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2020.01.10

京都コングレス・ユースフォーラムに向けて「法務省政策提案アイデアソン(東京・Yahoo! LODGE)」に参加【犯罪学研究センター】

「法務省政策提案アイデアソン ~私と地域と立ち直りをテーマに~」参加レポート

2020年4月20日~27日、国立京都国際会館で「京都コングレス(第14回国際犯罪防止刑事司法会議)」が開催されます。来春の京都コングレスに関連して実施される「京都コングレス・ユースフォーラム」への龍谷大学チームの参加に向けて、犯罪学研究センターHPでは京都コングレス・ユースフォーラムへの道のりと題して、参加学生の皆さんの活動の様子をシリーズで紹介していきます。



2019年12月7日、法務省主催・ヤフー株式会社共催によるイベント「法務省政策提案アイデアソン ~私と地域と立ち直りをテーマに~」が行われました。
2017年には、5万人を超える少年が警察に検挙され、2,000人以上が少年院に新たに収容されています。非行の背景はさまざまですが、家庭、学校、職場への不適応や被虐待経験など少年を取り巻く環境には多種多様な課題があります。今回のイベントでは犯罪・非行という社会課題について、「非行を身近な問題として捉えるには?」「立ち直りに自分たちは何ができる?」などといった観点から学生と社会人が一緒になってアイデアソン*1を実施。当日は、ヤフー本社のオープンコラボレーションスペース「LODGE」を会場に、学生をはじめ法務省職員やヤフー社員、一般企業社員など、約130人もの多様な職業や世代が参加し、白熱した議論を展開しました。
今回のワークショップに参加した4名の学生によるレポートを紹介します。

【法務省政策提案アイデアソン(東京・Yahoo! LODGE)に参加して】


海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)


山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

【海津更】
今回の「法務省政策提案アイデアソン」は、矯正関係の職に就いている社会人や矯正関係の職に興味を持つ学生の参加が多くみられ、様々な視点からの考えが聞くことができたので、私自身の成長にもつながった。もっと大々的な取り組みとして、例えば、矯正処遇に今まで触れる機会がなかった人も参加できるような形で行っても良いのではないか。なぜなら、外部の視点を取り入れることで新たな発見ができるのではと考えたからだ。
最初のトークセッションでは、飯田大輔氏(社会福祉法人福士楽団 理事長/㈱恋する豚研究所 代表取締役)・甲田真理氏(SUN RHYTHM,INC 代表取締役)・安部敏樹氏(一般社団法人リディラバ代表理事/㈱Ridilover代表取締役)が登壇し、少年院や刑務所の被収容者、非行少年に対する世間の目や、3名の取り組みについて紹介があった。中でも印象深かったのは甲田氏の言葉だ。甲田氏は、少年院でのダンスレッスンの際に入院者に対して「少年院に入ってよかったね」といつも話されているそうだ。一般の人は、「少年院」と聞くと多くの人が大なり小なり忌避してしまいがちだ。少年院というワードはそれだけマイナスイメージが強く、少年自身にもそのイメージが重くのしかかってくる。このことは少年の自尊心を傷つけ、社会復帰に向けて努力するにあたって大きな壁となり、仮に社会復帰が叶ったとしてもその状態を維持し続けることを困難にする。そして、社会復帰が困難になってしまうと再犯の可能性が上がると考えられている。だからこそ、忌避すべき対象だというイメージが少しでもなくなれば社会復帰の壁が低くなり、再犯の予防にもつながると私は考える。私は将来、少年院へのマイナスイメージを払拭し、少年の社会復帰がスムーズにいくような社会を作りたい。
また、安部氏が使っていた「社会の無関心」というワードも印象深い。安部氏が代表理事を務める一般社団法人リディラバの活動に、修学旅行で社会問題の現場訪問(刑務所・少年院の参観)を組み込むというものがあり、とても感銘を受けた。そこで、アイデアソンではリディラバの活動と、私が以前少年院を参観した際に目にした少年院と近所の幼稚園との交流とを組み合わせたアイデアを提案した。簡潔に言うと『固定観念の植え付けられていない低年齢層に働きかけることで、社会のマイナスイメージを将来的に打破すること』。ありきたりかもしれないが、全国的な規模で行われている試みはまだない。
アイデアソンでは多様なアイデアを聞くことができた上に、自分が当初考えていたアイデアに他のアイデアを組み込んだりチームでブラッシュアップしたりすることができたので、とても有意義な時間を過ごすことができた。そして、私の参加チームは最終発表を行う3チームのうちの1つに選ばれ、発表する機会を得られました。とても光栄なことです。
今回のワークショップを通して学生という身分がとても恵まれていることを感じ、同時に少し悔しい思いもした。学生は矯正保護の現場を知ることはできないからだ。現場を知らないからこそ出せるアイデアもあるが、逆もしかり、現場を知っているからこそ出せるアイデアもある。それぞれのアイデアをすり合わせていく作業はとても刺激的でためになった。おそらく今回のワークショップに参加されなかった方もアイデアを持っているはずだ。ぜひそうした方々ともアイデアも共有したいと思う。


