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2022.11.29

模擬裁判に挑戦する高校生と一緒に学ぶ法教育:Part3「裁判とは何か・死刑制度をめぐって高校生と対話する」【犯罪学研究センター後援】

誤用されがちな「復讐するは我にあり」という言葉の本当の意味

2022年11月26日(土)、「第3回オンライン高校生模擬裁判選手権大会」*1に向けた事前講義がオンライン上で開催されました。本イベントは、札埜和男准教授(本学・文学部、「法教育・法情報」メンバー)によって企画されたものです。
【>>EVENT概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-11571.html  

今回は、日本を代表する刑事弁護人である後藤貞人*2弁護士(大阪弁護士会)による講義後、死刑制度に関して高校生らと後藤氏のディベートが行われました。当日は、大会に参加する高校生と一般参加者をあわせて53名の参加がありました。


刑事裁判は何をするところか -弁護人の役割-


講義の様子1

講義の様子1

刑事裁判は何をするところか?その答えは千差万別です。後藤氏は「いろいろな言いぶんがあるが、“真実をあきらかにする”、“被害者の恨みをはらす”、“被告人が真人間になる機会を与える”といったイメージは、一見正しいようにみえて、実は誤解にもとづいている。被告人が黙秘したから真実が明らかにならないという報道、必ずしも被害者の望んだ罰がくだされないという実情、そして被告人の大半は、判決時の裁判官が説諭したことを覚えていないという現状がある。被告人にとって大事なのは、自分はどうなるのかということであり、そこに改悛の情などが入り込む余地はない。ほとんどの人は罪をおかしたことを後悔する。しかし反省や更生は、裁判の場で行われるのではない」と指摘しました。

つづいて後藤氏は、担当した事件やえん罪事件を例に出しながら「刑事裁判は、検察官・弁護人によって、過去に起こった事実を証拠に基づいて再現するところだ。犯罪かどうか、誰が実行したのか、なぜ起きたのか、どのような態様なのかなど、事実を立証する責任は検察官が負っている。提出された証拠で“合理的な疑いを超えた証明”がなされたかどうかがポイントだ。しかしながら、しばしば“明確で客観的な証拠”が用いられないことがある。証拠が改ざんされたり、隠されたりといったケースだ。そのため、弁護人はケースセオリー(case theory, theory of the case)を意識しながら検察官と対峙しなければならない。つまり被告人にとって有利な点、不利な点をすべて洗い出し、それらを統合した上で矛盾なく論証する必要がある」と、検察官と弁護人が果たす役割を説明しました。
さらに“アメリカの証拠法の父”と称されるウィグモア(John Henry Wigmore、1863 - 1943)の『反対尋問は真実発見の最大の発明である』という言葉を紹介しながら、裁判における尋問テクニックや最終弁論のポイントを高校生たちに伝授しました。

後藤氏は、改めて弁護人の役割について「“なぜあんな奴の弁護をするのか”とよく質問される。どのような悪人であれ、むしろ、味方が誰もいない極悪人にこそ弁護人が必要だ。なぜならば、人間の尊厳が守られる社会とは“自分の言いぶんを伝えたい”という声を封殺するような社会であってはならないからだ」と述べました。


死刑制度は必要か?


講義の様子2

講義の様子2

後藤氏は、死刑制度について「個々の事件について死刑を科すべきか否かという議論ではなく、死刑制度が不正義を内包する制度であるがゆえに死刑制度を廃止すべきだ。日本では刑事手続きにおいて慎重に判断されるため、死刑を科し、死刑を執行することには何の問題もないという人がいる。果たして本当なのか?」と疑問を呈し、自身が体験した裁判や著名な事件を例にとり、「手続きに携わる実務家の判断が常に公正だとは限らない。人間であるがゆえに、誰しもが社会的バイアスや偏見から逃れることはできないだろう。そして、裁判によっては、提出される証拠の量や質が非常に乏しかったり、鑑定の内容に疑義があったりする。私たちは、死刑と無期懲役を分ける基準が何なのか、そして死刑を執行される人と執行されぬまま拘置所で亡くなる人がいるのはなぜなのか、を明確に説明することは出来るだろうか?」と指摘しました。

後半、後藤氏の報告をもとにしたディベートが行われました。高校生たちは複数のグループにわかれ、死刑存置の立場から考えた意見を述べました。最も多かった意見としては、死刑の代替刑として終身刑を導入した場合のコストをめぐる問題であり、他にも死刑の基準の明確性や、手続きの保障について意見が出され、後藤氏とのディスカッションは大いに盛り上がりました。

さいごに、後藤氏はキリスト教の新約聖書にある「ローマ人のへの手紙」に記載されている一節を紹介しました。「死刑にすべきか、すべきでないかという判断は、人の能力を超えた判断が必要となる。どこまでいっても、人間の不完全性から制度としての死刑制度には不正義・不公正が生じる。聖書には“復讐するは我にあり”とあるが、この我とは神様を指す。つまり神様が人間に対して言ったことで、決して私たち人間が他人を罰することを正当化した言葉ではない」と述べ、講義は終了しました。


講師:後藤 貞人 弁護士

講師:後藤 貞人 弁護士

次回は、12月8日(木)16:00-18:00は、元検察官である若佐一朗弁護士(大阪弁護士会)を講師に迎え、「検察官の視点&ハラスメント」と題して、検察官の考え方やハラスメント問題についての講義を予定しています。興味・関心のある方はどなたでも視聴可能です。ぜひHPよりよりお申し込みください。
https://crimrc.ryukoku.ac.jp/

【補注】
*1 (関連情報)
>>第3回オンライン高校生模擬裁判選手権<出場校を募集!>【犯罪学研究センター後援】
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-11402.html 
同大会は、2023年1月29日(日)にZoomにて開催を予定。大会のねらいとして次の2点を掲げている。(1)法的思考力や刑事(裁判員)裁判の意義の理解にとどまらず、広く人間や社会までを視野に入れた「国語的」模擬裁判を通じて、人間や社会を考える眼差しを深める。(2)「国語的・文学模擬裁判」という新しい教育手法を通じて新学習指導要領の理念でもある主体的・対話的で深い学びを実現する機会とする。

*2 後藤貞人(ごとう・さだと) 氏プロフィール
日本を代表する刑事専門弁護士。これまでに勝ち取った無罪判決は20件以上。日弁連裁判員制度実施本部副本部長など多数の役職を務め、刑事弁護関連を中心に著作も多数。2010年4月、21年ぶりに最高裁が事実誤認ありとして1審の無期懲役と2審の死刑判決を破棄し、大阪地裁に審理を差し戻した大阪市母子殺害放火事件被告の主任弁護人を務める。「後藤でダメならあきらめろ」と言われるほどで、無罪を主張する被疑者や被告にとって駆け込み寺のような存在とされる。裁判員裁判が始まる前から、法廷で書面を見ずに弁論を展開する"離れ業"が注目され、法廷プレゼンテーションにおいても日本で第一級の弁護士である。「世界中を敵に回して、たった一人になっても『極悪人』のために戦うのが弁護士の務め」と言い切る。死刑廃止論者としても名高い。