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2020.02.21

2019年度第4回 龍谷大学法情報研究会 公開研究会【犯罪学研究センター協力】

法情報・法教育に関する公開研究会を開催

2020年1月31日、犯罪学研究センター「2019年度第4回 龍谷大学法情報研究会 公開研究会」を、本学深草キャンパス紫光館4階401講義室にて開催、法情報・法教育に関わる実務家、研究者を中心に約20名が参加しました。
【>>EVENT概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4627.html

法情報研究会は、犯罪学研究センターの「法教育・法情報ユニット」メンバーが開催しているもので、法情報の研究(法令・判例・文献等の情報データベースの開発・評価)と、法学教育における法情報の活用と教育効果に関する研究を行なっています。



福島 至教授(本学法学部)

福島 至教授(本学法学部)

はじめに、福島 至教授(本学法学部)が「刑事裁判記録のリスト公開」について報告しました。福島教授は龍谷大学社会科学研究所 研究プロジェクト「未公開刑事記録の保存と公開についての綜合的研究~4大逆事件関連記録の発見を端緒として~」の3つの研究ユニットのうち「確定記録ユニット」に所属し研究を行っています。

通常、刑事裁判記録は判決確定後に検察庁において保管され、刑の内容・刑期に応じて一定期間を過ぎると廃棄されます。2019年12月27日までに法務省によって公開されたリスト(刑事参考記録一覧)に掲載されている1886年から2014年の764事件は、刑事法制や犯罪の調査・研究のために重要であると法相によって指定を受けることで廃棄されたなかった記録で、「刑事参考記録」といいます。
福島教授はこのリストに対し、「刑事確定訴訟記録法の制定に尽力した弁護士・竹澤哲夫氏*1は、以前、刑事参考記録の問題点として、保存の基準・期間・施設・公開理由などを定める法制度が具体化されなければならないことを指摘していた。今回リストを出したことによりその問題点がより明確になったのではないか」と主張。さらに死刑事件について、刑事確定訴訟法*2が施行される前は、訴訟記録は永久保存だったが、施行後は50年の保存(判決書は100年)になりました。リストには50年を経過した1970年以前に確定した死刑事件の複数が指定されておらず、廃棄された可能性が見られたことから、福島教授は「死刑は人の生命を奪う国の究極の処分。記録を残して歴史の検証を受ける必要がある。そして今後も私たちは引き続き調査・研究そして指摘をしていく必要がある」と述べ、報告を終えました。

つづいて、郭 薇講師(静岡大学情報学部)が「法情報概念の再構成~非法律家の言説は法情報なのか~」について発表しました。近年リーガル・テック*3の発展により、一般人が気軽に利用できる法的サービスの形態*4が増加しています。この受容効果を検討する視点にたつと、一般人の法理解に関する情報も重要になります。これまでの法情報学*5では、非法律家の法意見や法態度は法情報の範疇なのか、もし法情報として捉えるのであれば、どのような課題が考えられるかという点について実証的な検討があまりなされていませんでした。


郭 薇講師(静岡大学情報学部)

郭 薇講師(静岡大学情報学部)

今回郭氏は、以上の状況下では「法律学の知識を基盤とした伝統的な法情報概念以外に、メディア論や社会学等、法律以外の知見を活かして法の形成とその実現における情報の使用に目を向けることが求められている。法学学習で扱う法知識以外の『法に関わる情報』を法情報学の対象とする必要がある」と述べ、さらに「法制度・学説を理解せず法を利用・評価する『法生活の大衆化』は、誰でも気楽に発信できるインターネット空間が発達した情報化社会において避けられない。それを単なるポピュリズムや法のリスキーな通俗化として批判することは、問題の解決にならないどころか、法律家と一般人とのコミュニケーションをさらに阻害してしまう」と危惧しました。
また、郭氏は近時の立法過程で見られる法律家言説と世論の衝突を問題視しながら、「法情報の公共性」に関連する先行研究を整理し、非法律家との関係から法情報という概念を再構成。法情報を「法規制対象としての情報」「法使用手段としての情報」「法記録媒体としての情報」「法意識としての情報」の4つのタイプに分類し、「法をめぐる学際的な研究を促進させるための学術的プロジェクトとして、柔軟に応用することが必要だ」とこれからの法情報学の可能な課題を提示し、報告を終えました。


片岡 邦好教授(愛知大学文学部)

片岡 邦好教授(愛知大学文学部)

