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2022.11.14

第 35 回CrimRC公開研究会を開催【犯罪学研究センター】

第22回ヨーロッパ犯罪学会訪欧記:「日本の犯罪学者、かく語りき」

龍谷大学犯罪学研究センターは、2022年10月18日(火)に、第 35回CrimRC公開研究会『第22回ヨーロッパ犯罪学会における日本からの情報発信〜我らかく語りき〜」をハイブリッド形式で開催。約40名が参加しました(対面:5人・オンライン:35人)。
第22回ヨーロッパ犯罪学会(EUROCRIM 2022)は、2022年9月21日から24日まで、スペイン・マラガで開催されました。当センターからも、若手を中心に研究メンバーが複数参加し、研究の成果や日本の現状について報告しました。今回の研究会は『海外発信』をテーマに、EUROCRIM 2022に参加した6人を招き、各人の報告内容を紹介したのち、国際学会への参加意義などについて意見交換をしました。

【報告者】
● 石塚 伸一 氏(本学・法学部・教授、CrimRC「治療的司法」ユニット長)
● 津島 昌弘 氏(本学・社会学部・教授、犯罪学研究センター長)
● 大江 將貴 氏(京都大学大学院教育学研究科・研究員、CrimRC「ISRD」ユニットメンバー )
● 竹中 祐二 氏(北陸学院大学・人間総合学部社会学科・准教授、CrimRC「ISRD」ユニットメンバー)
● ディビッド・ブルースター 氏(金沢美術工芸大学・講師、CrimRC「治療的司法」ユニットメンバー)  
● 森久 智江 氏(立命館大学・法学部・教授、CrimRC「ISRD」ユニットメンバー)


はじめに、石塚 伸一教授(本学・法学部)は、第22回ヨーロッパ犯罪学会のホームページを参加者に共有しながら、開催地であるスペイン・マラガや学会の様子を参加者に紹介しました。

石塚教授は、EUROCRIM 2022では、テーマセッション「Research for Better Policy and Law-Making: Evaluating Needs, Diagnoses and Designs(より良い政策と立法に向けた研究:ニーズ・究明・設計の評価)」に参加し、「Penal Reforms in Japan: Prison Sentences with Forced Labor and Rehabilitative treatment as Punishment.(日本における刑罰改革:懲役刑と刑罰としての改善更生)」について報告。今年6月に日本で、懲役刑と禁錮刑を一元化した「拘禁刑」を創設する改正刑法が成立したことを紹介しながら、「懲役刑が維持されたこと」や「改善更生指導が義務付けられたこと」について批判的に検討した報告を行いました。石塚教授は新しい制度の問題点について指摘し、今回の法改正は「明らかな重罰化」であると評しました。さらに、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)による勧告を十分に配慮しない当制度は世界の流れに反していると言う説明も加えました。


石塚 伸一教授(本学・法学部、治療的司法ユニット長)による報告の様子

石塚 伸一教授(本学・法学部、治療的司法ユニット長)による報告の様子



津島 昌弘
教授(本学・社会学部、犯罪学研究センター長)は、石塚教授の説明を補足する形で、ヨーロッパ犯罪学会の歴史について説明しながら、世界でも有数の規模を誇るヨーロッパ学会の重要性を強調しました。津島教授は、「Procedural Justice and Police legitiimacy(手続き的公正と警察の正統性)」 というセッションに参加し、「Trust in the Police Force, Police Legitimacy, and Compliance with the Law: A Study of Japanese Teenagers(警察・警察の正統性に対する信頼、そして法令の遵守:日本の青少年の研究)」を発表しました。これは、中学生を対象とした国際比較調査(ISRD)のデータを用いたものであり、「警察の正統性」と「市民からの信頼」や「法令遵守」との関係性を説明する理論仮説の検証、そして少年非行の発生への影響力について検討を行ったものです。津島教授は『警察への信頼と警察の正統性、両者の繋がりは確認できた。しかし、日本の青少年の多くは警察と触れ合うことが少ない。そのため体験ではなく少年たちの想像に基づく回答が多かったのではないか。よって、警察活動が、少年たちの法令遵守に寄与しているとまでは言い難い』と述べました。


