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2020.02.04

第16回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催【犯罪学研究センター】

「政策評価」・「犯罪社会学・意識調査」ユニットの研究最前線

2020年1月20日、犯罪学研究センターは、第16回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約10名が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4068.html

今回の研究会では、浜井 浩一 教授(本学法学部 /犯罪学研究センター 国際部門長・「政策評価」ユニット長)、上田 光明 氏(ATA-net研究センター 博士研究員・犯罪学研究センター 嘱託研究員)の2名による研究の進捗報告が行われました。


第16回CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会の様子

第16回CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会の様子


はじめに、浜井 浩一 教授(本学法学部 /犯罪学研究センター 国際部門長・「政策評価」ユニット長)による「政策評価」ユニットの報告が行われました。


浜井 浩一 教授(本学法学部 /犯罪学研究センター 国際部門長・「政策評価」ユニット長)

浜井 浩一 教授(本学法学部 /犯罪学研究センター 国際部門長・「政策評価」ユニット長)

「政策評価」ユニットでは、キャンベル共同計画(The Campbell Collaboration: C2)*1が作り出してきた科学的エビデンス(系統的レビュー)を日本語に翻訳し、犯罪学研究センターHP、紙媒体を通じて広く活用してもらうことを目的としています。これまで、キャンベル共同計画の日本語版HPの作成、『龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」』を発刊してきました。
【>>参照】犯罪学研究センター キャンベル共同計画 日本語版

さらに、「政策評価」ユニットでは社会実装*2として、地方公共団体と連携した「再犯防止推進計画」*3に関わる政策立案に協力しています。浜井教授は、自身が政策・立案に携わっている各自治体の取り組みを紹介しました。たとえば、奈良県では、出所後の受刑者を受け入れるため、財団法人によるソーシャルファーム*4の創設が計画されています。これは、出所前の受刑者へ求人情報を提供することで、出所後にスムーズな就労支援をすることが狙いです。また奈良市では、出所後の受刑者の生活支援を主に地域定着支援センターが担っていますが、浜井教授は、地域定着支援センターに負担が集中している現状を指摘。奈良市が主体的に出所後の受刑者に対して福祉サービス(住宅提供、生活保護、障害者支援など)を提供できる仕組みを提案しています。出所後の受刑者だけでなく、それを支援する側も孤立させない制度づくりの必要性を強調しました。

これらの事例を紹介したうえで浜井教授は、「政策・立案の段階で、キャンベル共同計画が作り出してきた科学的エビデンスの提供を試みている。キャンベル共同計画では効果があったもの、効果がなかったものの両方を紹介しているが、それらの傾向を分析してわかったのは、まず本人の意思を尊重し、どこで何を仕事にしたいのか第三者が理解することの重要性だ。さらに、就労前に仕事を体験させる処遇が有効である」と述べました。
さいごに、「就労支援に限らず、出所後の受刑者が地域社会に定着するためには、伴走型の支援を継続しなければならない。その手助けのためにも、行政に役立つ科学的エビデンスを我々が提供し、活用してもらえるよう協力していきたい。しかしながら、最近はキャンベル共同計画に登録されている刑事司法分野のレビューが増えない現状*5がある。やはりキャンベル共同計画に掲載されているような系統的レビューを作成するのが難しいという背景があるからだ。そうした現状を踏まえながら、当センターの犯罪学は広い研究領域から構成されているので、教育や社会福祉など他領域における系統的レビューにも目を向け、ラピッド・レビュー(エビデンスをナラティブレビューしたもの)も活用して、他国では今どのような試みがなされているのかも把握していきたい」と締め括り報告を終えました。

浜井教授の報告を受けて、津富 宏教授(静岡県立大学国際関係学部・犯罪学研究センター 「政策評価」ユニットメンバー)が世界的なエビデンス・ベースドの政策決定の現状について補足しました。そのうえで「単にデータによって示されたものがエビデンスであると誤った認識がなされている。価値観の議論も含めて、改めて科学的エビデンスの有効性を主張していかなければならない」とキャンベル共同計画を日本に紹介してきたグループの代表として、今後の展望を述べました。


