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2020.02.10

龍谷大学ATA‐net研究センター キック・オフ・シンポジウム 第2部レポート【犯罪学研究センター共催】

「メディアスクラムとソーシャル・インクルージョン〜当事者の位相、支援者の位相、協働の位相〜」をテーマに“えんたく”を開催

2020年1月25日、本学深草キャンパス和顔館において、「龍谷大学ATA-net研究センター キック・オフ・シンポジウム」が、ATA-net JST/RISTEX定着支援事業採択記念として開催されました(犯罪学研究センター共催)。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4692.html
【第1部レポート>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-5035.html

和顔館B210で行われた第2部では、「メディアスクラムとソーシャル・インクルージョン〜当事者の位相、支援者の位相、協働の位相〜」をテーマに、課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”*1が行われました。

はじめに、石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長、ATA-net 代表) による趣旨説明が行われました。石塚教授は、「私たちは、アディクションや依存症問題を『孤立』の問題と考えている。そのため、大勢の人が寄り添い、問題を抱えている当事者と同じ目線で考える機会が必要だ。本日の”えんたく”では、多様な立場の人が関わり、お互いが共感しあえる場を作り上げていきたい」と述べました。

“えんたく”のセンターテーブルには、司会の石塚教授をはじめ、後藤弘子教授(千葉大学/摂食障害・クレプトマニア班)、藤岡淳子教授(大阪大学/性問題行動班)、加藤武士氏(木津川ダルク/保護司/ATA-net研究センター招聘研究員)、近藤恒夫氏(日本ダルク/ATA-net 顧問)、古藤吾郎氏(日本薬物政策アドボカシーネットワーク事務局長/ソーシャルワーカー)が集まりました。



今回の“えんたく”では、薬物使用や依存に対するメディアスクラム*2、とソーシャル・インクルージョンの実現について議論されました。現在、日本では、薬物使用者に対する厳しいまなざしや批判の声が絶えません。メディアの報道では、薬物を使用した「行為」にばかり焦点が集まります。しかし、当事者がなぜそうなってしまったのか、薬物使用の「原因」や「背景」について社会の側が思い馳せることができるような情報や機会が十分ではありません。薬物使用の当事者は、自分の悩みや苦しみが周囲に理解されず、結果として社会で孤立してしまう。そうすると適切な支援が受けられず、再び薬物や行為に依存するようになるといった負の連鎖に陥ってしまいます。
センターテーブルの登壇者の話を通じて、「どうすれば一人でも多くの人が薬物使用の背景にある問題に気付き、当事者に手を差し伸べることができるか」ということが課題に挙がりました。


石塚伸一教授(龍谷大学/同ATA-net研究センター長/ATA-net 代表)

石塚伸一教授(龍谷大学/同ATA-net研究センター長/ATA-net 代表)


近藤恒夫氏(日本ダルク/ATA-net 顧問)

近藤恒夫氏(日本ダルク/ATA-net 顧問)


後藤弘子教授(千葉大学/ATA-net摂食障害・クレプトマニア班)

後藤弘子教授(千葉大学/ATA-net摂食障害・クレプトマニア班)


藤岡淳子教授(大阪大学/ATA-net性問題行動班)

藤岡淳子教授(大阪大学/ATA-net性問題行動班)


加藤武士氏(木津川ダルク/保護司/龍谷大学ATA-net研究センター招聘研究員)

加藤武士氏(木津川ダルク/保護司/龍谷大学ATA-net研究センター招聘研究員)


古藤吾郎氏(日本薬物政策アドボカシーネットワーク事務局長/ソーシャルワーカー)

古藤吾郎氏(日本薬物政策アドボカシーネットワーク事務局長/ソーシャルワーカー)

こうした現状課題を踏まえて、加藤氏は、当事者の目線から薬物依存に陥った体験談を語りました。加藤氏は「薬物を使用する仲間からの誘いを断ち切れなかった」と振り返りました。薬物を使用することが危険な行為と分かっていても、当時の自分にとって、薬物を使用する仲間との関係が居場所になっていたと説明しました。
加藤氏は「家庭でも社会でも安心できる場所がなく、孤立していたことが問題だった。人は誤って犯罪のコミュニティに入ってしまうと、なかなか抜け出せない。薬物依存から回復するには、薬物だけでなく、自分にとって悪影響を及ぼす関係も断ち切らなければならない」と述べました。
一方で、加藤氏は「薬物依存から回復するにあたり、居場所となったのがダルクであった。つまり、人は生きていくうえで、安全で安心に生活できる居場所が欠かせない。その確保には、どうすれば良いか考えることが必要ではないか」と問題提起しました。

その後、フロア参加者が3人1組のグループとなって、「あなたにとって、安心で安全な居場所は?」をテーマにディスカッションし、意見を用紙にまとめました。回収された用紙は沢山のアイデアで埋め尽くされていました。たとえば、「あるがままの自分を受け入れられ、分かち合える場所」や「年齢・性別関係なく同じ思いを持つ人たちの集いの場」、「信頼できる人間関係」などのアイデアが挙がりました。


