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2019.11.01

第5回科学鑑定ユニット研究会(第19回法科学研究会)を開催【犯罪学研究センター】

テーマ:「臓器移植の現況」


2019年3月15日、本学深草キャンパス至心館1階にて「第5回科学鑑定ユニット研究会(第19回科学鑑定研究会)」を開催しました。今回の講師は、雨宮 浩先生(日本移植学会名誉会長)でした。テーマは「臓器移植の現況」で、日本の臓器移植に関して研究の発展、移植システムなどが紹介されました。


雨宮 浩先生(日本移植学会名誉会長)

雨宮 浩先生(日本移植学会名誉会長)


日本の臓器移植において対象となるのは、法律で定められた心臓、肺、肝臓、腎臓と、省令で定められた眼球、小腸、膵臓です。まず、臓器移植のメインテーマのひとつとしてあげられるのは、拒絶反応の抑制です。拒絶反応は非自己に対する免疫反応(体内の異物を排除しようとする防御反応)で、免疫抑制剤の進歩によって近年移植成績が大幅に向上していることが紹介されました。つぎに臓器移植の歴史的経緯です。日本で初めて移植が行われたのは角膜で、1905(明治39)年に実施されました。その後、1958(昭和33)年に「角膜移植に関する法律」、1979年に「角膜及び腎臓の移植に関する法律」、1997(平成9)年に「臓器の移植に関する法律」が制定されました。この臓器移植法は、2010(平成22)年に改正されました。改正によって、本人が拒否する場合を除いて、家族の同意での摘出が可能となり、脳死判定についても同様に家族の同意で行うことができるようになりました。また、親族への優先提供が可能となった点、提供年齢の制限がなくなったことで小児移植が可能となった点が重要です。現在、臓器移植のコーディネートを担っているのは「日本臓器移植ネットワーク」です。ネットワークは臓器提供病院、移植医療機関、臓器別指定医療機関、移植専門委、院内コーディネーターと連携して臓器移植を実施しています。
それでは現在の臓器移植の実績(成績)はどのような状況にあるのでしょうか。現在の臓器移植は主に、腎臓、肝臓、心臓について行われています。ドナー(臓器提供者)には生体ドナーと死体ドナー(非血縁者が主体)があり、死体ドナーには全脳死ドナー、心停止ドナーがあります。死体ドナーからの臓器摘出については、検視、犯罪捜査が優先されます。また児童虐待の有無の確認が必要であり、被虐待児童からの提供は禁止されています。2010年に臓器移植法の改正が行われるまでは、ほとんどが心停止ドナーから臓器提供されていました。しかし改正法施行はそれが逆転し、現在では脳死ドナーから提供される割合が増加しています。
他方、生体ドナーからの臓器摘出を見てみましょう。腎臓移植については9割近くが生体ドナーからの提供です。特に2002年以降は親子間移植の次に非血縁(特に夫婦間)移植が多数占めており、さらに以前は禁忌であったABO型不適合移植が可能となり、成績も良好になっています。肝臓移植についても多数が生体ドナーからの移植です。
臓器の提供に至るプロセスとしては、本人の意思あるいは家族からの申し出が中心ですが、終末期医療のオプションとして提示されることもあります。一方で、病変、心停止などの医学的理由、家族の不同意、法的除外例などの法的問題、施設として対応できないなどの施設問題によって提供が中止されてしまう事例もあるとのことでした。
日本の臓器提供の現況についてその概要と歴史的背景、現状について体系的に学ぶことができ、大変有意義な研究会となりました。

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龍谷大学 犯罪学研究センター 科学鑑定ユニットでは、第22回法科学研究会を11月22日(金)に開催します。
テーマ:「目撃者記憶に聴取者が与える影響:識別手続き場面を想定した実験的検討」
【>>EVENT詳細】第22回法科学研究会 (犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット)
※参加無料・申込不要