津富 宏 教授(静岡県立大学国際関係学部・犯罪学研究センター 「政策評価ユニット」メンバー)

津富 宏 教授(静岡県立大学国際関係学部・犯罪学研究センター 「政策評価ユニット」メンバー)


上田 光明 氏(ATA-net研究センター 博士研究員・犯罪学研究センター 嘱託研究員)

上田 光明 氏(ATA-net研究センター 博士研究員・犯罪学研究センター 嘱託研究員)

つぎに、上田光明氏による「犯罪社会学」ユニット「意識調査」ユニットの研究報告が行われました。
「犯罪社会学」ユニットと「意識調査」ユニットは、ISRD-JAPANとして「国際自己申告非行調査(International Self-Report Delinquency Study: ISRD)」に参加するために準備を進めてきました。

ISRDとは非行経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクトです。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われています。少年非行は、万引きや大麻等の薬物使用といった、被害が判明しにくい犯罪が大部分を占めています。他方で、少年の犯罪被害の多くは家族や友人など身近な人からの被害であり、被害少年は警察に通報しない傾向にあります。このような理由から、少年非行の実態は警察統計等の公式統計には反映されにくいと考えられます。この問題の解決のため、さらに、非行原因のより深い理解のために開発・導入された調査が、自己申告非行調査です。自己申告非行調査は、これまで、国ごとに犯罪・非行の定義が異なっていたり、サンプルや質問項目が異なっていたりしたために、個々の調査結果を適切に国際比較することは困難でした。そんな中、複数の国々が同時に参加する形で自己申告調査を実施しようとする国際プロジェクト・ISRDがスタートしました。今では40の国々が参加するにまでになっています。
これまで日本はこのISRDに参加してきませんでしたが、犯罪学研究センターの設立を機に、若手研究スタッフを中心に2017年にISRD-JAPANが設立されました。現在、ISRD第3回調査(ISRD3)*6に参加しており、2019年12月、近畿地方の中学校で大規模調査を実施しました。

本報告会では、「ISRD3」実施に至るまでの活動・調査及び分析結果の中間報告が行われました。
【>>参照】ISRD-JAPANプロジェクト | 第8回CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会レポート

まず上田氏は、「意識調査」ユニットの活動について説明しました。同ユニットは、ISRD調査の企画立案から実施までを担当します。具体的には、調査票の翻訳、リサーチデザインの策定、各種関連機関との連絡、データ入力などを行います。
ユニットが立ち上がった当初は、ISRD-JAPAN全体ミーティングを繰り返し、活動の基盤、方向性を固めました。そして、ISRD-JAPANの中心メンバーは海外から招聘したゲストによるレクチャーを通じて、調査方法を学習。また海外視察も行い、他国のISRDを参考に、日本でどのように調査を行うかを検討しました。帰国後、調査票の原本とこれまで学んだメソッドをもとに「ISRD3日本語版調査票」を完成させました。上田氏は、調査票の翻訳が当初の想定より困難であったことを挙げ、「設問を翻訳するにあたり、原文への忠実さと日本語としての分かりやすさ、この2つの両立が課題だった。中には欧米との文化的な差異が大きい単語・表現もあり、その場合は、日本の文化に適合した単語・表現を選択した」と振り返りました。
その後、調査票や調査方法に問題点がないかを確認すべく、2018年12月、国内でプレ調査を実施しました。そして、2019年12月、交渉の末、近畿地方の1自治体から承諾を得て、複数の公立中学校においてISRD3調査を実施。上田氏は、「道のりは長かったが、無事調査を実施することができて満足している。まだ調査を実施できていない中学校・都市が残っているので、引き続き準備を進めていきたい」と述べました。

