Need Help?

News

ニュース

2022.12.09

ISRDユニットが国際交流研究会を開催【犯罪学研究センター主催】

大規模調査から見えてくる犯罪や非行の実態

犯罪学研究センターのISRD*1ユニットは、アメリカ・ミズーリ大学のMarijana Kotlaja*2准教授(犯罪学)をお招きし、2022年12月3日(土)、12月4日(日)の2日間にわたって、国際交流研究会を開催しました。今回は、国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)の調査結果を用いた国際比較および犯罪学理論の検証をテーマに、Kotolaja氏とISRDユニットのメンバーが報告をおこないました。


記念撮影(12月3日)

記念撮影(12月3日)


記念撮影(12月4日)

記念撮影(12月4日)


【1日目】ISRDのデータを用いた理論検証
コトラヤ准教授は、「Collectivism vs. Individualism: How does culture influence behavior? Results from the ISRD-2 Study. (集団主義と個人主義:文化は行動にどのように影響するのか?ISRD2調査の結果)」と題し、個人主義と集団主義の文化的背景から、家族の絆と少年の関係を探るというテーマで報告しました。*3昨今、犯罪学の分野において、家族への愛着の欠如が非行のリスクを高めると示唆する多数の研究データが報告されています。コトラヤ准教授は、Gerard Hendrik Hofstede (1928– 2020)が行った調査データとISRD2(2006−2008)の調査データを用いて、個人主義的傾向が強い国と集団主義的傾向が強い国における家族と非行の関係を統計的に分析しました。


Marijana Kotlaja准教授(アメリカ・ミズーリ大学カンサスシティ校)

Marijana Kotlaja准教授(アメリカ・ミズーリ大学カンサスシティ校)


ISRDユニットのメンバーからは、齋藤尭仁氏(京都大学・大学院教育学研究科・博士課程)と大江將貴氏(京都大学・大学院教育学研究科・研究員)が報告をしました。
大江氏は「Schools and Delinquency Deterrence in Japan: Results from the International Self-Report Delinquency Study(日本における学校と非行抑止:ISRD調査の結果)」と題して、社会的ボンド理論のキーワードである4つのボンド(愛着〔attachment〕、投資〔commitment〕、巻き込み〔involvment〕、規範観念〔belief〕)が、日本の教育現場でどのように作用・顕現しているのかを分析しました。


大江將貴氏(京都大学・大学院教育学研究科・研究員、ISRDユニットメンバー)

大江將貴氏(京都大学・大学院教育学研究科・研究員、ISRDユニットメンバー)


齋藤氏は「Testing Self-Control Theory Using ISRD3 Japan Data: Focusing on Parental Effect and Gender Differences.(ISRD3の日本のデータを使用したセルフコントロール理論の検証:両親の影響と性差に着目して)」と題して、非行は個人の自己統制力の低さに起因すると考えるセルフコントロール理論の概要を紹介したのち、ISRD3のデータを用いた理論検証と、家庭環境や性差という要因がどれほど影響しているのかを検討しました*4。


齋藤尭仁氏(京都大学・大学院教育学研究科・博士課程、ISRDユニットメンバー)

齋藤尭仁氏(京都大学・大学院教育学研究科・博士課程、ISRDユニットメンバー)

【2日目】Covid-19が社会に与えた影響を分析
2日目は、「Assessing the Role of Personal, Organization, and COVID-19 Stressors on Police Misconduct in Bosnia and Herzegovina.(ボスニアおよびヘルツェゴビナにおける警察の不祥事に関する個人的、組織的そしてCovid-19によるストレス要因の役割の評価)」と題したコトラヤ准教授の講演が行われました。この講演は、2023年5月に出版を予定している共著書『A global perspective on policing during the covid-19 pandemic』に収録される論文をもとにしたものです。コトラヤ准教授は「Covid-19における警察のガバナンス対応をテーマに、10カ国で収集したデータに加え、多数の国の犯罪学者に執筆を呼びかけた。包括的でグローバルな視点から考察した本が完成しそうだ」と述べました。また、コトラヤ准教授は緊張理論を用いながら、Covid-19流行期のボスニアにおいてどのような変化があったのかを、収集した統計データを示しながら説明しました。


Marijana Kotlaja准教授(アメリカ・ミズーリ大学カンサスシティ校)

Marijana Kotlaja准教授(アメリカ・ミズーリ大学カンサスシティ校)

2日間にわたる研究会はとても有意義なものとなりました。コトラヤ准教授に改めて御礼申し上げます。

[補注]
1.国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)は、非行経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクトです。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われています。さらに、国際比較によって、日本と諸外国との類似点や相違点を引き出すこともできます。ISRDプロジェクトは、青少年の非行防止対策を考える上で、有用な基礎的知見を提供します。
CrimRCのISRDユニットは、ISRD3を日本某所にて実施。その後、科研費(21H00785、研究代表者:津島昌弘)を取得し、現在は、ISRD4の実施に向けて活動しています。
参照:https://crimrc.ryukoku.ac.jp/isrd-japan/ (龍谷大学)
   https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H00785/ (KAKEN)

2.Marijana Kotlaja 氏(プロフィール)
コトラヤ氏は、2019年に刑事司法・犯罪学の博士号を取得し、現在は、ミズーリ大学で犯罪学を教えている。また、アメリカ犯罪学会・国際犯罪学部門において「Inter-News」の編集者も務めている。
主な研究テーマ:少年非行、異文化間比較、統計学
参照:https://search.missouristate.edu/people/marijanakotlaja (ミズーリ大学)

3.報告は、下記の文献をもとに行われた。
Marijana M. Kotlaja(2020)Cultural contexts of individualism vs. collectivism: Exploring the relationships between family bonding, supervision and deviance. European Journal of Criminology 17(3):288-305

4.報告は、下記の文献をもとに行われた。
齋藤尭仁「ISRD3日本データを用いたセルフコントロール理論の検証−家庭効果と性差に着目して−」『犯罪社会学研究』No.47、(2022年)、63−76頁