※画像はオーディエンスから寄せられた紙の一部

※画像はオーディエンスから寄せられた紙の一部


“えんたく”の結びでは、各登壇者が「薬物使用の非犯罪化」、「国を挙げての治療支援」など、具体的な薬物政策について言及しました。しかし、大きな政策の実現には、まず人と人とが対話を重ね合うこと、そして、社会の中で実現できそうなことから一つずつ取り組む姿勢が大切です。登壇者から、一人ひとりが当事者意識を持ち、様々な角度から薬物問題、依存症問題を議論することを呼びかけ、”えんたく”は大盛況に終わりました。


閉会式では、西村直之氏(認定NPO法人RSN/(一社)日本 SRG 協議会代表理事/ATA-net ギャンブリング班)、橋元良明氏(東京大学/ATA-net インターネット・携帯電話班)、横田尤孝氏(NPO法人アパリ顧問/弁護士/長島・大野・常松法律事務所顧問/元最高裁判所判事/元法務省矯正局長・保護局長/ATA-net 顧問)によるあいさつがありました。


イーサン・ネーデルマン(Ethan A. Nadelmann)氏

イーサン・ネーデルマン(Ethan A. Nadelmann)氏

そして、イーサン・ネーデルマン氏に再びご登場いただき、「本日の“えんたく”は大変刺激的だった。誰もが薬物を使用した人間に対し、攻撃することのない社会に変わることを願っています」という言葉で本シンポジウムは締めくくられました。

参加者のアンケートでは、以下のコメントが寄せられました。
・今まで薬物とは、小・中・高の授業ぐらいで触れることしかなかった。そのため、自分にとって薬物とは、ほど遠い存在だった。しかし、イーサンさんの講演以外にも、“えんたく”で実際に施設で暮らしている人と対話ができた。普段では絶対できない経験をすることができた。
・イーサンさんの講演で、「欧米では福祉が充実しているので、非犯罪化支援につなげようとした」発言しているのが印象的だった。今の日本で福祉に任せて大丈夫なんだろうかと思い、福祉家として見直す機会となった。
・ニコニコ動画で、一般市民に伝えていくのはすごいと思った。依存症という言葉で限定せず、障害と社会モデルとして捉える。薬物使用を自己責任ではなく、社会法理として捉えることが自然だと思う。医療者や専門家が語るだけでは伝えられないので、とても勇気があって有意義なプロジェクトだと思った。
・普段、言葉にならない生きづらさを言葉にしてくれたような会だった。
・大学という場所で、このようなテーマを扱っていただいて、新しい風を感じた。人権問題であることを、もっとたくさんの人に、色んな立場の人に知って欲しい。イーサンさんのpassionに触れられて感動した。
・薬物の非犯罪化のためには、支援のプログラムを充実していかなければならないと思う。現在、まだDARCのプログラム以外の支援の場、方法論が未熟だと思う。これから、多様な支援を作り、お互いを励まし合う場につなげることが重要だと思います。その機会を作ってくださり、ありがとうございます。

シンポジウム終了時には、ニコニコ動画の視聴者アンケートを実施。「薬物使用・所持の非犯罪化についてどう思いますか?」という問いに対し、賛成が43.9%、反対が56.1%という回答でした。また「今日の番組を見て考え方が変わりましたか?」という問い対しては、変わったが29.6%、変わらないが70.4%でした。
※いずれもシンポジウム終了直後の数値。最終数値ではありません。


「薬物使用・所持の非犯罪化についてどう思いますか?」

「薬物使用・所持の非犯罪化についてどう思いますか?」


「今日の番組を見て考え方が変わりましたか?」

「今日の番組を見て考え方が変わりましたか?」

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【補注】
*1 課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”
“えんたく”は、依存問題の解決に際してどのような問題や課題があるかを共有することを目的としている。アディクション(嗜癖・嗜虐)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、回復を支える様々な人が集まり、課題を共有し解決につなげるためのゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの「場」が欠かせない。ATA-net(代表・石塚伸一)では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を「えんたく」と名づけ、さまざまなアディクション問題解決に役立てることを目指している。
https://ata-net.jp/

*2 メディアスクラム
放送局・全国紙・スポーツ新聞・週刊誌などの全国に渡って情報を配信することが可能なメディアによる報道関係者が大人数で取材対象者・対象地域に押しかけて執拗に付きまとい、必要以上の報道合戦を繰り広げることの意味で用いられる。集団的過熱取材などとも表現される。

*3 ソーシャルインクルージョン
ソーシャル・インクルージョン(英:social inclusion)は、1980年代にヨーロッパで興った政策理念で、社会的に弱い立場にある人々を排除・孤立させるのではなく、共に支え合い生活していこうという考え。「社会的包摂・包容」等と訳される。