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2020.05.18

【新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム】新型コロナの抗体調査に関する緊急提言

〜犯罪学の視点から5つの提案〜

犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)による抗体検査に関する緊急提言を掲載します。

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新型コロナの抗体調査に関する緊急提言
〜犯罪学の視点から5つの提案〜


【緊急提言】
東京・大阪・宮城で1万人の抗体調査を実施すると報じられています。
調査の計画と実施について、最低限守るべきルールがあります。
犯罪学の視点から、5つの提案をさせていただきます。

1. 調査の技術の精度は、統一的に信頼性を確保する。
これは、現在専門家がチェックされていると思います。

2. サンプルのランダム性を可及的に確保する。
大阪の抗体検査について、大阪府知事が発表しているような健康意識の高い人を集めて、結果を本人に教える方法には問題があります。感染しないようにしている健康に関心の高い人を集めたり、結果が仕事に影響のあるような職種の人が排除される危険性が高いので、このようなサンプル抽出は避けるべきです。

3. 抗体検査の際には、構造化された聞き取り調査を同時に行う。
聞き取りによって、無症状・微熱・高熱、待機・通院・療養・入院等のデータを入手できます。また、家族・職場・通勤・ナイトライフ等の感染経路に関するデータを収集することができます。状況をできるだけ正確に認識し、合理的な対策を立案するには、不可欠の資料です。

4. サンプルは住民基本台帳から無作為抽出し、トレーニングを受けた調査員によって実施する。
検査実施率が100%になるような調査は、科学的に信用できません。国勢調査を参考にしつつ継続的な調査体制を確立すべきです。時系列的調査が、リスク評価には不可欠だからです。

5. 調査を自治体に丸投げしない。
国が責任をもって調査システムを構築すべきです。自治体の確保できる人材には限りがあるからです。その際、調査の経験のある犯罪学者をメンバーに加える。犯罪学には、被害者調査や自己報告による「暗数」に関する研究の蓄積があります。
社会科学には、医学領域の科学化を推進する「コクラン共同計画」をモデルとして、「キャンベル共同計画」が行われています。社会を対象とするデータの収集は、実験室研究を中心とする医学の病理研究(註)とは異なった配慮が必要です。

 
わたしたち龍谷大学犯罪学研究センターでは、このような社会科学的研究の実践を提案してきました。
日本の犯罪学者の中にも、信頼できる実証研究者がいます。
是非、この提言を参考にしてください。

2020年5月18日
龍谷大学犯罪学研究センター長
日本犯罪社会学会会長
石塚伸一

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(註)
東大先端研の調査は、3/500=0.6%は、暗数調査として、根本的な問題があります。医療関係機関の採血から医療検査会社に送られてきた血液の抗体検査です。いわば「実験室の検査」です。
たしかに、「都内の医療機関に一般的に受診した方のランダムな罹患率を精密に定量数値で知ることにより都内の罹患率を推定するとともに、医療機関の感染拡大のリスクを知る」という目的は達成できています。しかし、私たちが知りたいのは、どの程度の「市中感染」が進んでいるのか、ではないのでしょうか。いわば「暗数調査」なのです。
自分の健康を気遣って医療機関を訪問し、診療を受け、医師が血液検査を指示した人たちなので、①自分の健康に関心のある人、②採血が必要だった人、という2つのスクリーニング(篩い分け)が入っています。
サンプルの500で検査率が100%というのも、社会学的統計調査では信頼性を欠いています。みんなが進んで受けている調査には、何らかのバイアスがかかっていると考えるのが合理的です。
例えば、刑務所の受刑者対象の調査は、回答率100%です。一般人を対照グループとする場合には、利用目的はきわめて限られてしまいます。
今回の抗体検査は、市中感染のリスクを調べる暗数調査ですから、東大先端研の調査では、暗数調査の目的を十分に達成できていないと考えられます。
>>東京大学 先端科学技術研究センター 「東京都の抗体陽性率検査結果について」


【参照】:
「キャンベル計画 日本語版」https://crimrc.ryukoku.ac.jp/campbell/
キャンベル共同計画(The Campbell Collaboration)は,社会,行動,教育の分野における,介入の効果に関し,人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。なお、本体のサイトについては以下を参照のこと。
https://www.campbellcollaboration.org/

【関連記事】:
>>【新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム】新型コロナと「暗数」理論〜隠れた感染者はどうやって見つける?〜


石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)


石塚 伸一(いしづか しんいち)
本学法学部教授・犯罪学研究センター長・「治療法学」「法教育・法情報」ユニット長、ATA-net研究センター長
<プロフィール>
犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク”えんたく”(課題共有型円卓会議)の普及をめざすATA-net(アディクション・トランスアドヴォカシー・ネットワーク)のプロジェクト・リーダーを務める。


【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/