津島 昌弘教授(本学・社会学部、犯罪学研究センター長)による報告の様子

津島 昌弘教授(本学・社会学部、犯罪学研究センター長)による報告の様子



大江 將貴
氏(京都大学大学院教育学研究科・研究員)は、「Offending and Rehabilitation in Japan(日本における犯罪と更生保護)」というセッションで、「Schools and Delinquency Deterrence in Japan: Results from the International Self-Report Delinquency Study(日本における学校と非行抑止力:ISRD〔国際自己申告非行調査〕の結果)」を発表しました。大江氏は、ISRDの調査データを用いて、社会的ボンド理論のキーワードである4つのボンド(愛着〔attachment〕、投資〔commitment〕、巻き込み〔involvment〕、規範観念〔belief〕)が、日本の教育現場でどのように作用・顕現しているのかを分析しました。主な結果として、学校に対する愛着、学校における活動が、男子はそうでもないが、女子については、非行への抑止につながっていることが統計上有意だと認められることを報告しました。
 


大江 將貴 氏(京都大学大学院教育学研究科・研究員)による報告の様子

大江 將貴 氏(京都大学大学院教育学研究科・研究員)による報告の様子


大江氏は自身の経験を踏まえながら、『若手研究者は、対面による海外学会への積極的参加をできるだけ早い段階に行うべきだ。不安がある場合には、日本の研究者が発表するセッションや、日本を研究の対象にしている人が集まるセッションを選ぶと良い。発表や質疑応答の時に、フロアから助けを得やすい。』と述べました。


竹中 祐二准教授(北陸学院大学・人間総合学部社会学科)は、大江氏と同じテーマセッションで、「Perspectives towards volunteers in offender rehabilitation in Japan(日本における更生保護ボランティアの展望)」を発表しました。保護司制度を中核とする日本の更生保護ボランティア、およびその長所と問題点について、日本社会の在り方に照らして検討し、更生保護におけるボランタリーな仕組みは、「共助」の意識によって中心的に維持されていることを統計による分析を用いて示しました。


竹中 祐二 准教授(北陸学院大学・人間総合学部社会学科)による報告の様子

竹中 祐二 准教授(北陸学院大学・人間総合学部社会学科)による報告の様子

竹中准教授は国際学会で報告する意義について『比較犯罪学の観点から、日本社会を検討するための科学的知見を提供することにある』と主張。そして、日本の犯罪学の国際的インパクトの限界にも触れ、『海外の研究者たちの研究発表に対する姿勢や、取得しているテクニックに違いを感じる。大学院における博士学位取得前後における研究者の育成をはじめとして、日本における犯罪学の影響力を上げるための手がかりを得るために、海外の学会に出ることは重要だ。しかし、渡航にかかる経済的負担も無視することはできない。そこをいかに乗り越え、どうサポートできるのかが日本の犯罪学の国際化における課題だ』と指摘しました。


ディビッド・ブルースター 氏(金沢美術工芸大学・講師) は、日本犯罪社会学会において日本語で研究成果を発表した経験を踏まえながら、国際学会において外国語で報告をすることの困難について言及し、海外報告に積極的に取り組む本日の研究会の報告者らを労いました。
ブルースター氏は、テーマセッション「Criminalization and decriminalization: drug policies in historical and comparative perspective(犯罪化と非犯罪化:歴史的そして比較的視点における薬物政策)」において、「Illegal drug policy in Japan: Perspectives of practitioners(日本における違法薬物政策:実務家の見解)」について発表しました。これは4年間にかけて日本で進めてきた研究の成果となるものです。ブルースター氏は、『違法薬物政策に携わる実務家は、政策の目的として「薬物の無い自律的な生活を促進する」ことに見解の一致が認められるにも関わらず、その目的が「なぜ重要なのか」また「望ましい在り方が何であるか」について意見が分かれている。私は実務家を3つのタイプに分類し、それぞれの関係性や日本の採るべき方向性、実務家間の協働の可能性について検討した』と発表内容を紹介しました。


