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2019.07.23

子どもの相談支援をテーマに第20回発達障害研究会を開催【犯罪学研究センター】

“観察”と“共有”の観点から、子どもの相談支援について考える

2019年7月11日、犯罪学研究センター司法心理学ユニット」は、「発達障害研究会」を本学大宮キャンパス西黌別館で共催し、医療や心理に関わる実務家、研究者を中心に約10名が参加しました。
【イベント概要>>】http://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3712.html



Hamish Canham(英国の心理療法士, 主に司法領域で子どもの保護に関わる)の『子どもが望んだことと、実際に感じていることとの間には、しばしば重大な差がある』という言葉に端的に表されるように、カウンセリングの場面では、語りだけにとらわれないことが肝要です。言語的に未発達な幼児や発達に障害のある子ども、虐待などの剥奪を受けた子どものアセスメント、サイコセラピーに関して心理士に求められることは、言葉で語られた「願望」だけで判断するのではなく、語り方や振る舞いなどの様子に現れている「感情」にも目を向け評価していくことです。そして、虐待の対応など子どもの処遇に関わる際には、それを関係機関と共有し、子どもの最大の利益のために共に検討していくことが大切です。

今回の研究会では、武田和士氏(認定NPO法人 子どもの心理療法支援会:サポチル 理事)を講師に迎え、発達障害と被虐待児童支援の経験から、子どもの相談支援をテーマに発表していただきました。
「サポチル」では、虐待を受けた子どもや、発達障害の子どもといった、心理療法を必要とする子ども達へ金銭を補助し、ケアが届かない子たちへカウンセリングケアを提供しています。


武田和士氏(認定NPO法人 子どもの心理療法支援会:サポチル 理事)

武田和士氏(認定NPO法人 子どもの心理療法支援会:サポチル 理事)

はじめに、発達支援の目的について報告がありました。セラピストによる子どもの支援や関わり方として「カウンセリング、検査、コンサルテーション等において大切なことは、しっかりと観察すること、見たもの、感じたことを共有することだ」と主張。支援において、セラピストは、子ども・養育者・支援者のいずれからの相談においても“子どもの理解の促進”を共通の目的とし、「養育者が子どもの変化に対応できないことや、支援者による支援がうまくいかないといった問題は、そもそも子どもが何を求めているのという理解が上手くいっていないことから起こっている場合が多い」と述べました。

そして、「セラピストはカウンセリング場面において、語られないことに思いを馳せ、言葉を返すこと。また、返す自分の言葉が相手に伝わるものかどうかを考えること。検査場面においては、結果ではなく、検査の取り組み方を観察し、その取り組み方を生活場面とすり合わせていくことが重要だ」と述べました。そして、観察の基盤の例として、タビストック式乳児観察(生後間もなくから、2年間、毎週1時間、決まった曜日、決まった時間に家庭を訪問し、継続的に乳児と家族を記録、グループで検討をするという方法)を挙げました。「母親が赤ちゃんの“泣く”という行動に対し、自身も同じように不安感を感じながらも、想いを巡らせ、あれこれと具体的な行動を通して、それを返していくように、言語能力が未発達な幼児の非言語的なコミュニケーションと、自身の心の動きに目を向ける観察は、カウンセリングの中でも、そこに現れる“言葉で表現されない何か”を理解するための助けになる」と紹介しました。


つぎに、養育者、支援者に対する支援について報告がありました。養育者の支援として、子どもに関心を持ち、グループ内でのディスカッションを行う「COS-P(Circle of Security Parenting Program)」を取り上げました。これは愛着理論*1に基づいた、子と親の関係性を改善する介入プログラムであり、グループで行われます。“安心の基地*2”と“安全な避難所*3”の2つからなる「安心感の輪」を理解した上で、子どもの欲求を推測し、養育者自身の感情の特徴などを把握して対応するというプログラムです。単にカウンセリングのテクニックやスキルを磨くのではなく、養育者自身が自分の見方を振り返り、気付きを得ることを目的としています。
そして、支援者のための支援方法として「ワークディスカッション」を取り上げました。これは支援者自身が観察したこと、感じたことをグループでディスカッションすること、そしてそのグループで起こるそれぞれの心の動きを心理士が扱いながら、ともに考えていく中で、観察力や感受性など「経験から学ぶ」能力を向上させることを目的とした方法です。


武田和士氏の発表資料より

武田和士氏の発表資料より


支援者同士のワークディスカッションについて武田氏は「発表者がグループで受け入れられ、その思考や感情を言葉にしながら共に考えていく中で、無意識のうちに巻き込まれていた集団としての心の動きに気づき、新たな意味を見出し、そこに生じていたストレスが緩和されていくこともある」と紹介。「これまで言葉にならなかった何かが、言葉で共有されていくことで、腑に落ちることがある。子どもの場合は言葉が未成熟な場合も多く、その態度や表情など言葉では語られないことの意味を、より注意深く観察することが大切だ」と述べました。


さいごに、「子どもをよく観察することで、子が見ている世界を感じ、共有していくこと。それと同時に、養育者や支援者の心の動きも観察することで、彼ら自身がどのような悩みを抱え、どんな危機に脅かされているのかを、セラピストは常々考えていかなければならない。そして子どもと関わる人たちとの情報共有の重要さについても理解しておかなければならない」と述べ、報告を終えました。

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【補注】
*1 愛着理論:
John Bowlby(1907―1990)が提唱。乳幼児の養育者に対する、泣く・しがみつく・追いかけるといった生得的な欲求を、養育者が積極的に応えることで互いの関係を築くことが重要であるとする理論。

*2 安心の基地:
子どもにとっての愛着対象が幼い子どもに提供する、心地よい安定や保護などを保証した環境のことを指す。

*3 安全な避難所:
困難が生じた場合、子どもが愛着対象に助けてもらえるという安心感を与える環境のことを指す。
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