Need Help?

News

ニュース

2022.11.25

日本=タイ二国間学術交流(2022年共同研究及びセミナー)シンポジウムを開催 【ATA-net研究センター】

麻酔薬物をめぐる政策、法律および法執行に関する比較研究:タイと日本の国際比較

2022年11月5日、龍谷大学ATA-net研究センターは、日本学術振興会 二国間交流事業共同研究・セミナー「麻酔薬物をめぐる政策、法律および法執行に関する比較研究:タイと日本の国際比較」(2022年共同研究及びセミナー)に関するシンポジウムを開催しました。

はじめに、宮武智弘教授(本学先端理工学部・研究部長)が開会のあいさつに立ち、薬物政策に関して、日本とタイで議論を行うことの重要性や、今後の学術交流への期待を述べました。


会場:深草キャンパス・至心館2階(大会議室)

会場:深草キャンパス・至心館2階(大会議室)


宮武智弘教授による開会あいさつの様子

宮武智弘教授による開会あいさつの様子

次に、石塚伸一ATA-net研究センター長(本学法学部教授)から、本シンポジウムの趣旨説明が行われました。「日本は、薬物規制の国際的潮流、とりわけ自己使用や少量所持の非犯罪化・非刑罰化に抗い、場当たり的な薬物規制政策を維持してきた。他方、タイにおける今回の政策転換は、国際情勢を的確に分析し、国連の要請に忠実に応えるべく、周到に準備されたものである。本シンポジウムは、2022年5月のタイへの調査訪問のアンサーとして開催するものである。タイと日本の対応の変化、そして具体化し始めた世界の薬物政策の流れを展望したい。」と述べました。   続いて、石塚センター長より、今回のタイチーム訪日中の行程説明や、シンポジウム参加者による自己紹介が行われました。


石塚伸一センター長によるシンポジウム趣旨説明の様子

石塚伸一センター長によるシンポジウム趣旨説明の様子


Thepthien Bang-on氏による報告の様子

Thepthien Bang-on氏による報告の様子

シンポジウムでは、まず、Thepthien Bang-on氏(マヒドン大学ASEAN健康開発研究所・准教授)が、「禁止から合法化への歴史の概観、政策枠組み」と題して、報告を行いました。
はじめに、タイにおける大麻の歴史、政策と規制の変遷、現在の大麻政策の状況、薬物法典の概要と運用状況について報告を行いました。

「2022年6月9日大麻の非犯罪化(Decriminalization)によって、大麻草を麻酔薬物分類表(第Ⅴ類)から排除し、さらに、THC含有量0.2%(重量比)未満については、医療用または食用に使用することができ、所定の申請を行った栽培用植物の家庭栽培および企業については許可によって、大麻草の栽培が可能となった。大麻の非犯罪化の主たる目的は、健康上および医療上の理由と経済的利益であって、娯楽用の使用ではない。新たに施行した薬物法典では、薬物問題を管理するための薬物予防・抑制および問題解決のための政策的枠組みと計画を策定した。具体的には、医療と商業の利益を目指すものである。薬物依存症者を公衆衛生と健康問題の観点から理解し、ほとんどの薬物事犯に対して、刑罰の縮減を行うほか、短期自由刑の回避を行う。犯罪としての問題だけではなく、薬物依存からの離脱支援も提供する。」とし、非犯罪化に伴う政策の変化を述べました。
そして、薬物依存の治療および社会復帰支援のためにタイ国内に新設された、地域社会復帰センター(Social rehabilitation center)について説明しました。
「『地域社会復帰(Social rehabilitation)』とは、薬物依存を抱える人や薬物治療を終了した人の住宅、教育、雇用などの生活改善を目指し、社会復帰ができるまで支援を行うことを指す。公衆衛生省や法務省、麻薬統制局(Office of the Narcotics Control Board)*1が当該センターの運営を支援するものである。」と述べました。