海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)


【山口未来】
私は、アイデアソンの中で「刑務所のまち」を提案した。現在、社会では元受刑者に対して偏見を持って接していると感じる。そこで、元受刑者への偏見をなくすこと、受刑者が出所後に孤立しないコミュニティづくりの2つを目的とした。具体的には、街の中に受刑者の収容施設をつくり、夜間はそこに収容し、日中は刑務作業を街中の公共施設や商店などで行う。それによって、街の人とコミュニケーションをとり、つながりをつくる。刑務作業を街中で行うことによって、地域の人々が受刑者の立ち直り、更生を実際に見ることができ、社会にある受刑者への偏見をなくす契機になるのではないかと考える。
グループディスカッションの際には、大きく2つの問題が出てきた。ひとつは全受刑者を対象とするべきかどうかである。一見模範囚であるように見えても、仮釈放の後ですぐに罪を犯して、また刑務所に戻ってくる者もたくさんいる。もうひとつは出所後の就職先が建築関係やサービス業に限られるということである。解決方法としては、「刑務所のまち」の規模を縮小し、個人の面談を重ね、仮釈放もしくは満期をむかえる直前に対象者を絞り、インターンシップのかたちで社会に出ていく方法が有効と考えられる。インターンシップ先として、IT企業など知識労働の企業も提供することで、自分に合った職場を探し、就職先に決定すれば釈放、というスキームにする。これによって、出所後に自分に合った職業に就くことができ、長続きすると考えられる。
今回、このワークショップに参加することで、自分では得られない視点から自分のアイデアを見ることができ、新しい視点や観点を持つことができた。知見を得ることも大切だと思うが、同じことをさまざまな視点、観点から見ることで、また見え方が変わるのだと改めて実感した。


山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


【森本夏樹】
私の見解では、「犯罪」は人生に対する単なる「つまづき」であり、どんな人でも環境が変われば犯してしまうものであり、特別的なものではない。しかし、多くの市民は「犯罪はアブノーマルな人間が行うもの」と考え、「犯罪や受刑者」は特別的なものとして見ている。このことが「受刑者」を「社会」から遠ざける壁を作り出し、この「社会と受刑者の壁」が、再犯防止や社会復帰を妨げていると考えている。
また受刑者側も前述の「社会と受刑者の壁」の影響により、「自分たちは社会や市民から虐げられている存在である」と言うアイデンティティを持ち、自分達に偏見を持つ「社会」に憎しみを抱き更に「社会と受刑者の壁」を厚くする悪循環に陥っているように思える。
そのため、受刑者の再犯防止や社会復帰にはこの「社会と受刑者との壁」を薄くする必要があり、その方法として
①元受刑者と「一般市民」の間に違いは殆どなく、環境の違いだけが異なる点であることを学校で教育すること。
②元受刑者が犯罪を行ってしまう原因を明確に解明し、非犯罪者に親近感を持ってもらうこと(同じような存在であることを強調)。
③元受刑者が敵対するべき存在は「社会」でも「一般市民」でもなくこの「現状」そのものであると考えてもらうために(逆もまた然り)、「一般市民」と「受刑者」がお互いを仲間であると認識を持つよう共通の敵を設定し互いが協力するように促すこと。
の3つをアイデアソンの中で提案した。

