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2021.01.16

「2020年度第3回 龍谷大学 法情報研究会」開催レポート【犯罪学研究センター】

刑事確定訴訟記録について、有斐閣オンライン・データベースの今後

2020年12月21日、「2020年度第3回 龍谷大学 法情報研究会」がオンライン上で開催され、約30名が参加しました。
【>>イベント概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-6707.html

法情報研究会は、犯罪学研究センターの「法教育・法情報ユニット」メンバーが開催しているもので、法情報の研究(法令・判例・文献等の情報データベースの開発・評価)と、法学教育における法情報の活用と教育効果に関する研究を行なっています。

はじめに、福島 至教授(本学法学部)から「刑事確定訴訟記録」についての報告がありました。福島教授は、龍谷大学 社会科学研究所の研究プロジェクト「未公開刑事記録の保存と公開についての綜合的研究~4大逆事件関連記録の発見を端緒として~」の3つの研究ユニットのうち「確定記録ユニット」に所属し研究を行っています。今回は、江川紹子氏(ジャーナリスト)が主宰する「ほんとうの裁判公開研究会」の活動の中から、刑事確定記録訴訟法について触れた「長岡市議会事件」「日弁連意見書」について報告しました。

長岡市議会事件とは、2019年に新潟県長岡市が発注した下水道工事をめぐる官製談合*1事件のことであり、市の元幹部職員2人、県議の秘書1人、建設業者の元社員1人に有罪判決が言い渡されました。その後、2人の無所属議員が事件の確定記録を閲覧し、2020年の3月と6月に行われた市議会にて事件の背景や原因について質問。しかし、2020年8月に市議会議長から、「本件指摘発言は、本件保管記録により知り得た事項をみだりに用いた上でのものであり、これを通じて元職員の証言等が上記のような評価を受けることで、元職員の改善及び更生を妨げるだけでなく、その名誉や生活の平穏をも害する人権侵害行為であり、刑事確定訴訟記録法第6条の規定に違反すると考えられる」との指摘を受け、9月議会での質問が制限されました。これについて福島教授は2人の無所属議員から相談を受け、「一般質問不許可通知に対する意見書」を作成。福島教授は「議員らの質問は、閲覧により知り得た事項を正当な理由に基づいて利用しているため、『みだりに用いた』に該当しない。また、訴訟記録を用いた議会の議員活動は、行政の説明責任を高め、民主主義社会の維持・発展へと導く。議員が閲覧によって得られた情報をもとに、政府に対してその事件の質問をすることは、議会制民主主義の立場から望ましいことではないか」とまとめました。


福島教授の報告スライドより

福島教授の報告スライドより


福島 至教授(本学法学部)

福島 至教授(本学法学部)

つづいて日弁連意見書について説明。日弁連意見書とは、「刑事確定訴訟記録の保管、保存及び閲覧等に関する法改正及び運用改善に関する意見書」のことであり、日本弁護士連合会が、刑事確定訴訟記録の保管、保存及び閲覧等について、政府に対し、法改正及び法解釈運用がなされることを求めたものです。福島教授は、この意見書に書かれた内容の1つである「閲覧制限事由を規定した記録法第4条第2項第4号および同第5号について、閲覧請求者に同第6号の義務の履行を強く促すことにより閲覧権の制限を限定する運用をすべきこと」を問題点として挙げ、「検察官は個人の平穏を損なうからという理由で閲覧制限を公判にかけてくる。私たちの主張は、閲覧を制限する形でプライバシーを保護するのではなく、閲覧請求があれば閲覧させ、閲覧請求者がこれを公表するときにはプライバシーの配慮を行うべきだ」と述べ、これは長岡市議会事件でも触れた刑事確定記録訴訟法第6条の閲覧者の義務の強化にもあたると主張しました。
その他意見書には、保管記録の除外に関する項目の削除や、永久保存すべき記録の選別、国立公文書館に移管するシステムの構築・設計等の意見や請求が書かれています。
【>>参考Link】日本弁護士連合会