次に、2022年4月30日から5月7日まで日本チーム研究者ら5名がタイへ渡航し、調査した内容について報告がありました。
まず、吉田緑氏(本学ATA-net研究センター嘱託研究員)は、「タイ国内では、自販機でHOT CANNABISを選ぶことができたり、お茶や歯磨き粉、アイスクリームなど、大麻を使用した製品が販売されていたりと大麻が生活に溶け込んでいた」と述べ、大麻を取り巻くタイの状況を紹介しました。
続いて、丸山泰弘氏(立正大学法学部教授)は、「刑事司法手続における任意による治療」をテーマに報告を行いました。報告では、大麻の非犯罪化は、刑事施設収容者を減少させる等の一定の効果はあったと評価しつつ、薬物政策全体で治療を望めば刑事罰からダイーバートするという政策では刑罰を科すことを土台としているものであることから、ドラッグ・コートと同様の問題を抱えており欧米諸国で実施されているようなハーム・リダクション政策とは同視できない」と述べました。
次に、舟越美夏氏(本学犯罪学研究センター・嘱託研究員)は、「タイの薬物政策から何を学べるか」をテーマに、本年5月に行われたタイでの視察から示唆を得て、今後検討すべき課題等について述べました。

続いて、吉田緑氏が、大麻に対する見方が日本とタイで異なることとその要因としてメディアの報道が考えられることやバンゴン氏の報告を受けて、一部メディアやSNS等でタイが大麻に対して「寛容」と記述されていることへの違和感
等を述べました。
また、タイチームのメンバーである大渕拓真氏(メトロポリタン大学・学生)よりイギリスの薬物政策についての報告がありました。


吉田緑氏の報告の様子

吉田緑氏の報告の様子

最後に、Pairod Korawee氏(麻薬取締局 専門調査員)、Jaisan Lampuan氏(ノエン・カム病院 専門看護師)、Saelim Sunanta氏(麻薬取締局 専門調査員)、Nay Zar Win氏(シニア・プログラム・マネージャー)らタイチームのメンバーが今回の来日について発表しました。
動画を交えた報告では、10月31日から11月5日までの滞在記を紹介し、さまざまな施設見学をしたり、研究について議論できたことに謝辞を述べました。

シンポジウムでの報告の内容を受けて日本チームメンバーの加藤武士氏(木津川ダルク・代表)より、タイ国プミポン国王が提唱した「足を知る(経済)」や、アメリカで学位を取得したタイの王女が参加するカムランチャイプロジェクトについて質問がありました。
加藤氏の質問に対し、Chucharoen Prapapun氏(マヒドン大学准教授)より、「カムランチャイプログラムは、女性の社会内処遇を目的としており、妊娠中の女性、自傷行為を行う女性をサポートするため、料理や裁縫、洗濯など生活の基本的な教育を支援するものである。」と説明がありました。
これに対し、石塚教授より、日本の刑務所や、仮釈放中の女性に対する職業訓練の紹介もありました。


Chucharoen Prapapun氏による質疑応答の様子

Chucharoen Prapapun氏による質疑応答の様子

Prapapun氏は「薬物の流通に関わるマフィアをコントロールしながら生活に困難を抱える女性への支援を強化する必要がある。ギャングによる資金や就労の提供により、女性が薬物に汚染される中で、アディクション専門の治療は誰もができることではありません。薬物事犯の大半は自己使用であり、その人たちをどうやって治療に繋げるのかが重要だ。」と新たな課題を提唱し、今後の共同研究の継続に繋げました。

シンポジウムの総括として、石塚センター長は、これまでの交流から得た知見を踏まえてさらに学術交流を深めることを確認し、2023年には再び日本チームがタイを訪問し、調査・研究を進めていく計画に言及し、本シンポジウムを終えました。
なお、本調査研究報告は、龍谷大学 矯正・保護総合センター「研究年報」に寄稿する予定です。


日本学術振興会・二国間交流事業共同研究メンバーとシンポジウム参加者による記念撮影

日本学術振興会・二国間交流事業共同研究メンバーとシンポジウム参加者による記念撮影

【補注】
*1 詳細は、石塚伸一監修「〔調査報告〕薬物依存症回復支援者研修(DARS)セミナー・イン・タイ」龍谷法学50巻3号(2018年)767頁以下参照。