しかし、私の案はあまり賛同を得られず、方針に理解を示してくれたのは一部の方だけだった。理由は明白だ。他の案は具体的な政策提案であったのに関わらず、私の案は抽象的で、枠組のみしか伝えられなかったからだ。

私は今まで確かな解決案を持っていれば、なんとかなると高を括っていたが、今回のワークショップを経て、自分には「内容を要約する能力」と「相手に伝える能力」が足りていないことに気づかされた。しかし、私がワークショップで知ることが出来たのは自分の弱みだけでない。自分の強みも知ることが出来た。手間を惜しまず、徹底的に掘り下げて考察する力と最後まで諦めない根気と根性と図太さだ。諦めない限り可能性は無限に広がっていると自負している。
このワークショップの悔しさを力に変え、自分の弱みを改善しながら、京都コングレス・ユースフォーラムの発表準備に全身全霊で取り組みたい。


森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


【永井涼介】
複数のチームに分かれて行われたアイデアソンでは、はじめに自分のアイデアを書き記した後、チームで意見交換を行った。私の意見は、「地域コミュニティとのつながり」だ。その理由は、出所後に必要な福祉サービスが受けられずに孤立した結果、犯罪を繰り返して再入所するような高齢累犯者がいるように、“社会に居場所がない”ことが挙げられる。具体的には、刑務所内での刑務作業のみならず、文化祭のように施設を一般開放したり、刑務所内の運動の時間の代わりに地域の部活動生と一緒に活動したりする等の案を挙げた。また、「刑務作業の労働化」というのもポイントとして強調した。刑務作業は刑法に規定された懲役刑の一つ。刑務作業は労働ではないため賃金ではなく「作業報奨金」が与えられるが、極めて低額だ(平成29年度の1人1月当たりの平均計算額は約4,340円)。そのため、実際に所持金がほとんどなく窃盗(万引き)を行う累犯者など、食事と住居を得るために自由を捨て軽微な犯罪で意図的に捕まるという例を見たからだ。以上、社会復帰という観点から「地域コミュニティとのつながり」「刑務作業の労働化」を挙げた。
その後、全体アイデア発表や意見交換を行う中で、経営者の方や官僚の方々の意見を直にうかがい、自分では思いもつかなかった物事の視点に触れることができ、思考の幅が広がった。特に資金の集め方について、経営者の方がクラウドファティングを用いた時の予想値をその場で計算されていたのが印象に残り、経験値の差を感じた。
また、自分の考えを大勢の前で積極的に主張できたことが得難い経験で、何よりも臆せずに発表できたことが自信にも繋がった。
ただ、審査の際はパネラーの方に「みなさんまだまだ現場のリアルを知らないんだな」とやや辛口なコメントを貰い、京都コングレス・ユースフォーラムに向けて多少の勉強をしているとはいえ、まだまだだと感じた。また、ソーシャルファームの存在や受刑者の社会復帰に関する支援の現状を事前にもっと勉強しておけば、自分の意見をもっとうまくまとめられたのでは、と勉強不足を痛感した。
さいごの懇親会では、他府県他校他職業の方々と交流でき、非常に新鮮であるとともに学びの輪を広げられたのが良かった。


永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)


集合写真

集合写真


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【補注】
*1 アイデアソン(英:ideathon)
同じテーマについて皆で集中的にアイデアを出し合うことにより、新たな発想を創出しようとする取り組みのこと、および、そうした取り組みを主とするイベントのこと。アイデアとマラソンを組み合わせた造語。