Need Help?

News

ニュース

2022.09.06

滋賀県の伝統的な発酵食品・鮒寿司製造における乳酸菌の優占種を見出す 龍谷大学農学部 田邊公一教授らが自然発酵食品において優占種が決定される一つのモデルを提唱

【本件のポイント】

  • 発酵過程のサンプルから乳酸菌を分離して解析した結果、発酵初期に複数の乳酸菌種が検出された後、2カ月目以降にLentilactobacillus buchneri①)が優占種になることを発見
  • 微生物がもつ環境ストレス応答機構が、自然発酵食品において優占種となるための重要な因子である可能性を示唆
  • 本研究成果は、食品科学系オープンアクセスジャーナル『Food Science and Nutrition』誌に掲載(Webでは既に公開)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/fsn3.3002


【本件の概要】
 龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター②)長の田邊 公一教授と同副センター長の島 純教授は、滋賀県内で購入した鮒寿司③)から分離される乳酸菌を分離同定し、また鮒寿司製造過程で分離される乳酸菌種を経時的に調べ、優占種が決定するメカニズムに迫る研究結果を発表しました。本研究は、遺伝学的解析・微生物解析・環境ストレス応答機構などの観点から行われたものです。
 遺伝学的解析では、16Sリボソーム遺伝子の解析から、市販の鮒寿司から分離される主要な乳酸菌がLentilactobacillus buchneri(以下、L. buchneri)であることが明らかになりました。また、CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeat) 領域の遺伝子解析の結果、分離されたL. buchneri株は単一の遺伝子型ではなく、遺伝的に異なる複数のグループに分類できることが示されました。これによって、特定のL. buchneri株ではなく、L. buchneriが共通して持つ性質が、鮒寿司製造環境で優位性を発揮する原因の一つであると考えられます。
 微生物解析では、鮒寿司の発酵途中のサンプルを経時的に採取し、分離培養をもとにした微生物解析を行った結果、発酵初期に複数の乳酸菌種が検出された後、2カ月目以降にL. buchneriが優占種となることを見出しました。
 環境ストレス応答機構については、L. buchneri株の乳酸、酢酸、NaClに対する耐性を調べた結果、他の乳酸菌と比較して高い乳酸耐性を有することがわかりました。
 以上の結果より、鮒寿司の発酵過程においてL. buchneriは、乳酸耐性によって発酵終盤に増殖し、優占種になると推測されます。本研究の結果は、自然発酵食品において優占種が決定される一つのモデルを提唱するものです。

1.発表論文
英文タイトル:Lentilactobacillus buchneri domination during the fermentation of Japanese traditional fermented fish (funazushi)
タイトル和訳:日本の伝統的発酵食品(鮒寿司)の発酵過程におけるL. buchneriの優位性
著者名:田邊 公一1・2・島 純 2・3
所 属:1農学部食品栄養学科、2発酵醸造微生物リソース研究センター、 3農学部植物生命科学科
掲載誌:Food Science and Nutrition(Wiley社)
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/fsn3.3002
※    2022年7月27日Web公開済

2.用語解説
①  Lentilactobacillus buchneri(レンチラクトバチルスブフネリ)
グラム陽性乳酸桿菌。国内では、赤カブを使用した長野県木曽地方の伝統的な発酵食品「すんき」から分離された報告があります。ヘテロ乳酸発酵によって、酢酸と有機化合物の1,2-propanediolを産生します。食品以外ではサイレージ(乳酸発酵させた家畜用飼料)の改良に用いられています。

②  龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター
滋賀県の発酵醸造産業を支援することを目指して2021年度に開設。発酵醸造に有用な微生物の収集とデータベースの構築、およびそれらを活用した応用研究の展開を目的として研究活動を行っています。
微生物収集にあたっては、主に滋賀県の食品や自然環境から、麹菌、酵母、乳酸菌を網羅的に探索・収集し、保存しています。これらの微生物について、菌種同定と発酵特性の解析を実施し、得られたデータをもとにデータベースの構築を進めています。

③  鮒寿司
魚を塩とデンプン(代表的には米飯)で乳酸発酵させた日本古来の寿司である「なれずし」の一種。魚を長期保存する方法の一つとして伝わり、製造方法は琵琶湖でとれるニゴロブナを塩漬けにした後、米飯をかさねて重石をし、6ヶ月以上かけて自然発酵させます。この間、乳酸菌が産生する乳酸によってpHが低下して雑菌の増殖を抑えつつ、タンパク質が分解されることによってうま味が増幅します。また近年では、栄養補助食品として、鮒寿司由来の乳酸菌が錠剤で販売されています。

問い合わせ先:龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター
Tel 075-645-2154 E-Mail hakko-rc@ad.ryukoku.ac.jp
HP https://hakko.ryukoku.ac.jp/