ついで、「予算委員会における改憲議論のマルチモーダル分析*6」をテーマに、片岡 邦好教授(愛知大学文学部)から発表がありました。 片岡教授は、社会言語学が専門であり、法と政治に関わる言語について研究しています。法が成立する前の過程に着目し、立法府において法律の成立する過程も、法情報学における法議論の一部と位置づけ、立法化以前の議論が、法的妥当性に基づくだけでなく、参与者間の相互行為の集積により推進される可能性を提起しました。

片岡氏は「安倍首相の改憲発言について、参議院予算委員会、小池晃議員の質問」の映像を例として提示し、言葉を分析するだけではなく、身振り手振りといった身体の表現から心の内部が見られるとし、安倍首相と小池議員のジェスチャーについて分析。結果から「ジェスチャーは相互理解の指標とすることが可能であり、身体を見ることで心の中を垣間見ることができると考えている。その1つの手段として身振りと言葉を同時に見ることで、より深く理解ができる。深い情報を得ることにより、憲法論議がどのように進み、結果的にどのように改正されていくか、過程を見る手段として可能性があるのではないか」とまとめ、さいごに「今後の課題としては、発言とジェスチャーの一致、乖離度はどのくらいあるか、誰に、どの程度共有されているのかなどの、多くの疑問に応えていく必要がある」と述べ、報告を終えました。

さいごに、小松原 織香氏(同志社大学嘱託講師)より「アジアにおけるグリーン犯罪」をテーマに発表がありました。グリーン犯罪学(Green Criminology)とは、動物と人間の関係に焦点を当てた「環境犯罪(environmental crime)」という研究領域のこと。従来の犯罪学においては、被害―加害関係は人間のみが想定されてきました。他方、環境破壊は人々の培ってきた非―人間(non-human、動植物や自然総体 whole of nature)との関係や、地域に対する愛着や伝統、土着的な信仰をも破壊します。そのため、従来の環境法や政策が環境犯罪の震源の健康被害と経済的利得に焦点を当ててきたのに対し、グリーン犯罪学は人々の生活経験に根差した、非―人間との関係から生じる「感情やスピリチュアリティの問題」を扱うことができます。


小松原 織香氏(同志社大学嘱託講師、龍谷大学 矯正・保護総合センター嘱託研究員、大阪府立大学人間社会学科客員研究員)

小松原 織香氏(同志社大学嘱託講師、龍谷大学 矯正・保護総合センター嘱託研究員、大阪府立大学人間社会学科客員研究員)

小松原氏は現在、環境犯罪である水俣病問題を研究テーマに掲げ、水俣地域のコミュニティ再生の可能性を研究しています。水俣病は人間に健康被害をもたらしただけではなく、海洋汚染や魚介類、鳥、猫などにも被害を及ぼしました。水俣病患者である杉本栄子氏は、人間が引き起こした水俣病により被害を受けた非―人間への哀悼の意を掲げています。小松原氏は「こうした具体的な水俣地域での非―人間の被害の分析を視野に入れながら、『人間と非―人間の対話』の理論構築を行いたい。また、出来る限りの最大化モデルを採用し、実践の多様化を試みたい。環境問題を可視化するための試みを広い意味で『対話』の視点から理論化することも検討している。そして、アジアを研究拠点とした、同様の関心を持つ人々と研究ネットワークを作りたい」と今後の展望を述べ、報告を終えました。

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【補注】
*1 竹澤 哲夫
1927年 - 2012年4月24日。松川事件弁護団、多摩川水害訴訟弁護団長。白鳥決定や刑事確定訴訟記録法の制定に尽力した。

*2 法情報学
情報科学など(認知科学・情報工学も含む)の情報諸学の視点から『法とは何か』(法の存在論と認識論)を明らかにしようとする学問分野のこと。

*3 刑事確定訴訟記録法
刑事訴訟法53条1項は「何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。」と定めており、この規定によって、誰もが確定した刑事事件の訴訟記録を閲覧する権利がある。しかし、刑事事件が終結した後、訴訟記録をどの役所が保管するのか、また閲覧手続きをどうするのかなど何も規定されていなかったことから、のちに「刑事確定訴訟記録法」が成立し、当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官を保管場所とした。

*4 リーガル・テック
法務にIT(情報技術)を導入し、裁判や契約に関する事務作業などの効率化を図ること。

*5 法的サービスの形態
2019年に台湾で設立した、離婚法律事務所がLINE上のボットチャットを用いて提供した無料の法律相談サービス(チャットボット)や、中国北京インターネット裁判所が開発した、訴訟の助言を提供するオンライン訴訟手続きシステムのヴァーチャル裁判官(ロボット・アドバイザー)がある。

*6 マルチモーダル分析(muiltimodal)
ことばやジェスチャー、視線や表情、環境要因なども含めた多様な伝達経路を統合的に分析するアプローチのこと。