述べました。
つづいて共催者あいさつに立った鈴木 昭紀氏(ヤフー株式会社 コーポレートグループ SR推進統括本部CSR推進室 室長)は「ヤフーのIT人財育成プロジェクト」は昨年、美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)でインターネットを活用した日本初の受刑者向け職業訓練『ネット販売実務科』を実施。情報技術で人々や社会の課題解決に寄与した」ことを紹介しました。



そして、今回の「なぜ刑務所と地方創生なのか」というテーマに関して、主催者からの話題提供が行われました。「防犯×まち=初犯が減る」というスキームから、「立ち直り×まち=再犯が減る」というスキームを発想。地域での初犯・再犯を減らすためには、刑務所・少年院と自治体や地域住民、企業など外部との連携強化が欠かせないのではないか。一例として、民間のノウハウや人的つながりの活用を企図したPFI(民間資本主導)方式の刑務所である山口県美祢市の「社会復帰促進センター」が紹介されました。
西岡 晃氏(山口県美祢市長)は「ヤフーと連携した受刑者向け職業訓練『ネット販売実務科』を通じて、地産外消の広がりから、さらなる美祢ブランドの向上に期待したい」と意気込みました。
>>ヤフーストア「道の駅おふく美祢市ミネコレカート」/



ゲストスピーカーの新井 博文氏は、自身の少年院への入所経験からIT関連団体で働く現在までを振り返り、「立ち直りにはつながりの数と質が大切だった。成功体験を一つひとつ積み重ね、次の可能性へとアクセスしてきた中で、良いコミュニティは連鎖していくものだと実感した」と述べました。そして、更生できた人とそうでない人との違いは、“愛されたと感じた回数の違い”にあるではないかと示唆しました。

つづいて主催者側からアイデアソンの4つの具体的なテーマが提示され、はじめにローカルトークと題して各矯正施設が現状や課題を提供しました。
【テーマ1】「少年院出院者が、彼らの立ち直りを支援してくれる人・場所・情報とつながる仕組みの作り方」
 >>ローカルトーク提供施設:加古川学園(兵庫県加古川市)
【テーマ2】「就労や地域貢献につながる刑務所・少年院における農作業の在り方/農作物の活用方法」
 >>ローカルトーク提供施設:帯広刑務所(北海道帯広市)
【テーマ3】「刑務所・少年院が有する人的・物的資源の地域社会での活用方法」
 >>ローカルトーク提供施設:国際法務総合センター(東京都昭島市)・東日本成人矯正医療センター(東京都昭島市)・立川拘置所(東京都立川市)
【テーマ4】「刑務所・少年院と地方自治体がコラボレーションした地域と刑務所・少年院のPR方法」
 >>ローカルトーク提供施設:川越少年刑務所(埼玉県川越市)・松山刑務所(愛媛県東温市)・浪速少年院(大阪府茨木市)

次にこれら4テーマに関してアイデアソンを実施。個々で検討したアイデアをペアでブレインストーミングしていき、ふたたび個々に戻ってアイデアシートを作成して、良いと思ったものに投票を行いました。


数々のアイデアシート

数々のアイデアシート


場内のアイデア投票風景

場内のアイデア投票風景

投票により、生み出された数百にも及ぶアイデアから優れたものが幾つか選定されました。そして、上位アイデアの約10グループに分かれて、再びアイデアを深掘りした上で各グループの代表者が最終発表。さいごに、法務省関係者および鈴木 昭紀氏(ヤフー株式会社)、西岡 晃氏(山口県美祢市長)による審査・結果発表が行われました。

上位アイデアとして選ばれたのは、下記パネルの3案です。
○『役立ちたい!出前するお節介サービス』
(少年院の教官および少年による、地域の手の届かない課題解決サービス)
○『刑務所ごはん×こども食堂』
(昼は一般向けの「プリズンレストラン」・夜は困っている方に向けた「つながるレストラン」)
○『監獄フェス』
(全国の刑務所を舞台にした地域交流&体験型イベント)


今後、法務省のプロジェクトとしてこれら上位アイデアは必ず実現し、選ばれなかったアイデアについても実現可能性を探っていくそうです。


上位3アイデアに選出されたパネル

上位3アイデアに選出されたパネル


アイデアパネルの数々

アイデアパネルの数々


グループワークのようす

グループワークのようす



終了後は、交流の時間が設けられ、少年院等の矯正施設に収容された経験を持つ青少年による料理が振る舞われました。彼らをサポートする「NPO法人クラージュ」は、退院後の青少年が円滑に社会復帰できるように住居の斡旋や就労支援、心のケアを行っています。


今回のイベントに参加した浜井教授は「いま国をあげて再犯防止に取り組んでいるが、課題は罪をおかした人の立ち直りだけに限ったことではなく、“社会との連帯”にある。受刑者はやがて地域にかえっていく存在なので、刑務所・少年院と地域のつながりが欠かせない。受刑者の社会復帰の意欲を高めるために、受刑者が塀の外のカフェでバリスタとして働くようなイタリアの刑務所での先行的な例もある。地方創生をテーマに考えるならば、地域や市場のニーズと矯正施設の強みが合致するような商品やサービス開発が良いのではないか。刑務作業は手間暇をかけられる分、高品質で安心・安全なものづくりができる。日本の刑務所・少年院においても、マーケットに精通した専門家や企業と連携しながら、地域の特性を活かした農産品やレストラン経営などの試みが行われることに期待したい」と感想を述べました。



犯罪学研究センターでは、今後とも再犯防止にかかわる活動に積極的に参与し、龍谷大学ならではの「人にやさしい犯罪学」の創生に向けた研究と社会実装活動を展開していきます。

________________________________________
【補注】
*1 アイデアソン(英:ideathon)

同じテーマについて皆で集中的にアイデアを出し合うことにより、新たな発想を創出しようとする取り組みのこと、および、そうした取り組みを主とするイベントのこと。アイデアとマラソンを組み合わせた造語。