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2020.09.02

体験型 薬物乱用防止対策推進事業(模擬裁判)を開催【犯罪学研究センター共催】

薬物乱用防止を身近な問題として考える

2020年8月6日、龍谷大学犯罪学研究センターは深草キャンパス紫光館4階法廷教室にて、「京都府 体験型薬物乱用防止学習(模擬裁判)」を共催しました。
今回の模擬裁判は、違法薬物を使用したことで検挙され、裁判になったというシナリオから、違法薬物を使用することのリスク、さらに模擬裁判の中で取り締まり現場や薬物依存治療の現場の状況等を聞くことにより、薬物乱用の実態について理解し、高校生たちが自らの判断で違法薬物を使用しないと決意できることを目的としています。

今回のイベントは、午前の部・午後の部に分かれて行われました。午前は、イベント概要を説明した後、北川将弘氏(京都弁護士会・弁護士)・石井一旭氏(京都弁護士会・弁護士)・大久保健司氏(京都地方検察庁・検事)をアドバイザーに迎え、高校生たちがそれぞれ模擬裁判での役割ごとの打ち合わせを行いました。午後は、模擬裁判を実施しました。


石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)


「模擬裁判入門」レクチャー風景

「模擬裁判入門」レクチャー風景

午前の部では、まずはじめに石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)が模擬裁判の概要、そして裁判の流れについて説明しました。石塚教授は、「裁判は証拠に基づき、事実認定された上で判断されなければならない。1つ1つの事件がどういう事件であろうと、きちんと証拠を集めて、きちんと主張を展開することによって良い判決が出る」と、裁判においての重要な点を伝えました。さらに「人が人を裁くことができるのは、皆が一生懸命にやっているからだ。だから今回の模擬裁判も、それぞれの役に一生懸命取り組んでほしい。そして自分の役が何をすべきなのかを考えてみてほしい」と、参加する高校生たちにアドバイスし、説明を終えました。
その後、高校生たちは検察官、弁護士、裁判官と、それぞれの模擬裁判の役割ごとに班に分かれ、アドバイザーとともに打ち合わせが始まりました。


検察側アドバイザーとの打ち合わせ風景

検察側アドバイザーとの打ち合わせ風景


弁護側アドバイザーとの打ち合わせ風景

弁護側アドバイザーとの打ち合わせ風景

午後の部では、法廷教室を舞台に模擬裁判を実施。今回の模擬裁判のシナリオは、次のような事例を扱ったものです。【大学生である被告人Aがバイト先の店長Bから薬物を譲り受けた。AとBがクラブに赴いたところ一斉摘発に遭い,AがBから譲り受けた薬物が大麻であったため、警察は大麻取締法違反の疑いでAを逮捕した。しかしAは「自分がBからもらったのは大麻ではない」とあくまでも否認している】。刑法38条では「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と規定されていることから「被告人が、本当に大麻を合法な物と認識していたのか?」を争点に模擬裁判を行いました。模擬裁判を円滑に進めるため高校生には、あらかじめ公判手続きに関する台本が渡されました。どのような順序で裁判が進められるのかをまずは体験してもらおうと言う狙いです。しかし、証拠調べ(証人尋問・被告人質問)の段階は、台本にはヒントとなる質問例が書いてあるだけです。論告・求刑、最終弁論そして判決も簡単な様式が書かれているだけで理由づけ等は白紙です。高校生は補助についている現役の検察官・弁護士、運営スタッフに質問しながら自分たちで考えないといけません。
「起立・礼」廷吏役を務める石塚教授の号令で模擬裁判が始まると会場全体の雰囲気が一変し、緊張した空気が流れました。開廷宣言をした裁判官役の高校生の表情も少しこわばっていました。促されて検察官役の高校生が起訴状を朗読、実際の裁判さながら手続きは進行していきます。


裁判官役による開廷宣言

裁判官役による開廷宣言


検察官役による起訴状の朗読

検察官役による起訴状の朗読

証人尋問では、現役の警察官と医師が証人として証言台に立ちました。警察官役の藤田祐樹氏(京都府警刑事部・警部)は実際に麻薬を専門とした捜査官で、被告人を逮捕してから法廷に立つまでのやりとりを経験されてきた実話を元に捜査や取調べの状況を証言しました。医師役の川畑 俊貴氏(医療法人稲門会 いわくら病院・医師)は、多くの薬物依存症患者を治療してきた実績を持っており、何度もこの様な裁判の証人として実際にたたれている方です。川畑氏は、「よく大麻はタバコよりも害が少ない薬物だと言われているが、実はそうではない」と述べ、「脳への影響は、タバコはあまりないが、大麻は短期的に見れば記憶障害や学習障害などもある。長期的には、統合失調症やうつ病になる率を高める」と、大麻について「なぜ使ってはいけないのか?」また「使えばどのような状態になるのか?」などを詳しく証言しました。



検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論では、模擬裁判でのやりとりを通して、それぞれの役割を演じた高校生たちが自分たちで話し合って意見を述べました。検察官側からは本気で有罪を勝ち取ろうという意思、弁護人側からは被告人を絶対に無罪にしようとする意思が感じ取れました。そして判決言い渡しでは、証人尋問の内容を元に、裁判官役の高校生自身が考えた判決を述べました。判決は「無罪」、理由は「今までの検察官側証人である店長からの証言は一貫性が無く、信用性に欠けるため」という内容で、今まで質問してきたことをしっかりと判決に落とし込んでおり、鋭いものに感じました。


判決言い渡しのようす

判決言い渡しのようす


閉廷後それぞれの配役の高校生に感想を求めると、裁判官側は「自分の考えで無罪、有罪が決まる。裁判内での1つ1つの発言を聞きこぼし無く整理する必要があったのでとても緊張した」と人を裁く難しさについて述べました。弁護人側は「被告人を守るためにどのような弁論をすべきなのか非常に難しかった」と述べました。検察官側は「被告人を有罪にする時に、どう裁判官に証明するべきなのかを難しく感じた」と述べました。また、これら以外に共通して述べられた感想は「今まで裁判という物はテレビの中でしか見たことが無かったが、実際に体験してみると今までのイメージとは違い、非常に怖いという感情が湧いてきた」というもので、人を裁くことの恐ろしさを感じ取ったようです。

さいごに石塚教授が「実際に裁判官として法廷に立ってみて、どう感じただろうか?想像以上に緊張したのではないか。実際に裁判員裁判に呼ばれた人も同じように緊張している。目の前にいる人を有罪にする・しないと言うことを決めることは怖いことだ。今回はそうした裁判の状況下で色々なことを考える、非常に良い学びになったのではないだろうか」と総括しました。

また、野村一眞氏(京都府警少年課 少年サポートセンター)は、「今回の模擬裁判を通じてそれぞれの立場に立って薬物問題について考えることができたと思う。近年は大麻に対する若者の危機意識が低下しており、よく分からないうちに薬物に関わってしまうことが多い。薬物がなぜダメなのか、しっかりと理解していただけるように啓発していきたい」と述べ、盛況のうちに終了しました。