一方、「犯罪社会学」ユニットは、「意識調査」ユニットが行った調査や収集したデータを基に、データ分析とデータ管理を担当します。
(上述した)近畿地方の調査を通じて回収したデータ、公立中学校32クラス・1035名分のデータの基礎集計を主な項目ごとに報告しました。
調査には、「これまで非行や犯罪(万引き、傷害、違法薬物使用など)を行ったことがあるか」、「警察と関わったことがあるかどうか」といった質問項目が含まれています。分析の結果、これらの項目で「いいえ」と回答した生徒が大半であったことが報告されました。また、上田氏は、「諸外国との比較はこれからだが、ISRDに関する論文データを参考にすれば、日本は非行や犯罪に関して極めて低い水準であると予測できる」と考察しました。
さらに、上田氏は、調査終了後のデータ管理についても言及し、「『ISRD3』で収集したデータは、データアーカイブへの寄贈を行ない、他の研究者が気軽に利用できるようにすることが目標である」と述べました。そして、「国内のみならず、海外の学会でも日本の『ISRD3』の調査結果を報告し、いずれは論文として業績化するつもりだ。両ユニットのグローバル化をより一層推進していきたい」と抱負を述べました。

さいごに、津島昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長)が、今後の「犯罪社会学・意識調査」ユニットの活動予定として、2021年から調査が開始するISRD4への参加を目指すことを表明。そして、ISRD4の実施に伴う変更点、具体的には、新しく付け加えられる質問項目、新しく導入されるインターネットを利用したデータ収集、調査対象年齢の引き上げ、調査期限等について説明し、報告を終えました。


津島 昌弘 教授(本学社会学部/犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長)

津島 昌弘 教授(本学社会学部/犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長)

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【補注】
*1 キャンベル共同計画(The Campbell Collaboration: C2)
社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うために援助することを目的とする国際的な非営利団体。
キャンベル共同計画とは:https://crimrc.ryukoku.ac.jp/campbell/about.html
キャンベル共同計画HP:https://campbellcollaboration.org/

*2 社会実装
研究で得られた新たな知見や技術を実態経営や実態経済の中に活かしていくことで、社会や経済に便益をもたらすことを目指す研究開発。

*3 再犯防止推進計画
日本では、検挙人員に占める再犯者の割合である「再犯者率」が上昇していることから、犯罪や非行の繰り返しを防ぐ「再犯防止」が大きな課題となっている。本計画は、2016年12月、「再犯の防止等の推進に関する法律」(以下、「再犯防止推進法」という)が公布・施行されたことに基づく。「再犯防止推進法」第8条には、都道府県及び市町村は、再犯防止推進計画を勘案して、当該都道府県又は市町村における再犯防止等に関する施作の推進に関する計画を定めるように努めなければならないと規定されている。
【>>参照】法務省「再犯の防止等の推進に関する法律の施行について」

*4 ソーシャル・ファーム
障害者あるいは労働市場で不利な立場にある人々のために仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネス。従業員の多く(30%以上)が、身体障害など労働市場で不利な条件を抱えている人々によって構成されている。条件面では、障害のある従業員と障害のない従業員との機会均等が保証され、全ての従業員が同等の権利及び義務を有している。1970年頃、北イタリアの精神病院で始まった「ソーシャル・コーポラティブ(社会的協同組合)」が起源とされている。

*5 キャンベル共同計画に登録されている刑事司法分野のレビューが増えていかない現状の背景
データを用いて効果を検証するためのRCT(無作為比較対象実験)を行うことが、刑事司法においてはハードル高いということがあげられる。
参考:ピーター・H・ロッシ, マーク・W・リプセイ, ハワード・E・フリーマン著 ; 大島巌 [ほか] 監訳『プログラム評価の理論と方法 : システマティックな対人サービス・政策評価の実践ガイド』(日本評論社、2005年)45頁参照。
他に、特別プログラムの効果を検証するためのRCT(無作為比較対象実験)を行ことについて、受刑者を公平に扱わなければならないという観点から、理解を得られにくいという面もある。

*6 第3回調査(ISRD3)
第1回調査(ISRD1)は、13ヵ国が参加し、1992-1993年に実施された。第2回調査(ISRD2)は、2005-2007年に31ヵ国の参加を得て、実施された。最新の第3回調査(ISRD3)は、2012年に開始され、約40カ国が参加している。