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2020.01.30

第22回法科学研究会を開催【犯罪学研究センター】

目撃者記憶に聴取者が与える影響:識別手続き場面を想定した実験的検討

2019年11月22日、犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニットは「第22回法科学研究会」を開催しました(於:本学深草キャンパス 至心館1階)。当日は15名の方に参加いただきました。
【イベント概要>>】http://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4347.html

今回の講師は、福島由衣氏(日本大学文理学部人文科学研究所研究員/龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)で、テーマは「目撃者記憶に聴取者が与える影響:識別手続き場面を想定した実験的検討」でした。誤った目撃証言は冤罪に寄与する割合が非常に高いと言われていますが、誤った目撃証言が発生する要因は様々です。目撃者が目撃した時点の環境によっておこる記憶自体の間違いが要因であることもあれば、捜査手続きにおいて目撃者へ不適切な聴取が行われてしまうことが要因であることもあります。今回は後者の、目撃証言に対する聴取者側が与える影響についての研究が紹介されました。



まず質問の選択肢が目撃者の写真識別に与える影響についての研究です。刑事事件の捜査手続きでは、目撃者に対して複数枚の写真を見せ、実際に目撃した人物を選択させる「写真識別」を行うことがあります。この写真識別において、目撃した人物について自由に証言するよう求めた場合、「わからない」と回答する人が非常に少ないということがオーストラリアの研究者ら(※1)によって明らかになりました。その後、この研究者らは「写真の人物は自分が目撃した犯人であるかどうか」について選択肢を設けた実験を行いました。実験では、「はい」か「いいえ」という2つの選択肢から選ぶ条件と、そこに「わからない」を加えた、3つの選択肢から選ぶ条件を設けました。その結果、「わからない」を加えた条件のほうが、誤識別率(犯人ではない人物を犯人だと証言してしまう割合)が低くなることが明らかになりました。この研究結果に基づいて、福島氏ら(※2)も「わからない」という選択肢の影響に関する調査を行いました。日本の捜査手続きでは目撃者に対して何度も聴き取りが行われるため、調査では2週間にわたって4回の聴取を行いました。また写真識別に対する誘導の影響も検証するため、聴取者が「あなたが見たのはこの人ですよね」と発言する/しない、という誘導あり/なし条件も追加しました。その結果、誘導あり条件では誘導なし条件より誤識別率が高いことがわかりました。一方で、誘導あり条件では誤識別率がすべての聴取において高かったことから「わからない」という選択肢では誤識別が抑制されないことが示されました。したがって、「わからない」判断の明示は聴取者が誘導的でない場合にのみ有効であることが推察されます。

つぎに聴取者の発言が目撃者自身の記憶に対する評価に与える影響についての研究です。目撃者の確信度評価(自分の証言の確かさについてどのくらい自信があるか)は、目撃証言の正確性の指標として認識されやすい、ということが明らかになっています。しかし、確信度と正確性に相関があるかどうか、つまり確信度が高い目撃者の証言のほうがより正確であるといえるかどうかという点については長い論争があります。この確信度について研究するアメリカの研究者ら(※3)は、聴取手続きにおいて聴取者が目撃者の識別を暗に肯定するようなフィードバックを返すと、目撃者は自分自身の記憶について高く評価する(犯人の顔がよく見えた、目撃時間は長かったなど)ようになる、ということを明らかにしました。この現象は識別後フィードバック効果(post-identification feedback effect;PIFE)と名付けられました。さらにほかの研究者らの研究によって、PIFEは、目撃者に誤った確信を与えるだけでなく、その証言の信用性や正確性を評価する陪審員や裁判官の誤った判断も助長することが示されました(※4)。これらの研究結果に基づいて福島氏ら(※5)もPIFEに関する調査を行いました。たとえ目撃証言が誤ったものであっても証拠にならなければ冤罪が発生する可能性は低いでしょう。誤った目撃証言が問題となるのは、それが法廷で証言されたときです。そこで福島氏らは、PIFEによって自身の記憶についての評価が高くなった目撃者ほど、法廷で証言をしやすくなるかどうかについて2件の調査を実施しました。1件目の調査では、ビデオで目撃した人物について写真識別を行いました。フィードバックは、確証的フィードバック条件(いいでしょう、犯人を選びましたね)、非確証的フィードバック条件(実は被疑者は●番でした)、フィードバックなし条件の3条件を設けました。その結果、確証的フィードバック条件の目撃者が最も自分の記憶について高く評価していたことが分かりました。一方で、識別に関する証言を録音し、これの提供に同意するかどうかという点について、同意の割合について3条件での差はありませんでした。2件目の同様の調査では質問項目に「調査データを法廷で利用するために弁護人に提供してもよいか」と「証言を録音するもしくは証言を筆記してもよいか」という2項目を加えました。その結果、確証的フィードバック条件の目撃者が最も自分自身の記憶について高く評価しており、目撃証言データの弁護人への提供についても「はい」と回答し、承諾する割合が最も高いということが分かりました。一方で証言を録音・筆記してもよいかについては3条件で差はみられないということが分かりました。これらの調査結果により、PIFEは記憶評価だけでなく、特定の行動に対する動機付けも向上させることが示唆されました。


福島由衣氏(日本大学文理学部人文科学研究所研究員/龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)

福島由衣氏(日本大学文理学部人文科学研究所研究員/龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)


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※1)Weber N. & Perfect TJ. (2012). Improving eyewitness identification accuracy by screening out those who say they don't know. Law and Human Behavior, 36(1),28-36.
※2)福島由衣・三浦大志・厳島行雄 (2016). 面接者の誘導が繰り返しの 写真識別判断に与える影響:─「わからない」判断を用いた検討. 法と心理,16(1),100-111.
※3)Wells, G. L., & Bradfield, A. L. (1998). "Good, you identified the suspect": Feedback to eyewitnesses distorts their reports of the witnessing experience. Journal of Applied Psychology, 83(3), 360–376.
※4) 福島由衣・厳島行雄 (2018). 目撃者の記憶を歪めるフィードバック : 識別後フィードバック効果研究とその展望. 心理学評論 = Japanese psychological review, 61(4), 407-422.
※5)Yui Fukushima, Kayla Jordan., & Maryanne Garry (2019). Does post-identification feedback affect eyewitness’ behavior? Poster presented at Conference of the European Association of Psychology and Law 2019 (Santiago de Compostela, Spain),119.