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2022.02.22

映画『プリズン・サークル』上映+対談イベントを開催【犯罪学研究センター共催】

罪を犯した人のための回復プログラムの2年間

2022年2月6日14:00より龍谷大学犯罪学研究センターは、映画『プリズン・サークル』上映+対談イベントを龍谷大学深草キャンパス・成就館にて共催しました。イベントには、約70名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-9767.html
※主催・共催等の情報は、上記ページに記載。


開会の挨拶と映画上映
はじめに主催者である、無期受刑者支援プロジェクト「山帰来」の榎本愛美氏より開会の挨拶が行われました。榎本氏は開催協力団体に謝辞を述べるとともに「山帰来」の活動について紹介しました。無期刑は死刑にも匹敵するほどの刑罰であることから無期受刑者を支援していること、無期受刑者の仮釈放が非常に困難になっているという現状を知ってもらいたいこと、小さなグループではあるものの文通や面会によって無期受刑者を支え、他団体と連携して処遇の改善を求めていることが紹介されました。その後、映画『プリズン・サークル』を上映しました。
映画『プリズン・サークル』(2019年/136分)は、日本の官民協働の刑事施設「島根あさひ社会復帰促進センター」で実施されているTC(Therapeutic Community=回復共同体)プログラムの参加者に2年間密着した坂上香監督によるドキュメンタリー映画です。TCプログラムは更生に特化したプログラムで、依存などの問題を症状と捉え、問題を抱える当事者を治療の主体だと考えます。コミュニティ(共同体)が相互に影響を与え合い、新たな価値観や生き方を身に付けることによって、人間的な成長を促す場とアプローチを提供します。こうした理論背景からTCプログラムでは参加者同士の対話をベースに、犯罪の原因を探り、更生を促します(映画『プリズン・サークル』ホームページより)。本作はこのTCプログラムに参加していた20代の4人の収容者にフォーカスを当てています。彼らが語る、子ども時代の記憶、罪を犯した経緯、現在や未来への思いについて、TCプログラム内での参加者同士の対話と、坂上監督による一人ひとりへのインタビューで構成されています。


坂上監督×石塚教授の対談
上映後、坂上香監督と石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)のオンライン対談が行われました。対談では、坂上監督のテレビ業界での経験談を皮切りに、映画監督としての苦労が語られました。本作の製作に話が及ぶと、6年にもわたる施設との交渉、撮影許可が下りた後の施設内での撮影中や撮影後のエピソードなどが次々と飛び出しました。また、本作に登場した収容者の言語能力の高さについて坂上監督は、最初から高かったのではなく、辞書を引いたり、覚えた言葉を使ってみたりなど、大変な努力をしていた、と述べました。さらに、TCに参加している人たちは積極的な人が多く、話そうという意思が強いことに驚き、刑事施設の外の人のほうが自分を語れる人が少ないと感じたということが語られました。


質疑応答
参加者からの質問に坂上監督が答える時間が設けられました。まずTCプログラムの途中離脱者について質問がありました。坂上監督は、「抜ける方はいますが、離脱者が多いという印象はありません。プログラムに合う、合わないというのはあるし、一生懸命やればやる程きつくなる。このようなプログラムは決して簡単なわけではありません。だから、TCのような更生プログラムは甘いとか、弱いとか、甘やかしているという人がいるならそれは間違いで、むしろ今の刑務作業中心の刑務所の方が多くの収容者にとっては楽だと思います」と述べました。つぎに対談で話題に上った収容者の「話す力」に関連して、「聞く力」についての質問がありました。坂上監督は「確かに聞く力は高いと思います。彼らの聞く能力は、参加者同士の話を四六時中聞かされることで育まれていったと思います。週の3日間、3時間ずつ、話を聞く場を持つことになるので、その時間は聞かざるを得ない状況になります。最初のころはキョトンとしていたり、置物のように座っていたりする人も少なくありません。語学の勉強と同じで、一所懸命やっていると、ある瞬間に分かるようになったり夢に出てきたりする時期がある。一生懸命聞こうとすれば聞けるようになるのではないかと思います」と回答しました。さらに本作でフォーカスを当てる収容者を選んだ基準について質問がありました。坂上監督は「本当は15人にフォーカスを当てていましたが、撮影条件が悪かったため、最終的に映画として成立するストーリーが展開できたのはこの4人しかいなかったというだけです。撮影時は年齢のバランスもとっていたのですが、最終的に20代の彼らにフォーカスを当てることになりました。後から気づきましたが、2年という限られた期間でストーリーが展開できたのは、20代の彼らが、若くて可塑性があるから短いスパンで変わっていったのかなと思います」と述べました。また、対象となった4人の子ども時代にフォーカスを当てている理由について質問がありました。坂上監督は「TCプログラムが参考にしているAmity(米国の社会復帰を支援する回復共同体のNPO団体)も子ども時代にフォーカスしたプログラムを実施していることや、私の関心が子ども時代にあることが一因だと思います。それから海外の研究を調査していくと、刑務所にいる収容者のほとんどが虐待を受けていて、一般社会と比べてもその割合が高いというエビデンスがあります。だから、そこに着目して浮き彫りにしたというのはあると思います」と回答し、質疑応答は終了しました。

坂上監督のメッセージ
対談の締めくくりとして坂上監督からは、本作やこれまでの映画製作にかかわる支援者(スタッフや出資者など)への感謝の言葉とともに「法社会学者のデイビッド・ガーランドが『司法や刑罰というものはその社会の価値観を表している』と言っています。日本の今の刑罰観や司法のあり方は、今の時代にそぐわないところがたくさんあると思うので、そこに私たちの価値観が反映されていると考えると、見直す時期に来ているのではないでしょうか。映画『プリズン・サークル』は日本全体の矯正施設数の約50分の1、そして、さらに、その施設のごく一部を撮影したものに過ぎませんが、こういう価値観が広がっていくよう、私たちも考え方をアップデートしていく必要があるのではないかと思っています。是非この映画を色々な形で上映いただき、またそれを糧に皆さんがお話する機会、語り合う場が出来ることで、この社会が少しずつ変わっていくことを願っています」というメッセージがありました。


閉会の挨拶と参加者の声
石塚教授は「映画を見て皆さんが感じたことが一番大切なことだと思うので、感じたことを周りの方に手渡してもらえればと思います。彼らの本当の回復はこれからで、頑張ってほしいと感じました。もう1度、犯罪の道に戻った方が楽だと思う場面もあるし、真っ当に生きなさいというのは本人達にとっては、とても辛いことだと思います。TCプログラムを通じて島根あさひ社会復帰促進センターがその入口を作ったということで、素晴らしいプログラムだと思いました。また、プログラムで回復したのは収容者だけではなく、プログラムのコーディネーター、外で見守っていた職員も回復していると思います。そしてこの映画の価値は法務省も回復させました。刑務所の中にカメラが入ることで壁を破り、そうした1つ1つの戦いが実は法務省や日本の司法を変えることに繋がっていると思います」と述べて、イベントは終了しました。
参加者からは「2020年の公開以降、関西圏内の自主上映会に度々観に行かせてもらっています。初めて観た時も心を揺さぶられましたが、毎回見る度に様々な発見や気づきを頂いています。対談もとても興味深く聞かせてもらいました。ありがとうございました」「上映までこぎつけていただいて本当にありがとうございます。衝撃的でしたが、受刑者に親近感が湧きました。今後の作成、活動を楽しみにしています」「犯罪を犯す人の立場に立った、試みはもっと必要だと思いました」「様々な戦いをされた熱意が伝わってきました」など多くの感動の声がよせられ、有意義なイベントを開催することができました。