ディビッド・ブルースター 氏(金沢美術工芸大学・講師)による報告の様子

ディビッド・ブルースター 氏(金沢美術工芸大学・講師)による報告の様子

最後に、ブルースター氏は、ヨーロッパ犯罪学会について『良い点としては、大会開催地であるマラガの美しさ、そしてヨーロッパ犯罪学会へ参加することで、ネットワークが広がることが魅力だ。しかし近年のヨーロッパ犯罪学会の大会は、拡大傾向にある。今回のマラガで行われた学会は、発表者だけでも1500人以上いた。これでは学会に参加している人同士が十分なコミュニケーションを取るのは困難であり、また、スケジュールが過密になってしまうことで、質疑応答に十分な時間が取れなくなることなど、不満に感じることが少なくかった』と指摘しました。


森久 智江教授(立命館大学・法学部)は、テーマセッション「International and comparative prison research(刑務所に関する国際・比較研究)」に参加し、「A consideration of new scheme of social welfare support for suspects with special needs in Japanese criminal justice system(日本の刑事司法制度における特別なニーズを有する被疑者への福祉的支援に関する新たな枠組みの検討)」を発表しました。森久教授は『海外学会において発表する際に、報告の核心的な話をする前に必ず触れる必要のあることがある。例えば日本刑事司法制度の全体の仕組みや検察官の権限の大きさなどを説明しなければ、問題関心を理解してもらえない』と指摘します。森久教授は、刑事司法と福祉の連携が進んでいる近年の傾向に触れながら、特別調整制度(出口支援)と定着支援センター(入口支援)の機能について紹介。これらの取り組みについて、福祉の専門家ではない検察官が大きな権限を持ち、再犯防止を第一目標とした制度として運用されていることの問題点について批判的に検討をおこないました。


森久 智江 教授(立命館大学・法学部)による報告の様子

森久 智江 教授(立命館大学・法学部)による報告の様子

学会へ参加しての感想として森久教授は、『発表者が多いため、複数のテーマセッションが同時に行われてしまい、興味のあるセッションすべてに参加することが不可能だったのが残念だった。しかし、それだけ多くの発表があるからこそ、多種多様なテーマが取り上げられ、各国における犯罪学の差異を知るきっかけにつながった。』と述べました。


さいごに質疑応答と意見交換が行われました。本レポートでは、主に大会運営と大会のプログラムを巡るやり取りを紹介します。

Q1:大会の構成自体についてですが、プレアレンジドセッション(Pre-arranged Sessions)とそれ以外のプログラムとはどんな関係ですか?
A(森久):プレアレンジドセッションは、基本的にチェア(司会者)を含む何人かの報告者を決めた上で申込をします。日本でいうテーマセッションに近いかと思います。自由報告に関しては、日本と同様に、自分自身の研究テーマと報告の概要を申し込み、学会側でテーマが近いものを組み合わせて、パネルを組みます。それ以外にもキーノートスピーカー(基調講演者)の部会もあり、それはできるだけ全体で多くの参加者が聞くと言う前提で行われています。キーノートスピーカーの部会の場合は、同時に他の発表が行われず、日本でいうシンポジウムのような感じで、全体で聞くということを想定した形のプログラムになっています。
A(石塚):一般的に、キーノートスピーカーは、大会全体の中心になるテーマが示されて、プレナリー(全体会)でそれに対する答えとなる発表が行われますが、今大会はその関係性が強かったと言えないかもしれません。

Q2:自由報告のグルーピングはテーマに沿って組まれるのですか?
A(石塚):今回は、必ずしも納得のいくようなグルーピングがなされたとは言い難いですね。
A(森久):私が参加したセッションは、最初は、すべての報告の関係性が薄いかと思いましたが、発表を聞いた結果としてグルーピングの一貫性を感じましたので、グルーピングがよかった方だと思います。


研究会後のアンケートにて、参加者から次のような感想が寄せられました。
● 海外での学会の様子を知ることが出来、有益でした。
● (森久教授の)「まずは制度の説明が必須」との言葉が一番心に残りました。議論の手前の「地固め」は、常に重要ですよね。議論が有効なものになるためにも。
● 日本の犯罪学の研究の状況(研究者数が少ないなど)、科研費が獲得できず資金難で国際学会に研究者が参加するのが難しい等の実情がわかり有益でした。