以上の報告を受け、石塚 伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)は長岡市議会事件について「議会における質問権は保証されている。質問の中で、個人の名前を公表したり名誉を毀損したりすることがあったのならば、被害を受けたという公務員が名誉棄損に基づく損害賠償請求をすればいい。議会が質問者に圧力をかけるのはおかしい」と意見を述べました。また、福島教授は総括として「訴訟記録を閲覧し、それを用いて政治活動や研究活動を行うことは奨励されることであり、制限されるべきではない。これはジャーナリストが閲覧した記録を報道で使用する場合も同様である。今後も刑事確定記録訴訟法に関わる動きがあるだろう。長岡市議会事件はまだ一般にあまり知られていないが、本が出版されたり研究会の活動が報道される予定であったりと、事件がメディアで取り上げられる予定だ。今後長岡市でシンポジウムを開催し、このような事件があったことを周知し、刑事確定訴訟記録に関する正しい知識を広めていきたい」と刑事確定訴訟記録を活用する重要性と展望を述べ、報告を終えました。

つぎに、信国幸彦氏(有斐閣デジタル出版部・部長)から「有斐閣オンライン・データベースの今後」についての報告がありました。有斐閣オンライン・データベースとは「有斐閣Vpass」と「ジュリスト電子版」や「法学教室電子版」などの有斐閣コンテンツから構成される、有斐閣が提供するオンラインコンテンツの総称です。
【>>参考Link】有斐閣オンライン・データベース【YODBの利用ガイド】

信国氏は、はじめに有斐閣オンライン・データベースの沿革を説明。2004年に「重要判例検索サービス(Vpass: Valuable Precedents Access Service System)」として出発し、提供コンテンツの変更やIE(Internet Exprolar)以外のブラウザに対応した画像表示などの改修を経て、2020年10月27日にリニューアルされました。

改善された点として、
①検索方法の変更や、コンテンツタブの表示などの画面表示の現代化
②どのブラウザからでも閲覧・検索・印刷が可能なマルチブラウザ対応
③画面が小さい場合でも閲覧しやすいモバイル表示モードに切り替わるスマホ対応
④コンテンツの表示方法を統一し、設定項目等を利用者が理解しやすいように変更した操作のシンプル化
⑤六法全書電子復刻版に一部サービスのみで検索可能だったコンテンツを追加、最新年版の六法全書まで閲覧できる六法全書電子プレミアム版サービスといった六法全書の機能強化
以上、5つの項目を述べ、実際にサイトを閲覧しながら説明しました。


信国氏の報告のようす

信国氏の報告のようす


信国幸彦氏(有斐閣デジタル出版部・部長)

信国幸彦氏(有斐閣デジタル出版部・部長)

また信国氏は、リニューアル後の有斐閣オンライン・データベースに対してSNSで寄せられた利用者の声を紹介。「いつの間にか現代化した」「だいぶ人間向けになってた」「やればできるじゃないか」といった、ようやくまともになっただけという評価が多かったが、なかには「UIが格段に改善されてて、感動した」「法学を学んでる学生に幸せ届いています」といった感動や感謝の声もあったことを報告しました。

今後の展望として信国氏は「雑誌コンテンツの全文テキスト格納、曖昧検索を可能にするシソーラスといった検索機能の整備や、ジュリスト・民商法雑誌の収録範囲遡及といった雑誌収録範囲の拡張をしていきたいと考えている。また、コンメンタール・教科書・試験問題といった書籍を含む配信サービスを持続的に行うための設計を、既存のサブスクリプション(読み放題)サービスとの競合を回避しながら進めたい。やりたいこと/やらなければならないことは沢山あるが、まずは何からやるかの優先順位を検討しなければならない」と今後の課題と展望を述べ、報告を終えました。

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【補注】
*1 官製談合:
国や地方自治体などによる事業の発注の際に行われる競争入札において、発注機関側の公務員が入札談合(入札参加者の間で、あらかじめ受注予定者や受注価格等を取り決めるなどすること)に関与して、不公平な形で落札業者が決まる仕組みを指す。関与の具体例としては、受注予定者をあらかじめ指名したり、予定価格を漏えいしたりするなどさまざまな行為がある。このような事例の再発を防止することを目的として、「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(官製談合防止法)が2003年に施行された。