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2020.04.03

【犯罪学Café Talk】黒川雅代子教授(本学短期大学部・犯罪学研究センター 副センター長)

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、黒川雅代子教授(本学短期大学部・犯罪学研究センター 副センター長)に尋ねました。
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Q1. 黒川先生の行っている研究について教えてください。
「現在主に研究しているテーマは『あいまいな喪失』を抱える人に対する支援です。一見、犯罪学研究センターの枠組みとは少し違うかもしれません。でも、時に介護殺人のニュースを見ることがあるかと思います。認知症の高齢者を介護する家族が、認知症の人を殺してしまうという痛ましい事件です。
認知症の高齢者を自宅で常時介護することは、とても大きなストレスです。少子化や生涯独身の人が増える中、親の介護が、少数のこどもにのしかかってくる現状があります。一生懸命介護し、限界に達した中で最後に殺人に至ってしまうということも考えられます。
認知症の人を介護する家族は、『あいまいな喪失』を経験することになります。認知症になることで、家族や友人のことがわからなくなったり、まるで別の人格になってしまったように感じたりすることもあります。その人はいるけれど、以前のその人ではない、こういった喪失を『あいまいな喪失』と言います。これはアメリカのPauline Boss博士が提唱する理論です。
通常、喪失後に起こる悲嘆のプロセスが、『あいまいな喪失』では、複雑化したり凍結したりすると言われています。また、罪悪感や恥等の感情が生まれたりします。孤立感を抱いたり、家族との亀裂が生まれたりすることもあります。
認知症という課題に対して、通常は、介護負担を減らそうとしたり、様々なサービスを導入したりしようとすると思いますが、たとえそのようなサービスを導入したとしても、以前のその人を失ってしまった家族の喪失感が消えるわけではないと思います。たとえば、自分の母親や父親が認知症になり、以前と人格が変わってしまったとします。母親や父親は幼少期から自分のアイデンティティを構築していくプロセスに大きな影響を与えた人です。しかし、認知症になることで、母親や父親が自分の子どものようになってしまうこともあります。認知症だから、歳を取ってしまったからと、頭では分かっていても、心情的にはなかなか理解できず、受け入れられないという現実があります」



「常に前を歩いて自分を導いてくれていた親が、まるで自分の子どものようになってしまうことに対して、受け入れがたい感情がある場合、それは『あいまいな喪失』によって起こっていることだと説明し、『あいまいな喪失』について理解を促します。たとえば、あまりにも介護が大変なため、『もう早く介護が終わってほしい』『早く自由になりたい』と思ってしまった場合、介護の終わりは親の死を意味するため、『なんてひどい人間なのだろう』と自己嫌悪に陥ってしまうかもしれません。でも、それは『あいまいな喪失』によって起こっていることで、介護者がひどいのではないのです。そのような感情をいだいてしまうのは、当然のことなのです。そのことを説明することで、介護者の罪悪感は軽減されるのではないでしょうか。介護者の介護負担を減らすためのサービスを提供するだけでは、不十分なのではないかと考えています」

「介護殺人の根底には、孤立や貧困など複雑な問題があると思いますが、介護者がかかえる『あいまいな喪失』にも着目する必要があると思っています」


Q2. 黒川先生が代表をつとめる「ミトラ」(遺族会)では、どのような活動をしていますか?
「『ミトラ』は、大切な人を亡くした人が集い、お互いに支え合う場です」


Q3. 「ミトラ」の代表として意識していることを教えてください。
「遺族会で大切にしないといけないことは、安全な場所の提供です。遺族会は、遺族が集まって、これから先の人生や今起こっている辛さを、他の参加者と語り合うことで共有します。その共有空間は、安全でなければならないのです。たとえば、『ミトラ』に来て話をしたことが不特定多数の人に伝わってしまったら、安全とは言い難いですよね。
人は、受容され、共感されることで、安心したり、生きる力を得たりすることにつながります。参加したからといって、急に何かがかわるわけではありませんが、『ミトラ』が大切な人を亡くした人の安心できる居場所になればと思っています。
参加者を癒す、元気になってもらう、そういうことは押し付けだと考えています。元気になるかならないかはその人が決めることです。また、大切な人を亡くした人を癒すことなど簡単にできることではありません。そういう価値観の押し売りはしたくないと思っています」

Q4.黒川先生は研究者になる以前、看護師をされていたと伺っています。どのような経緯で研究者の道に進まれたのか教えてください。
「最初から研究者を目指していたのではなく、遺族の支援について探求していく中で、研究者の道につながっていきました。
医療は患者さんが亡くなったら、そこでつながりが切れてしまします。看護師の時は、家族や遺族の想いになかなか寄り添うことが出来ませんでした。今はその時出来なかった宿題をずっとやり続けている感じです」


Q5.黒川先生にとって研究とは何ですか。
「大切な人との死別は、過去と現在と未来が分断されるような出来事です。私にとって『遺族支援』や『あいまいな喪失』を研究することは、人々が喪失によって分断された状況から、もう一度未来を作っていくためにはどのような支援が必要なのかについて考えていくことです。それが自分の研究をしていく意義だと思っています」



Q6.先生から新入生に対してメッセージはありますか
「大学は自由なところです。特に龍谷大学は自由な学風だと思いますので、自由な発想で、形にとらわれることなく、のびのびと過ごす中で、いろんなことを経験してほしいと思います。大学生の時にどれだけ多くの経験を積むかで、その先の人生が変わってくると思います。
私は、大学時代に阪神淡路大震災を経験しました。大学生という立場を利用していろんなボランティアをしました。その時の経験が今に繋がっていると思っています。大学生の時期に、どんな経験をするかで、『一生の宝物』ができるかどうかが変わってくると思いますので、ぜひ大切に過ごしてもらいたいと思います」


黒川 雅代子(くろかわ かよこ)
本学短期大学部 社会福祉学科教授、犯罪学研究センター 副センター長・「司法福祉」ユニットメンバー
<プロフィール>
社会福祉学を研究。研究テーマは遺族支援のための実践モデル開発。『救急医療における遺族支援のあり方』などの論文を執筆したほか、遺族会「ミトラ」*の発起人としても活動中。
*遺族会「ミトラ」 http://www.human.ryukoku.ac.jp/~kurokawa/