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2022.08.08

公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第5回レポート【犯罪学研究センター共催】

国際社会の助けは来なかった〜ミャンマーの若者たちが武器を取った理由〜

2022年7月15日、龍谷大学犯罪学研究センターは、「公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第5回 国際社会の助けは来なかった〜ミャンマーの若者たちが武器を取った理由〜」を共催しました。本研究会には、約60名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10769.html
講師を本シリーズの企画者である舟越美夏氏(ジャーナリスト、本学犯罪学研究センター・嘱託研究員)が務めました。


舟越美夏氏(ジャーナリスト、本学犯罪学研究センター・嘱託研究員)

舟越美夏氏(ジャーナリスト、本学犯罪学研究センター・嘱託研究員)


石塚伸一教授(本学法学部)

石塚伸一教授(本学法学部)

はじめに、石塚伸一教授(本学法学部)が「本シリーズ・シーズン1は今回で最終回を迎え     ます。これまで、国際刑事裁判所についてや、ウクライナ・アフガニスタンでの出来事を発信してきました。その中でウクライナやアフガニスタンだけではなく、アジアでは日常的に武力行使による人権侵害が行われているのに注目されていないことに疑問を感じるようになりました。シーズン1最終回は、シリーズをとおして抱いた疑問などについても含め、企画者である舟越氏に締め括っていただきます。」と、開会のあいさつを述べました。

つづいて、舟越氏より、「国際社会の助けは来なかった〜ミャンマーの若者たちが武器を取った理由〜」というテーマのもと、これまでのシリーズを振り返りながら講演いただきました。(以下は、報告要旨)

冒頭に「このシリーズは、そもそも昨年6月に開催されたアジア犯罪学会のサイドイベントの際にモハメドさんを日本にお招きしようとしたことの延長線上にあります。シリーズの1回目から3回目はウクライナを中心に取り上げ、4回目・5回目はウクライナ問題に世界の注目が集まってしまったために、見過ごされている重要な戦争犯罪に焦点をあてます。今回は日本とも歴史的関係が深いミャンマーについてお話をします。」とこれまでの経緯を踏まえながら趣旨を説明しました。

 そして、「ミャンマーでは、2021年2月1日に国軍によるクーデターが起き、市民による抵抗運動は今も続いていることや国連は、ミャンマー国軍の行動を戦争犯罪にあたると指摘しているが実行力はまだなく、国軍によるクーデターに20代の若者たちが中核となって戦っています。彼らは、当初非暴力にて対抗しようとしていたが、武器をとって戦うことを決めました。それはなぜなのか。」と疑問を呈し本題に入りました。

「ミャンマーでは、2011年の民政移管以前、長期の軍事政権が続いており、人々は民主化運動指導者アウンサンスーチー氏の名前を口に出すことすらできない状況でした。ところが、2015年の総選挙でアウンサンスーチーさんが率いる党NLD(国民民主連盟)が大勝利し、翌年NLD政権がスタートしました。経済はなかなか発展しませんでしたが、人々の表情は明るくなり、若者の間では瞬く間にソーシャルメディアが広がりました。」と述べました。そして、選挙に行くと投票した証に指にインクをペイントし、それを記念に写真に収める人々のエピソードを紹介しました。
「そのような中、人々は再び軍事政権に戻ることなどないと信じていました。ところが、2021年2月国軍によるクーデターが起こり、再び軍事政権に戻ってしまったのです。人々は絶望しました。しかし、強大な武器を前に沈黙していた以前とは違い、戦うことを決めたのです。わずか5年の民主主義の時代がもたらした変化でした。」と続けました。
国軍には迷信深い人たちが多く、クーデター後に、市民が午後8時に鍋を叩いて大きな音を出すなどしていたというエピソードは印象的でした。(ミャンマーでは正月、「悪霊を退散させる」という意味で、鍋を叩いて大きな音を出すという習慣があるそうです)

そして、「3日後、市民不服従運動(CDM)を起こし、クーデターに反対する主張を行います。これは、職場を放棄することによって結果的に経済にダメージを与えるという運動です。この運動が人々に勇気を与えました。」と当時のミャンマーの写真と共に、市民のクーデター当初の運動の様子を紹介しました。
 「当初、市民は非暴力運動でクーデターに抗議していました。しかしやがて国軍による武力行使が始まり、抗議デモに参加していた多数の若者が射殺され様になります。バゴーという街では、国軍がドローンを飛ばした後、戦場で使う武器を使ってデモをしていた若者ら80人以上を殺害しました。それまで、若者たちは、民主主義を求める運動を国軍が武力弾圧する状況に、国際的な助けが来るはずだと信じていいました。しかし虐殺が続くことで、若者たちは、外部からの助けは来ない、民主主義のために自分達で戦うしかない、と武器を手に取ることを決めます。」というお話と共に、ヤンゴンの鉄道員だった若者が武器を取ったエピソードを紹介しました。


舟越美夏氏の報告の様子

舟越美夏氏の報告の様子


 「市民が武器を取る理由はさまざまであるが、大切なものを守りたいとの思いは共通しています。 ミャンマーの人々の中には、この戦いは誰も助けてはくれない受け入れざるを得ない運命なのだという人もいます。次世代を担う世代に、その様なことを感じさせていることに責任を感じます。また、日本の人たちにもこの戦いを知ってほしい、この戦いが長期に続くことは、日本や各国皆にとってもよくないことなのだ。そんなことを伝えてほしいという市民の思いもあります。」とご報告いただきました。日本軍はこの国を支配していた時代に残虐な行為をしたにもかかわらず、日本軍が敗走する時には密かに協力した人もいました。もともとミャンマー国軍の基礎は旧日本軍がつくったといわれているものの、ミャンマーの人々は日本を嫌ってはおらず、友好的であるというエピソードは印象的でした。



報告の後、石塚教授より「(ミャンマーの軍事が日本の影響を受けていることなど)さまざまなことが繋がっていて、日本のアジアへの侵略戦争は現在も傷跡を残しています。シリーズを通して学んできたことを思い返すと、まだまだ考えなければならないことがあり、このシリーズはまだ終われない。『戦争と犯罪』シーズン2も予定しています。」とし、舟越氏のまとめへと繋げました。

舟越氏は今回の公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」を振り返り「悲劇は独裁政権で起こるものだが、国際社会の影響も少なからず大きい。シーズン2では、日本は何ができるかということにも触れながら、戦争と犯罪について考えていきたい。そしてモハメドゥ氏の招聘を実現したい。」と締めくくりました。

当日の記録映像をYouTubeにて公開しています。ぜひレポートとあわせてご覧ください。
https://youtu.be/Mv10ylS_eG4

またこれまでの実施内容は、以下のまとめ記事を参照ください。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10563.html